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《アメリカ・ホワイトハウス 安全保障会議》
ホワイトハウスの戦略会議室。
壁に映る地球の投影には、赤い線がはっきりと重なっていた。
オメガ、衝突確率15.3%。
「もう“想定外”ではない。」
ルース大統領が低く言った。
「NASAは“対策準備段階”に入れ。」
科学顧問が頷く。
「“キネティック・インパクター計画”を再稼働させます。
ただし、予算と政治判断が必要です。」
「政治判断なら、今ここでする。」
ルースは短く言い切った。
「アメリカが動けば、他国も追随する。
特に――日本には情報を流しておけ。」
補佐官がためらいがちに言う。
「日本はまだ“沈黙方針”です。
国民パニックを避けたいと。」
ルースは皮肉な笑みを浮かべた。
「沈黙で世界は救えない。だが沈黙で国は守れる……か。
どちらも正しい。だからこそ、やっかいだ。」
《日本・総理官邸 執務室》
朝のニュースでは、経済報道が流れていた。
まだ“隕石”の「い」の字もない。
だが、官邸の空気は張りつめていた。
外務大臣・田島が報告書を机に置く。
「アメリカが“軌道偏向計画”を再始動するようです。
まだ公式発表ではありませんが。」
サクラは眉をひそめた。
「つまり、先に動いたのね。」
田島が頷く。
「彼らは“科学のリード”を失いたくない。
でも裏を返せば、アメリカ自身も“恐れている”証拠です。」
危機管理監の藤原が口を開く。
「総理、アメリカの動きを止めることはできません。
むしろ、日本として“協力の姿勢”を示すべきです。」
黒川教授が補足する。
「技術的には、我々だけで偏向作戦を行うのは難しい。
だが、打ち上げ計画に参加すれば、
“観測権限”を得られます。」
サクラは静かに考え込んだ。
「……つまり、“動かないままでは置いていかれる”。」
中園広報官が資料を開く。
「SNSでは“オメガ”の検索数が急上昇しています。
“NASAが発表前に何か動いている”という噂も。」
「火の手が上がり始めたのね。」
サクラはゆっくり立ち上がった。
「なら、こちらも“動くふり”だけでも見せる時よ。」
藤原が首を傾げる。
「“ふり”とは?」
「“本気でやる”とは言ってないわ。」
サクラは小さく笑った。
「外交は、沈黙と演技の使い分けがすべてよ。」
《日本・JAXA/ISAS 相模原キャンパス(軌道計算・惑星防衛)》
観測室の空気がざわついていた。
「NASAが軌道変更計画を再稼働……?」 誰かが声を上げる。
白鳥レイナはその声に応えた。
「正式発表ではないけど、あり得る話。
DART計画の改良版“アストレア計画”が再始動する可能性が高い。」
若手職員が尋ねた。
「私たちはどうしますか?」
白鳥は腕を組む。
「日本独自の観測データを持ってる。
だから、アメリカの“パートナー”になるか、“観測だけの傍観者”になるか――。」
その言葉に、部屋が静まった。
背後で城ヶ崎が言う。
「……どうせ、上が決める。」
白鳥は彼を振り返る。
「悠真、あなた何か抱えてるでしょ。」
「抱えてません。」
「あなたの“目”がそう言ってない。」
城ヶ崎は視線を逸らした。
「主任は信じてくれるんですか。
僕が、“本当にこれを見た”って言っても。」
白鳥は一瞬、息を止めた。
彼が“あのデータ”をまだ消していないと気づいた。
《東京・記者クラブ》
桐生誠の机に、一通の匿名メールが届いた。
件名:“オメガ、地球接近確定。公表されていない。”
本文には、軌道グラフと確率値、そして一行だけ――
“国民には、知る権利がある。”
桐生は凍りついた。
「これ……本物だ。」
同僚が声を上げた。
「それ、デマの類じゃないのか?」
「フォント、座標表記、JAXA形式。
内部の人間じゃなきゃ書けない。」
「掲載する気か?」
「いや、まだ。……でも、誰かが止められてる。
それが一番怖い。」
画面のニュースでは、アメリカ大統領ルースが会見を開いていた。
“プラネタリーディフェンス、惑星防衛協力のため、国際観測連携を強化する”。
その一文だけが報じられ、映像は途切れた。
《日本・総理官邸 夜》
藤原が入室する。
「総理、ルース大統領が“プラネタリーディフェンス国際連携声明”を出しました。
報道機関は“日米共同作戦”と受け取っています。」
サクラはため息をついた。
「まだ何も決まってないのに、世界はもう勝手に物語を作るのね。」
「どうしますか?」
「演じるわ。“物語の主役”として。」
中園が苦笑する。
「上手く乗れば、世論を掴めます。」
サクラは頷いた。
「ええ。政治とは、“真実の一歩手前”を歩く仕事だから。」
《JAXA屋上・深夜》
城ヶ崎はスマートフォンを取り出した。
アカウント名:@truth_is_light_。
指先が震える。
投稿欄に文字が打ち込まれていく。
「直径220m、衝突確率15%。
NASAもJAXAも知っている。
だが、誰も言わない。#地球終了まであと100日」
送信。
画面が切り替わる。
“投稿を送信しました”。
夜風が吹き抜ける。
彼は空を見上げた。
そこには、星のような光が――ほんの一瞬だけ、流れた気がした。
本作はフィクションであり、実在の団体・施設名は物語上の演出として登場します。実在の団体等が本作を推奨・保証するものではありません。
This is a work of fiction. Names of real organizations and facilities are used for realism only and do not imply endorsement.
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