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 朝。倉庫の扉が開く音が、いやに重く響いた。
「起きた? 今日、初仕事だってさ。……ちゃんと下着、替えてきた?」


「なんでだよ」


 Getの第一声がこれだ。スーツに赤いコート、フェドラ帽にサングラス。完璧なマフィア風情なのに、口から出るのは相変わらずのアレ。


「だってさ。今日は撃ち合い。撃つってことは、出すってことでしょ?」


「無理があるだろその理屈」


 


 Dillがメモ帳をパタンと閉じて、俺にだけ視線を投げた。


「今日の任務:ケース回収と処理。対立組織の“末端処理”が予想されます。覚悟を」


 それだけ。短く、冷たい。


 でもその横で、Miriがスッと顔を近づけてきた。


「ねえ、ケースに触れたらだめだよ? ボスの匂いが、まだ染みてるかもしれないから……♡」


「どんだけ執着してんだよお前……」


 


 さらに、デメが無言で立ち上がる。黒い帽子で顔の半分以上が隠れてる。喋らないし、感情もない。だがミリが彼に言った。


「ねえ、デメ。人間の“発情”って知ってる?」


「……それは、ナイフで刺すと出る液体の一種ですか?」


「それ、知識が終わってるんだよ」


 



 


 そして今日も、テスタは会議室のソファで全身ロープ巻きになって転がっていた。


「やだやだ〜! おれ、ただボスのコップを舐めただけだもん〜!」


「だからだろ」


 Getが淡々と返す。


「次は洗ってから舐めろって言ったじゃん。常識だよ、常識」


「いやいやそもそも舐めるなよ」


 


 メントがその横で、やや引いた顔をしていた。


「なんか……テンションおかしくないすか、みんな。おれだけ、別の映画見てる気分なんですけど」


「慣れるよ」

 Dillが言う。

「脳が壊れる方が、組織では生きやすい」


 



 


 任務先、郊外の坂の上。


 銃声が聞こえた瞬間——一切の笑いが消えた。

 Getはすでに構えていて、デメが一人目を無言で仕留める。ミリのナイフが、一人を静かに沈めた。


 テスタはロープのまま転がりながら「わーい」って叫びながら銃をぶっ放す。

 その様子は……どこか、楽しそうでさえあった。


 


 俺は、正直に言って、震えた。


 だけど、それ以上に冷静だった。


 撃った。


 一人。


 撃たなきゃ、俺が死ぬ。


 


「上出来だね。ちゃんと出せたじゃん、命の代償を」


 Getが笑う。ふざけてるようで、どこか優しかった。


「そう、こういうのはね……準備もいらない。“感じたら、撃つ”。それだけで十分」


「……なんかお前のその言い回し、いやらしいんだけど」


「感じた?」


「うるせぇよ」


 



 


 帰路。空は変わらず、平穏だった。


「……あ、そういえばさ」

 ミリがポツリと呟いた。

「今日のケース、何入ってたか気にならない?」


「……怖いから気にしない」


「え〜もしかしたらさ、ボスの使用済み──」


「やめろ!!」


「何も言ってないよ?♡」


 



 


 夜。

 アルタリアの会議室。

 ボス・Townの姿はなかったが、その“気配”だけは、どこかに残っていた。


 


 俺はひとり、銃を磨いていた。手が止まらない。震えも、止まらない。

 それでも、背後からGetの声が聞こえた瞬間——安心してしまった。


「……次も、楽しみにしてるよ。ね、“初めて”って、いつまでも忘れられないからさ」


 


——俺はこの世界に、ちょっとずつ馴染んでいく。

 下品な会話と、完璧な殺意。その間にある、奇妙な心地よさに。


 


──【第2話:完】──


ALTARIA ―沈黙と猥談の国―』

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