テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
朝。倉庫の扉が開く音が、いやに重く響いた。
「起きた? 今日、初仕事だってさ。……ちゃんと下着、替えてきた?」
「なんでだよ」
Getの第一声がこれだ。スーツに赤いコート、フェドラ帽にサングラス。完璧なマフィア風情なのに、口から出るのは相変わらずのアレ。
「だってさ。今日は撃ち合い。撃つってことは、出すってことでしょ?」
「無理があるだろその理屈」
Dillがメモ帳をパタンと閉じて、俺にだけ視線を投げた。
「今日の任務:ケース回収と処理。対立組織の“末端処理”が予想されます。覚悟を」
それだけ。短く、冷たい。
でもその横で、Miriがスッと顔を近づけてきた。
「ねえ、ケースに触れたらだめだよ? ボスの匂いが、まだ染みてるかもしれないから……♡」
「どんだけ執着してんだよお前……」
さらに、デメが無言で立ち上がる。黒い帽子で顔の半分以上が隠れてる。喋らないし、感情もない。だがミリが彼に言った。
「ねえ、デメ。人間の“発情”って知ってる?」
「……それは、ナイフで刺すと出る液体の一種ですか?」
「それ、知識が終わってるんだよ」
◆
そして今日も、テスタは会議室のソファで全身ロープ巻きになって転がっていた。
「やだやだ〜! おれ、ただボスのコップを舐めただけだもん〜!」
「だからだろ」
Getが淡々と返す。
「次は洗ってから舐めろって言ったじゃん。常識だよ、常識」
「いやいやそもそも舐めるなよ」
メントがその横で、やや引いた顔をしていた。
「なんか……テンションおかしくないすか、みんな。おれだけ、別の映画見てる気分なんですけど」
「慣れるよ」
Dillが言う。
「脳が壊れる方が、組織では生きやすい」
◆
任務先、郊外の坂の上。
銃声が聞こえた瞬間——一切の笑いが消えた。
Getはすでに構えていて、デメが一人目を無言で仕留める。ミリのナイフが、一人を静かに沈めた。
テスタはロープのまま転がりながら「わーい」って叫びながら銃をぶっ放す。
その様子は……どこか、楽しそうでさえあった。
俺は、正直に言って、震えた。
だけど、それ以上に冷静だった。
撃った。
一人。
撃たなきゃ、俺が死ぬ。
「上出来だね。ちゃんと出せたじゃん、命の代償を」
Getが笑う。ふざけてるようで、どこか優しかった。
「そう、こういうのはね……準備もいらない。“感じたら、撃つ”。それだけで十分」
「……なんかお前のその言い回し、いやらしいんだけど」
「感じた?」
「うるせぇよ」
◆
帰路。空は変わらず、平穏だった。
「……あ、そういえばさ」
ミリがポツリと呟いた。
「今日のケース、何入ってたか気にならない?」
「……怖いから気にしない」
「え〜もしかしたらさ、ボスの使用済み──」
「やめろ!!」
「何も言ってないよ?♡」
◆
夜。
アルタリアの会議室。
ボス・Townの姿はなかったが、その“気配”だけは、どこかに残っていた。
俺はひとり、銃を磨いていた。手が止まらない。震えも、止まらない。
それでも、背後からGetの声が聞こえた瞬間——安心してしまった。
「……次も、楽しみにしてるよ。ね、“初めて”って、いつまでも忘れられないからさ」
——俺はこの世界に、ちょっとずつ馴染んでいく。
下品な会話と、完璧な殺意。その間にある、奇妙な心地よさに。
──【第2話:完】──