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僕は恋愛に自信がない。優しいだけで、選ばれない人間だと、何度も思い知らされてきたからだ。
だから今日、白石さんとデートができること自体が、僕にとっては奇跡に近かった。
映画館のロビーで待っていると、彼女が小走りでやってきた。
「春川さん!」
白いニットに、赤のチェックのスカート。
……いつも以上に可愛い。反則だ。
「お待たせしました。映画、楽しみですね」
「はい。口コミでも『男たちの熱い絆に泣ける』って評判らしくて」
よし。落ち着け。
チケットを渡し、席に向かう。
暗くなる館内。
隣に座る彼女との距離は、思ったより近い。
映画館の暗闇って、どうしてこうも心臓の音を増幅させるんだろう。
やがて上映が始まった。
最初は順調だった。
銃撃戦とカーチェイス、緊迫した雰囲気。
——問題が起きたのは、十五分後だった。
画面が急に暗転する。
次の瞬間。
(……え?)
予告編には一切なかった、濃厚すぎるラブシーンが始まった。
(……いや、待て)
これは想定外だ。
僕はちゃんと確認したはずだった。
「男たちの友情に感動」
「硬派なアクション」
「大人向けの人間ドラマ」
誰だ。一体誰がこの“友情”をそう定義した。
(友情って、こんなに吐息近かったっけ?)
カメラはなぜか、男と男の距離をやけに丁寧に、執拗に映し出す。
(ちょっと待て待て待て……!)
画面の中では、視線が絡み合い、指先が触れ、意味深な沈黙が流れる。
(これは……絆じゃない。完全に別ジャンルだ)
終わった。完全に終わった。
僕は一秒でも早くエンドロールが流れることを、冷や汗をかきながら祈り続けた。
***
館内が明るくなったとたん、僕は全力で息を吸い直した。
酸素が、うまい。
恐る恐る隣を見る。
白石さんは、どこか恍惚とした表情でスクリーンを見つめていた。
「……春川さん」
「は、はい」
「ありがとうございます」
その声がやけに柔らかい。
「今日、いっぱいネタが潤いました」
潤う。
その言葉を、僕は頭の中で何度も反芻した。
潤うって、何が? どこが?
……でも。
彼女が楽しそうなら、それでいいと思ってしまう自分がいた。
「……そ、そうなんですね」
笑うべきか、謝るべきか、土下座すべきか分からず、とりあえず真面目に頷いた。