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ぺいんちゅ✕ばんがい
秋が過ぎてきて、一段と寒くなるこの季節。
俺が住むチャイナタウンは、上着を着ないと肌寒い、くらいの気温になっていた。
カラースプレーを持つ手が悴んで、絵が描きにくい。
しばらく前から、描き続けている芸術が広がる橋の下。
都会といえども、都心から少し離れているから、後ろで川が流れる音しか聞こえない。
服も手も指先も全部が絵の具や、カラースプレーで汚れているからか、それとも、橋の下なんぞに興味がないのか、俺に話しかけてくるやつなんて、一人もいなかった。
今日も、絵を描きに橋の下に行った。
しかし、そこには先客がいた。
赤色の、絵の具…?
俺と同じように、絵の具が服にも顔にも体にも手にも、傘にも、全部汚れている人が俺の絵を眺めていた。
珍しい。 と思いながら近づくと、話しかける前に、目があった。
俺よりは小さいが、ほぼ変わらないくらいの身長。
髪は、焦茶色で毛先にかけて黄色のグラデがかかっている。
前髪は流していて、シニヨンだ。
普通に顔はイケメンだとは思うが、今頃珍しい、ゴリゴリのチャイナ服を着ている。
「…そこで、何してるん」
無口系イケメンだろうか。
俺をじっと見つめるだけで、なにも応えようとしない。
「……何もしていない。」
硬いような、そんな口調。
声は、低めで特徴的だ。
「、この絵見てたよな? お前、絵に興味あるん?」
少し間を取って話し始める。
「…お前が描いたのか?」
お前、という言葉が癪に触る。
「俺が描いたんやけど。 お前、って言い方やめてくれへん?」
多少考えたような顔をする。
「…まろ。」
「は?」
「、まろって呼ぶ。」
タジタジになりながら、そうはっきりと言った。
「まあ、ええけど、じゃあ俺はなんて呼べばええん」
そう言うと、彼は少し困ったような表情をした。
「名前…は、疾うの昔に忘れた。」
「今はなんて呼ばれてるん?」
「、黒獅子」
正直、かっこいい、と思ってしまった。
雰囲気が、一匹狼と思えるほどのかっこよさが彼にはあった。
「じゃあ、アニキって呼ぶね」
豆鉄砲を食らったような顔をする彼。
俺だって、変なあだ名つけられたやから。
「俺、もうそろ絵描きたいんやけど。」
顎で、絵を差せば彼は、「あぁ」と声を漏らした。
「…じゃあな、まろ。」
そう言い残して、彼はどこかへ行ってしまった。
俺はまた橋の下に行く。
雨でも風邪でも毎日のように”アニキ”がいる。
そんな生活を繰り返しているうちに、すっかり顔見知りになってしまった。
ちなみに、”まろ”というのは、昔、野良猫に付けてた名前らしい。
あれから何日か経った日。
いつものように橋の下に行く。
しばらく、絵を描いているが、アニキが来る気配がない。
いつも作業を終わらせる頃合いになっても、最終的に誰もこなかった。
今日は、忙しかったからこなかった。そう思えば済む話だが、なぜか今日は胸騒ぎがした。
前に、アニキが何かあったらここへ来い。 とか言って、渡してきた紙を広げる。
「…ここかな」
チャイナタウンの奥の方にある、古びたビル。彼がいつもその一角にいると話していたが、訪れるのは初めてだった。
紙には、最上階と書かれていた。
階段を上がっていくとわかったが、ここは商業系のビルだろうか、事務所の名前が沢山書かれていた。
最上階につき、緊張しながらも、ドアをノックしたが、しばらく、人が出てくる気配がなかった。
やっぱり忙しかっただけかな。 とか思いながら階段がある方へ身を翻そうとした瞬間、かすかな声とともにドアが空いた。
「…まろ?」
ドアから覗く彼の額には熱で赤くなった汗が滲んでいる。
どうやら、高熱を出しているようだ。
「何で来たん?」と弱弱しい声で問いかけられる。
アニキは普段、アクセサリーやメイクなどでを身にまとっているが、今は装飾もメイクもしていないからか、別人のように思えた。
メイクや、装飾をつけている姿はべっぴんさんという言葉が似合うような人だったが、今はイケメンという言葉がしっくり来る。
「アニキが来ないから心配になった。」
アニキは顔をしかめたが、どこか恥ずかしそうに見えた。
重そうなドアを人一人通れるくらいまで開けてくれたから、俺は家に入っていった。
廊下を壁伝いにふらふらと歩くアニキ。
本当に体調が悪そうにしている。
アニキについていくと、寝室のような場所についた。
アニキは、残業終わりのサラリーマンくらいきれいにベッドに倒れ込んだ。
俺はそのベッドの脇に座って、部屋を見渡してみる。
結構でかいベッドに、埃の被った山積みの本や、紙。
埃の被ったデスクには、見慣れたアクセサリーや鏡、ピアスや香水などが並んでいた。
部屋の隅…というか、部屋の大半には袋詰めにされたペットボトルや、紙ゴミなどがまとめて散らかっている。
床は、行動範囲以外に埃が被っている状態で、誰が見ても行動範囲が丸わかりだ。
俺は寝室から出て、一個ずつ部屋を開けていった。
埃以外に何もない部屋が何個か。
手洗い場。 バスルーム。
そして、広々とした部屋…リビング。
リビングには、ソファに服やタオルなどが掛かっている
その中からきれいなタオルを2枚ほど引っ張り出す。
シンクのラックに掛かっている桶に水を張って、その中にタオルを入れ、濡らす。
それを持って寝室へと向かう。
先程からほとんど変わらない、うつ伏せの状態でアニキは眠っている。
アニキの下に敷かれた布団を引っ張り出す。
その次に、アニキを仰向けにする。
やはり、シンプルにイケメン。
水に浸したタオルをキツく絞り、額にのせる。
もう一枚のタオルで汗を拭う。
苦しそうに息をしていて、汗がすごい。
しばらくすると、彼はうっすらと目を開けた。
先程よりも顔色が悪い。
「まろ。」
少しかすれてる声。
「なあに。」
そう陽気に返事をすると、不服そうに顔を顰める。
「なぁ、お前は殺されるような事をしたか?」
遠くを見つめて、独り言のようにつぶやかれる。
正直、心当たりがないわけではない。
それを感じ取ったようにアニキは、言葉を続ける。
「…お前を殺す、と言ったらまろはどうする?」
「抵抗する。」
その言葉を聞いたアニキは少し驚いたような顔を見せて、フッと笑った。
「俺は、そういう仕事をしているんだ。
俺の感情なんて関係無しに、紙一枚と金で俺は、人を殺す。」
少し寂しそうな、顔をして、アニキは目を細める。
「なぁ。 俺を殺してくれないか?」
なんでそんな物騒な思考にたどり着くんだ。
そんな俺のツッコミを気にせず、アニキは腕を目に被せ、続けた。
「俺は…お前を殺せない。」
声が震えていた。
「…今、お前を襲えば、殺してくれる?」
アニキは、今葛藤をしているのだろう。
「…アニキはさ、なんで殺し屋になったん?」
「…それしか道がなかったから。」
あぁ。 ”俺と似ている” 。
「でも、今は違うでしょ?」
「逃げよう。こんな生活は終わりにしてさ。」
アニキは、驚いている様子だった。
「逃げるって…」
困ったように言うアニキ。
「…じゃあ、少し昔話でもしようか。」
アニキは、キョトンとしている。
俺はふわっと笑って、昔のことを思い出していく。
昔、小さい時…と言っても10才くらいの時。
俺は、両親を亡くした。
俺が捨てられたのか、両親が死んだのか知らないけど、俺は一人で露頭に彷徨っていた。
そんな時に、殺し屋に出会って、俺は殺し屋に育て上げられた。
知らない人がこの世から消えても、何も思わなかった。
それだから、なのだろうか。
殺し屋を初めて、5年くらいたった時から、『冷徹の殺し屋』なんて、呼ばれてた。
上から言われた通りに言われた人を言われた殺し方で殺っていく。
そんな生活が、何年と続いた。
でも、そんな生活に転機が訪れた。
ターゲットが、橋の下で、壁一面に絵を描いていた。
絵こそ、何が描かれていたのか覚えてないけど、生まれて初めて、きれいだと思った。
絵の具の使い方なんて、全く知らないから、俺はそのターゲットの血液で、絵を描いた。
俺は、上からの命令も無視して、夢中で絵を描いているうちに、情報漏洩を防ぐためなのか、知らないけど、同僚に殺されそうになった。
もちろん、一緒に行動したこともある同僚が、俺を殺すことも、殺されることもできなかったんだけど。
そのまま、俺はこの地域に逃げてきた。
「…俺の人生はこんな感じやな。」
アニキは笑いも泣きもしずに、ただ静かにしている。
「な。 俺についてきてや! お前が治ったら、一緒に行こう!」
アニキは小さく微笑んだ。「ありがとな、まろ。」
その日、二人で、一緒に歩んでいく平和な世界が透かして見えたような、そんな気がした。
「って言うのが俺と、ゆーすけの馴れ初め♡」
きゃっ♡と、わざとらしく赤く染めた頬を隠すように、両手を添えて、微笑むまろちゃん。
「相変わらず悠くん愛強いですな。 まろちゃんは。」
えへへー♡と照れるように言う。 褒めてねえよ。
やばいバカップルのリア充談を聞かされるこっちの身にもなれってんだよ。
「しょーう?」
ないちゃんが、洗面所から顔を出す。
ぴょこぴょこと跳ねる桃色の髪がてえてえ。
「今日の香水なにがいいー? ピアスは? ネイルとか、ヘアセットとか! 決めて〜」
「はいはーい今行きますよーっと。 まあまあ。せっかく運命の出会いなんだから大事になー?」
まろちゃんは、聞いてないような反応をしたが、少し目を細めて、ふんわりと優しく笑ったような、そんな気がした。
「んじゃ、俺は愛しの悠佑に会いにでも行きましょうかね。」
そうやって立ち上がろうとするから、一つだけ言ってあげる。
俺優しい。
「たしか、今日はいむくんとりうちゃんが、悠くんを着せ替え人形にして、デートで連れ回す〜言うてたで。」
ないちゃんの髪を手櫛で撫で遊びながら言うと、むすっと怒って、座り直したまろちゃんでした。
「俺のアニキなんにー!!」
コメント
1件
よかった……! チャイナタウンの橋の下、絵の具まみれの二人の出会いから、まさか♡♡♡屋の過去と“逃げよう”という約束に繋がるとは。アニキが「お前を♡♡♡ない」って震えながら言うところ、すごく響いた。最後のバカップル談義で一気に空気が変わるところも好きだな。暮らしや造形のディテールがしっかりしてて、世界に引き込まれたよ。
#なりきり部屋