コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
放課後の教室には静かな時間が流れていた。日が傾き始め、窓から差し込む夕陽が机をオレンジ色に染める。
大橋先生は机の上に腰掛け、腕を組みながら教室に残っているいさなを見つめていた。
「お前さ、楽しそうにしてるけど、なんか抱えてんじゃねぇの?」
唐突にそう切り出され、いさなは椅子に座ったまま天井を見上げた。
「えー?俺が?先生、考えすぎだって。俺はどこでもイケるタイプだし~。」
軽い調子で言うものの、その目はどこか虚ろだった。
大橋先生は少しため息をつくと、机をポンと叩いて笑みを浮かべる。
「まあ、いいけどよ。バレバレだぞ?お前、楽しいことだけで生きてるフリしてるけど、ほんとは寂しがり屋だろ。」
その言葉にいさなは一瞬動きを止めた。だがすぐにいつもの調子で笑う。
「先生、俺のこと見抜いたみたいに言うけど、実際どうかな~?まぁ、先生はそういうの得意そうだしね。」
「お前みたいなガキ、山ほど見てきたからな。」
そう言いながらも、大橋先生の目は真剣だった。彼の胸の中では、整理しきれない感情が渦巻いていた。教師として生徒を大事に思うのは当然だが、いさなに対してだけは、特別な感情を抱いてしまっている。
「お前のいいところ、もっとちゃんと自分でわかれよ。」
「俺のいいところ?うーん、イケメンなとこ?」
「ちげぇよ!」と先生は笑いながら頭を軽く叩く。その仕草がどこか優しく、いさなは少しだけ驚いた表情を見せた。
一瞬、教室に沈黙が訪れる。いさなは窓の外に目をやり、ぽつりとつぶやく。
「先生ってさ…なんで俺にそんな構うの?」
その言葉に、大橋先生は返事に困ったように口を開けかけたが、結局ははぐらかした。
「教師として、だよ。それ以外になにがあるんだよ?」
「そっか。」
いさなは笑ってそう答えたが、その目には何かを探るような光が宿っていた。
夕陽が完全に沈み、教室に影が広がる頃、大橋先生は小さくつぶやいた。
「俺はお前のこと、もっと知りたいんだよな。」
その声は、もういさなには届かなかった。彼はすでに鞄を持って教室を出て行った後だったのだ。
先生の心の中に残ったのは、いさなの背中と自分の未熟な感情だった。
「教師失格かもしれねぇな、俺。」
そうつぶやきながら、彼は夜の教室を一人後にした。