テラーノベル
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ゆうき あきや
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第30話:大福食品からの追加案件〜四畳半の要塞と、ニンニクの壁〜
三十万円のハイエンドPCを手に入れ、自身の圧倒的な「老い」と「実力不足」を四万人のリスナーに晒し上げてから数日。
三月下旬とはいえ、北海道の春はまだ遠く、外にはうっすらと雪が残る肌寒い日の午後だった。
俺が四畳半の万年床で、スマホの広告をポチポチとタップして小銭を稼ぐという昔ながらの日課(現実逃避)をこなしていると、玄関のチャイムがけたたましく鳴り響いた。
「ん……? 鈴木さんか?」
ケースワーカーの抜き打ち訪問に怯えながら、そっとドアスコープを覗き込む。
そこに立っていたのは、見慣れた制服を着た宅配業者の兄ちゃんだった。だが、その顔はなぜかひどく引きつり、額には季節外れの汗が滲んでいる。
「ルシフェル……様、ですね。お荷物のお届けです」
「あ、はい。ご苦労さま……って、は?」
ドアを開けた俺は、目の前の光景に絶句した。
兄ちゃんの背後、アパートの狭い廊下を完全に塞ぐようにして、巨大なダンボール箱のタワーがそびえ立っていたのだ。その数、ざっと数えても十箱はある。
「あの、これ……全部ウチですか?」
「はい。送り主は『大福食品株式会社・PR広報部』様からとなっております。……ここにサインをお願いします」
大福食品。
その名を聞いた瞬間、俺の脳裏に、あの『限界みそラーメン』を頬張ったままPCがフリーズし、四万人の前で大放送事故を起こしたトラウマが蘇った。
「うわあああ! 違約金だ! 案件中に放送事故を起こしたせいで、返品された在庫の山を北海道の果てまで送りつけられたんだ!!」
俺が頭を抱えてパニックになっている間に、無情にも十箱のダンボールは四畳半の部屋へと運び込まれてしまった。
兄ちゃんが去った後、部屋の面積の半分を占拠する茶色い壁を前に、俺は絶望的な気分で一番上のダンボールに貼り付けられていた封筒を開けた。
中には、大福食品のロゴが入った立派な便箋と、一枚の書類が入っていた。
『ルシフェル様
先日は、弊社の「限界みそラーメン」のPR配信、誠にありがとうございました!
広報部一同、固唾を呑んで配信を見守っておりましたが……まさか、あんなに素晴らしい「笑いの神」が降りてくるとは夢にも思いませんでした。
麺をくわえたままフリーズしたあの一枚絵は、SNSでまたたく間に拡散され、なんと翌日の限界みそラーメンの全国売り上げが前週比の300%を記録するという、弊社史上類を見ない大バズりを巻き起こしました!』
「……は?」
俺は目を瞬かせ、もう一度文章を読み直した。
怒られていない? むしろ、あの放送事故のせいでラーメンが爆売れしただと?
『この多大なる貢献に感謝し、心ばかりですが「限界みそラーメン・五食パック×四十袋(200食)」を贈呈させていただきます。
また、契約時の報酬とは別に、特別ボーナスを振り込ませていただきました。明細を同封しておりますのでご確認ください。
今後とも、ルシフェル様のご活躍を陰ながら応援しております! 大福食品広報部より』
俺は震える手で、便箋の後ろに入っていた明細書を見た。
『特別PR報酬:500,000円』
「ご、ごひゃく、まん……じゃなくて、ごじゅうまんえん!!?」
俺の口から、ヒキガエルが潰れたような声が漏れた。
元の案件報酬と合わせて、とんでもない額面である。三十万のPCを買って傷ついていた心が、一瞬にして黄金色に輝き始めた。
「っしゃあああああ!! 見たかお前ら! これがプロのインフルエンサーだ! 放送事故すらもエンタメに変える、俺の圧倒的なカリスマ性が大企業を動かしたんだよ!!」
誰もいない部屋でガッツポーズを決め、歓喜の舞を踊る。
だが。
俺のステップは、背後の『壁』にぶつかってドンッと止められた。
「痛っ……」
振り返ると、そこには天井まで届きそうなダンボールの山。
そう、金は確かに振り込まれたが、同時に物理的な「200食分の限界みそラーメン」という現実が、この狭い四畳半を完全に制圧していたのだ。
「……これ、どうすんの?」
部屋には、三十万円の巨大なデスクトップPCと、ゲーミングチェアが鎮座している。
そこにさらに十箱のダンボールが追加された結果、俺の生活スペースは、文字通り「布団が一枚敷けるかどうか」という劣悪な環境にまで圧縮されていた。
しかも、ダンボールからは、あの凶悪な「超ニンニク背脂」の匂いが微かに漏れ出している。
その日の夜。
俺は、ダンボールで四方を囲まれた要塞のようなスペースの中から、配信枠を取っていた。
『【歓喜と絶望】大福食品様から追加報酬と、凄まじい「現物」が届きました』
配信が始まると同時に、俺の背後にそびえ立つダンボールの壁を見たリスナーたちが、腹を抱えて笑い転げ始めた。
『ちょwww 部屋どうなってんのwww』
『おっさん、要塞に立てこもってて草』
『背景が完全にAmazonの倉庫』
『PC三十万なのに、部屋が段ボールハウスってどういうことだよww』
『大福食品さん、やりすぎですwww』
「笑い事じゃねえよ! お前らの大好きな限界みそラーメンだぞ! 見ろよこれ、ベッドの横もラーメン! PCの裏もラーメン! もうゲシュタルト崩壊しそうなんだよ!」
俺はカメラの向きを変え、部屋の惨状をリスナーに叩きつけた。
「いいか!? 俺は今日から、このダンボールの隙間で寝起きしなきゃならねえんだ! 鈴木さんが次に家庭訪問に来たら、『ルシフェルさん、ついにカップ麺の卸売業者になったんですか?』って絶対に怪しまれるだろ!」
『wwwwwwww』
『完全に仕入れ業者』
『転売ヤーを疑われるおっさん』
『経費で倉庫借りろww』
「倉庫なんか借りたらまた税金のこと考えなきゃならねえだろ! バカ! お前らが案件中にフリーズした俺を笑いものにしてバズらせた結果がこれだよ! 責任取って、お前らも限界みそラーメン毎日三食食え!!」
リスナーとのプロレスに花を咲かせながら、俺は深い溜息をついた。
稼げば稼ぐほど、税金という見えない敵に怯え、そして物理的な「案件の品」に生活空間を奪われていく。
これが、インフルエンサーの光と影というやつか。
だが、これで一件落着……とはならなかった。
ダンボール要塞の中からリスナーと雑談をしている最中、新調したばかりのデュアルモニターの片隅に、一通の新着メールの通知がポップアップしたのだ。
差出人の名前を見て、俺の心臓がドクンと大きく跳ねた。
『件名:【重要】コラボ配信の打診につきまして(株式会社スターダスト・プロダクション)』
「え……?」
スターダスト・プロダクション。
それは、VTuber業界に少しでも明るい者なら誰でも知っている、超大手の企業勢事務所。
そして、その所属タレントの中には――かつて俺のチャンネルに直凸(ダイレクトメッセージ)してきて、【限界人生相談コラボ】で大号泣した、あのトップアイドルだ。
「……おい、お前ら」
俺の顔から、スッと血の気が引いていく。
「なんか……すげえ所から、メールが来たんだけど」
『どうした?』
『税務署か?(ワクワク)』
『鈴木さんから呼び出し?』
「違う……。星乃宮……アリスの、運営事務所、からだ」
チャット欄の動きが、一瞬だけピタリと止まった。
そして次の瞬間、過去最大の弾幕と赤スパの嵐が、俺の三十万円のPCの処理能力を試すかのように、画面を埋め尽くしたのだった。
コメント
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美月ゆめかだよ〜!!🌸✨ 第30話読み終えたんだけど、もうね、最初から最後まで笑いが止まらんかった!!😭💕 大福食品からの追加案件、まさかあの放送事故がバズって売上300%アップとか、神展開すぎるでしょ!!「ごじゅうまんえん!?」って叫ぶルシフェルの声、脳内再生されたわww でもその後が「四畳半の要塞」って…ダンボールに囲まれて生活って、インフルエンサーの光と影をリアルに見せつけられてる感じがもう最高にエモかった🥺✨ そしてラストのスターダストからのメール!? あの星乃宮アリスとの再コラボの予感とか…! 続きが気になって今夜眠れそうにないよ!!😭💕 ゆうきあきやさん、今回も神回をありがとうございます! 次の更新、心待ちにしてますね〜⋆♡