テラーノベル
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トイレに駆け込んでから15分後、快斗はようやく顔の赤みを気合いで抑え込み、死にそうな顔で教室に戻ってきた。新一はといえば、スマホを机の上に裏返したまま、魂の抜けた顔で天井を見つめている。快斗は自分の席に座ると、震える指先で机の下からスマホを操作し、新一のあの特大カウンターへの「返信」を打ち込んだ。
(……もう、どうにでもなれッ!)
覚悟を決めて、送信ボタンを押す。その直後、新一の机の上でスマホが「ヴッ」と短く震えた。新一はビクッと肩を跳ね上げ、恐る恐る画面を表に返す。そこに表示された新着メッセージを一目見た瞬間、新一の細い身体が文字通りガチガチに硬直した。
『じゃあ、俺が黒羽快斗だったら、今夜迎えに行ってもいい?』
「ひっ……!?」
新一の口から、今までに聞いたこともないような情けない悲鳴が漏れた。顔の血の気が一気に引いたかと思えば、次の瞬間には、今までの人生で一番の熱量で顔面が真っ赤に染まっていく。
「な……っ、ななな、なんだよ、これ……ッ!!」
新一は頭を抱え、半狂乱になりながらスマホを睨みつけた。怪盗キッドからの、あまりにもタイミングが良すぎる、そしてあまりにも核心を突きすぎた、正体バレ寸前の超ギリギリな返信。新一の明晰な脳細胞が、あり得ないはずの可能性を弾き出そうとフル回転を始める。
昨日、自分がこの教室で黒羽に話した内容。さっき、自分が黒羽の目の前でキッドに送った返信。そして、その直後に届いた、この「黒羽快斗」という名前が入ったメッセージ。すべてが、あまりにも綺麗に繋がりすぎていた。新一はゴクリと唾を飲み込むと、スマホを握りしめたまま、隣の席に座る快斗の方をゆっくりと、恐る恐る振り返った。
「……おい、黒羽」
「ん、んあ? なんだよ工藤」
快斗は心臓が口から飛び出しそうなほどの緊張感を必死にポーカーフェイスの裏に隠し、わざとらしく小首を傾げてみせる。新一は真っ赤な顔のまま、けれどその瞳だけは、事件の真相に近づいた時の探偵のそれに変えて、ぼそっと小さく呟いた。
「……なぁ。もし、本当に……黒羽、お前がキッドならよかったのに」
「え……?」
「……おい、黒羽」
新一は机にじりじりと身を乗り出し、快斗の目を真っ直ぐに見つめて、核心を突く質問をぶつけてきた。
「お前……マジで、キッドだったりしねーか?」
ドクン、と教室の空気が一瞬で凍りついた。夕日よりも熱い新一の視線が、快斗の顔のパーツすべてをプロファイリングするように射抜いてくる。快斗の背中に、冷や汗がドッと溢れ出た。
(やっべぇえええええ!! さすがに勘が良すぎるだろ名探偵!! ギリギリを攻めすぎたッ!!)
ここで一歩間違えれば、自分の正体も、この歪で甘い関係も、すべてが白日の下に晒されてしまう。大怪盗としての、人生最大のピンチだった。快斗は一瞬だけ目を見開いた後、ふっと、いつもの意地悪でひょうきんな「黒羽快斗」の笑みを完璧に作り上げてみせた。
「ぶっ、はははは! 何言ってんだよ工藤! お前、キッドの手紙のせいでマジで頭おかしくなっちゃったわけ?」
快斗はわざとらしく新一の額に手を伸ばし、パタパタと手品のように、どこからともなく取り出した一輪の白い薔薇を新一の鼻先に突きつけた。
「俺がキッドなわけねーだろ? もし俺があいつなら、毎晩のお前の防犯トラップを全部事前にハッキングして、予告時間の前に、お前の寝室に忍び込んでとっくに拐(さらい)に行ってるっつーの。……ほら、これあげるから落ち着けって、名探偵(笑)」
「う、うるせぇ! 手品で誤魔化すな!」
新一は差し出された薔薇をひったくるように受け取ると、フイッと顔を背けて、また真っ赤になって机に突っ伏した。快斗の完璧なハッタリ(半分本音)によって、辛うじて正体への疑念は逸らせたようだったが、新一の心臓のバクバクは隣にいる快斗にまで伝わってくるほどだった。
「……ったく、あいつ、人のことからかいやがって……」
薔薇の茎をぎゅっと握りしめ、毛布にくるまるようにブレザーに顔を埋める新一。その無防備で愛らしい姿を見下ろしながら、快斗はポケットの中で、まだ熱を持ったスマホをそっと握りしめた。
(危ねぇ……。でも、新一。お前が『降伏してやる』って言ったんだからな。今夜、本当に快斗としてお前の家に迎えに行ったら、どんな顔すんの、お前……)
正体バレの極限のハラハラを抱えたまま、大怪盗と探偵の、じれったすぎる恋の駆け引きは、夜の帳が下りるのを静かに待ち侘びていた。
コメント
1件
読了しました!いやもう、ハラハラとドキドキが同時に来て心臓が持ちませんでした(笑)。新一が「黒羽、お前がキッドならよかったのに」って本音を漏らすところ、めちゃくちゃ胸に刺さりましたね。探偵としての勘が鋭すぎるのに、恋には鈍感で、しかもその直後に快斗が薔薇でごまかす手際の良さ……。お互いの立場が分かっているからこその駆け引きが本当に絶妙で、続きが気になって仕方ないです!
ユイ
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千導 渉
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サンフラワー
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