クリスマス目前の今、来年の結婚式に向けて様々な準備を進めている途中だ。
それとは別に、芳乃が一年前にNYで悲しいクリスマスを送ったと知っていたから、この年末年始は彼女が喜んでくれそうなデートプランを考えている。
しかし年末年始はホテルの繁忙期なので、それとは別に一月に纏まった休みをとり、温泉にでも行こうと計画を練っていた。
「ウエディングドレス用の下着もあるんだろ? 俺は知っている……」
「んもぉ、そういう所はしっかりしてるんだから」
芳乃はクスクス笑い、俺の腕を叩く。
「愛してるよ、芳乃」
俺は彼女の耳元で囁き、芳乃の顎を捉えて振り向かせるとキスをする。
しばし彼女の唇を味わったあと、俺は雑誌を横に置いて芳乃を押し倒した。
「……見てる途中なのに……」
ニットワンピースの裾から手を入れると、芳乃は恥じらいながら言う。
俺は滑らかな素肌を感じながら、愛しい女性の香りをそっと吸い込んだ。
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三年前、俺は芳乃がNYに発ったと知ると、すぐに現地にいる知り合いに連絡をした。
そして彼女が〝ターナー&リゾーツ〟に就職したと知ると、徹底的に経営者一族を調べた。
俺は海外にも友人がいて、出張の時は様々な人と会って情報を得ていた。
富裕層には広いネットワークがあり、旨い話も醜聞も、望めば耳に入ってくる。
どうやら長男のウィリアムは、一応仕事はできるものの、会社を大きく成長させる器ではなく、良くない噂もある男らしい。
逆に兄に抑圧されている弟のほうが、縁の下の力持ち的な優秀さがあり、堅実な考えを持っていると知った。
やがて芳乃はウィリアムの毒牙に引っ掛かり、俺は彼を排除する事を考えた。
その時に手を組んだのがマーティンだ。
彼としても適当な兄に会社を任せたくないようで、俺がウィリアムを排除し、ターナー家と神楽坂グループが良い関係を結べる提案をすると、乗ってくれた。
そのようにして、俺はグレースとマーティンの協力を得て、ウィリアムを排除する事に成功したのだ。
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暁人に愛撫を受けて吐息をついていた時、彼が「そうだ」と顔を上げたのを見て瞬きをする。
「どうしたの?」
尋ねると、彼はベッドサイドの引き出しから、ハイブランドのショッパーを出した。
「これ、あげる」
「何……? ありがとう」
ドキドキしてショッパーを受け取ると、中には細長い箱が入っている。
ベルベッドの袋を取ると、白地にピンクの薔薇が描かれた、美しいリップケースが出てきた。
色を確認してみると、ツヤのあるローズピンクのリップだ。
「芳乃はNYのホテルで使っていた赤いリップが嫌になったんだろ?」
サラリと髪を撫でられ、私は微妙な顔で頷く。
「もう向こうに縛られなくていい。芳乃の優しげな顔立ちに合った色を選んでみたから、今度からはこれをつけて」
「うん……!」
私は滲んだ涙を拭い、笑顔で頷いた。
「つけてあげる。少し口を開けて」
言われた通りにすると、暁人は唇の輪郭に沿ってリップを塗ったあと、縦にちょんちょんと塗り潰してくる。
「鏡、見て」
言われて暁人と一緒にベッドから下りると、私は洗面所に向かう。
鏡の中には、日本人らしいあまり派手ではない顔立ちの私が写っている。
リップは主張しすぎず、肌の色を健康的に見せてくれていた。
「……いい、……かも」
「『いいかも』じゃなくて、似合ってるんだよ」
暁人はそう言うと、リップを塗ったばかりの唇にキスをしてきた。
思わず彼の肩を押すと、暁人の唇にリップがうつってしまっている。
「もぉ……」
赤面してうなると、暁人は悪戯っぽく笑い、またキスをしてきた。
窓の外では雪が降っている。
トラウマになったクリスマスソングも、今は暁人と一緒にワクワクして聴く事ができている。
リップへの苦手感も、暁人が克服させてくれた。
「ありがとう」
私は沢山のものを与えてくれた暁人にお礼を言い、彼の首に両手をまわすと気持ちを込めてキスをした。
完
コメント
2件
素敵な作品ありがとうございました💏
素敵な作品をありがとうございました💕とても楽しませていただきました♪ レティとか字は違うけどあきととか、聞いたことのある名前が〜 同時に何作も進行している臣桜先生の頭のなかを見てみたいです👀