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131 - 第131話 七の罪状 ~後編⑲ 兄をも超える力

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2025年06月19日

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それと同時の事だった。余りに一瞬の――突然の事。



「あぁぁぁっ――!!」



呆気に取られて反応出来なかった。否、速過ぎて気付けない程の。



刹那、琉月が飛び出していた。エンペラーへと向けて、その手には武具を携えて。



琉月はエンペラーと同様、通常は己の得物を異空間へ擬装している。



攻撃へと移る際、その真価を現す。



琉月が手に持つもの――



“長巻”



それは巨大な刃を持つ、長い形状の武具。薙刀と形状は通ずるものがあるが、女性の護身武具ともされた薙刀とは違い、長巻は剛の者しか扱えない重量を誇る、斬馬刀と二分する超重量武具の一つなのだ。



だが琉月の持つ長巻は、明らかに通常の長巻とは一線を画していた――。



「覚悟!!」



琉月は跳躍からエンペラーへ向けて、その長巻を振りかざす。エンペラーは僅かに反応が遅れた。それ程に、薊の身体能力をも上回る速度域。



――その桁外れの長さと厚みを誇る刃は、悠に五メートルは届こうかという代物。その形状と重量は、とても人間に操れるものではない。



これこそが鬼の力を持つ琉月のみが操れる、彼女のみの唯一専用武器――



“超重量巨大長巻――『羅刹姫』”



「るっ――琉月ちゃん!?」



やっと時雨が事態に気付いた頃には、既に琉月は降り下ろす間際。



「ちっ!」



反応の遅れたエンペラーは、即座に迎撃態勢に移る――が、琉月の一撃を“刀で受け止める”以外の選択肢が無かった。



“第二マックスオーバーレベル――『219%』か!”



そしてそれが薊をも越える力の一撃であろう事に、エンペラーも気を張る。



薊と同様、その巨大な刃に闘気を纏った鬼の一撃が、エンペラーへと降り下ろされる――



“鬼塵流奥義、絶鬼――蒼天覇断”



――それは言語を絶する、超絶的な威力の一撃。



エンペラーが刀で受け止めた瞬間、空間は破裂し大地は激しく揺れた。



「重い……ね。君の一撃は、正に魂の重さだ」



受け止めながら語るエンペラーだが、明らかに押されていた。何時もの余裕が感じられない。



「流石はこと破壊という一点に於いて、君の右に出る者は存在しないだけある。少々まずいね……これは」



「……そう、如何な貴方といえど、刀では受け止めきれません! このまま――」



“刀ごと押し潰す!!”



桁の外れたせめぎ合いは続く。上からの打ち下ろしと、それを受け止める下からの形では、重力の関係で前者有利が必然だが、それでも圧倒的な琉月の圧力。それを堪えるエンペラーも、やはり桁が外れているが。



「い、いける!」



「頑張れルヅキ~!」



それでも明らかに琉月が押しているのは、誰の目にも明らか。



「これでっ――終わりです!!」



琉月が更に圧力を強めた。巨大な刃全体が、蒼白く光り輝く――



“鬼塵流”



代々鬼の力と共に受け継がれてきた、表には存在しない裏の流派。



闘気を主流とする技の数々、その極意は絶大なる破壊力――それのみ。



琉月が奥義を全力で振り切った時、その威力は地殻変動災害の域を超え、地層の更に下――大陸プレートまでも打ち砕く威力を有する。



――それは正に押し潰す瞬間、誰もが琉月の勝利を確信した瞬間の事。



「フフ……。何時までもこんな馬鹿げた力に付き合う程、私は愚かではない――」



“――っ!?”



刹那、轟音と共に巻き込んだ。一瞬で砂煙が天高く舞い上がり、大地はかつて無い程、激しく揺れた。



「やったか?」



時雨がそう思うのも当然。完全に捉えたかに見えたから。



だが次の瞬間、信じられない光景が。



衝撃の中心点には、完全に降り下ろしきった琉月の姿と、その横で何事も無かったかのように立つエンペラー。しかもエンペラーは攻撃へと移る最中。



「ルヅキ~!!」



「琉月ちゃん!!」



もう割り込む事も、彼女自身が避ける事も間に合わない。全力で振り切った直後の硬直に於ける時間差。



「くっ――」



迫る一撃を前に、琉月は震撼しながら思う。



“まさかあの状態で、力を反らすなんて……”



それは信じ難い事だった。理屈としては正しくとも、そんな神業とも云える所業に。



琉月は改めて思い知るしかなかった。エンペラーの持つ、その底知れぬ実力の程を。



次の瞬間、刀を逆手に持ち変えたエンペラーの柄による一撃が、琉月の脇腹にめり込む。



「ぐぅ――はぁぁ!!」



それは第三者の耳にも、はっきりと聞こえた“何かが”砕ける音。琉月は嗚咽と共に吐血しながら、そのまま弾かれるように吹き飛ばされた。



「そ、そんな……」



武器を手離したまま横向けに倒れ微動だにしない琉月に、辺りはまるで時が止まったかのように凍りつく。巨大な長巻が、まるで彼女の墓標のようにただ、主を失い地に突き聳えていた。

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