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事件解決から数日後。JTRのカードはイギリス冒険者協会預りとなり、厳重な保管体制で管理される事になり、
我々冥探偵チームは何故かホテルからバッキンガム宮殿の客室に滞在先が移る事になった。
最初の2・3日は関係者からの聞き込みや記者会見への参加をさせられたが、以降はのんびりと王室付きの使用人の送迎付きで観光と洒落込んだ。
淡姫ちゃんは念願のベーカーストリートとホームズ博物館を見てご満悦。
俺も大英帝国博物館の威容に感動し、志子ちゃんはそんな俺達を見てニコニコしていた。
エインセルはビートルズ・ストーリーに思う所があったようで、ロイヤル・オペラハウスでライブ公演が出来ないかとか言い出した。
その後、エインセルに手を引かれて連れられた公園で幻の湖を幻視したり、いつの間にか取り出されていた天地崩壊魔導のスキルオーブがエインセルに吸い込まれたりと言う”若干”のトラブルがあった(強弁)ものの、おおよそのんびりした休暇を過ごしていたのだが。
ある日、ここ暫く姿を見かけなかったアビーが、
「マーモ、こちらの都合で振り回して本当に申し訳ないのだけれど。
今度、国営放送の番組中に、ジャック・ザ・リッパーと公開で契約を結んでもらえないかしら?」
と無茶振りを振って来た。
事情を聴くと、カードを預かった(という名目で札束積んで俺から買い上げた)イギリス冒険者協会だが、
所属する有力な冒険者に契約をしてもらうように働きかけていたのだが、成果が芳しくなく、JTRの再来を恐れる市民団体を始めとした世論に圧力を掛けられ、一日でも早く契約を成立させるべく、俺に依頼すると言う大赤字かつ役員の進退すら掛かった決断を下さざるを得なかったという。
名を得て実も得ようと図ったのに結局はどちらも失いかねないという……
俺も最近自重してないし、気をつけねば。
とにかく彼女の事は俺も気になってはいたので了承する。する、が……
よく考えれば英国で契約ってどうすればいいんだ……?
志子ちゃん・淡姫ちゃん・エインセル・ジャンヌちゃんに相談したら、
コイツ、またか……みたいなジト目を向けられたのが気になるが、どうにかなるようだ。
ネットで調べたら、天使系に関しては教会組織が、それ以外は邪教のYAKATAめいた団体が契約を取り仕切っているようだ。
まずは今回の契約を担当する団体に連絡を取ったら至急会って話がしたいとの事だったので、指定された施設に出かける。
……一言、良いだろうか。
…
……
………
大魔城ガッデム……
ロンドンの郊外とはいえ、違法建築めいた構造の城砦に遠雷が轟いているんですけど!ですけど!?
これでいいのか、英国……
門番(何故か居た)の人……人?に名前と用事を告げると、背中の羽で城に向かって飛んでいき……
少しして戻ってきて門を開けてくれた。
……小野麗尾城にもこの制度は取り入れるべきか……!?
中に入ると出迎えたのは屋敷の主にしてJAKYO組織団体の主催者、ポッター・ウォジギィーヲ・スルノダー氏で、
挨拶や儀式の話もそこそこに、俺が所有しているレメゲトンについて是非とも写本させて欲しいとの申し出が。
「魔術結社を名乗る我々ではありますが、本物の力ある魔導書の原本という物は実の所、喉から手が出るほどに求めても手に入れられる物ではないのです」
資金に余裕があれば買取の申し出がしたかったのですが、と心から悔しそうに述べる氏の姿に絆され、写本の許可に、実際に使用する所も見せると言うと、何処から出てきたという位に人が湧き出て、玄関ホールは一瞬でビックサイトの祭典並の混雑の様相を呈した。
「本物の魔術書が書き写せるんですか!?」
「エインセルさん!ファンです!!このローブにサインお願いします!!!」
「あれがかの有名なゴッデス……髪の毛一本貰えますか!?」
「遠い所からお疲れでしょう。ささ、どうぞ此方の椅子に……」
イロイロ言いたい事はあるが特に最後ォ!!!ヨツンヴァインになりながら言ってんじゃねーぞ!!!!
二人共見るんじゃありません!ああいうのはおもてなしの心とは程遠い代物だから!?
取り敢えず最後のヤツにはアーマードオーガの一個小隊をお行儀よく縦一列に座らせてっと……
グシャっと秒で潰れて
「グエエエエエエエエ……我々の業界でもこれは拷問・虐待ですぞおおおおおおお」
知らん。逝きさらせ!!!
「ハッハッハ……これはお見苦しい物をお見せしてしまいましたな。貴様ら、少々はしゃぎすぎだぞ。私に恥をかかせるのか?」
スルノダー氏のドスの効いた一言で場の空気が引き締まる。これが組織の長の貫禄と言う奴か。俺も身に着けられるかなぁ……
なおも騒ぐ一団には”阿罵堕袈駄武羅”なる魔法を使い鎮静化させてゆくスルノダー氏。
倒れた人員の整理運搬用にレメゲトンを使い、下級悪魔の群れを呼び出したら再びフィーバー状態に突入すると判断したので、
普通に剛武を呼んで対処する。
スルノダー氏が、
「何と、これが噂のゴブリンですか。いや、こうしてみると素晴らしいですな」
と言うので、
「いえいえ、それほどでも。ゴブリン等こちらでも珍しくはないのでは?」
「たしかに小鬼を使う冒険者は居ない訳でもないですが、本当に最初の内位で、直ぐにランクの高いモンスターに乗り換え、ここまで育て上げようとする者など殆ど居りませんな」
「何、私等只の貧乏人故、ランクが低かろうと何とか遣り繰りしなくてはならなかっただけですよ。そんな無茶振りに応えてくれた彼らには本当に感謝しか……」
先に番を作ったのには嫉妬しかないけどな!!
じわじわと嬲り祝ってやる!?
子供が生まれたら最初に俺の名前を呼ばせて見せるからな!?
「全てのモンスターに感謝をする、ですか。それが貴方の強さの秘訣なのでしょうな」
なんか良い感じに纏められたが、それはそうとして、
「今日は契約の儀式に関してお話を……」
「おお、そうでしたな!?それで一体どの様な事を……」
公開契約儀式とは何ぞや?
「一般的には契約の儀式は契約者と召喚モンスターの間で結ばれ、その経緯は詳(つまび)らかにされる物ではないのですが、
今回は世間の関心はおろか各方面の要請も強く出ておりましてな。
経費はいくら掛かっても良いとの事で、大悪魔の召喚・並びにその力を化してもらう事により、契約の場の世界の様子を、言い方は悪いのですが、覗き見させて貰う訳ですな」
ふ~ん。
(ねぇねぇ、志子ちゃん淡姫ちゃん。ひょっとして同じ事って二人の神通力で……)
(まぁ、神衣もあるし、やろうと思えば出来るわよ?)
やったぜ。
(只、相応の神威の行使となりますので、その、MPが沢山必要に……)
(そっかー……)
契約費用の経費削減には繋がらないようだ。だが緊急時の契約には使えるかもしれないので頭の片隅には留めて置く。
話を聞き続けたが、懸念点の一つであった外部からの干渉は行えないとの事で、契約中に横から割り込み攫われると言う事態は起こらなさそうだ。
後はレメゲトンの写本が終わるまで当日の手順を確認たり、イギリスの召喚モンスターの傾向を聞いたりして、時間を潰す。
写本が終わった時に返ってきた本が6冊に増えていた。
『ゴエティア』『シンフォギア』『アルス・パウリナ』『アルスノトリア』
何でもレメゲトンは複数の魔導書を1冊に纏めた合本なので、この際元の魔導書毎に再分冊してみたとか。
……何か一冊、明らかに系統(系譜?)が違う物が混ざっていませんかね……
まぁ、レメゲトン自体は元通り使えたし、別にいいか……
そして、さらに数日が流れ、BBCのスタジオの大型セットにて、契約の儀式が実行される。
セットの中心に祭壇があり、JTRのカードが置かれているのはいいのだが、その奥に鎮座しているのは黒山羊様……?
何某かが這い寄ってこないか警戒を厳にするが、特に異変無し。
時間が来て放送開始。……放送開始。
……ロケじゃなくて生放送とか聞いてないんだが!?
内心が大混乱な俺を差し置いて、番組の司会が今までの経緯を説明していく。
突如ロンドンに現れ、イギリス中を恐怖で包み込んだJTRの出現から現地治安組織の活動、
懸命の捜査活動空しく事件は続き、国外への協力要請。
日本から出荷された俺。
半ばヤケになっての倫敦での捜索活動を展開する冥探偵チーム。
巻き起こる日本食ブーム。
そして発覚したダンジョンゲートの存在。
ダンジョンボスが単独でIFLを起こした事実に驚愕する世界冒険者連盟並びに世界各国。
発覚したJTRの正体に動揺を隠せないスコットランド・ヤード。
そして全捜査組織・チーム合同の囮作戦によるJTRの撃退・カード化。
英冒険者組合の主導いによる契約手続の失敗(10連敗)
国民の抗議デモの活発化、議会に於ける野党による与党の責任追及。
そして再出荷される俺。
……おい、勝手に英国から期待と責任を負わされてないか、コレ。
まぁ、契約の経費負担は向こう持ちだし、何なら別途報酬も追加で貰えるみたいだし。
思う所が無いでもないが、”ふくしう”する程でもないので、飲み込んでおく。
ふんぐるいふんぐるい なむ ふたぐん いあ!いあ! いあはすたぁ
謎の呪文詠唱が始まり、意識が儀式の場へと沈んでいく。
程なくして覚醒すると、そこは部屋の中だった。
記録でしか見聞きした事のない金色の月明りが差し込み、天蓋付きのベッドにはドレスを着た一人の女性が啜り泣きながら凭れ掛かっている。
唐突に部屋に生えてきたであろう不審者としては声を掛けるのも憚られるが、何時までも佇んでいても不審者度が上積みされていくだけなので、タイミングを見計らって声を掛けてみる。
「……こんばんわー(グッナ~イ)……」
女性は上体を跳ね上げ、こちらを向いたかと思うと、
「誰ですか!?」
と叫ぶ様に誰何する。残念ながら当然の事なので、流れる様にDOGEZAに移行し、
「夜分に大変失礼しております。極めて怪しい者である事は重々承知の上で、もしよろしければ何故泣いておられたのか、お聞きしても宜しいでしょうか?」
上目遣いで様子を伺うと、女性は
「そこを動かないでください!?」
と言いながら懐からナイフ(懐剣?)を取り出しながら切っ先をこちらに向けてくる。
つ「まぁまぁ落ち着いて」
↓
「動くなと言ったッ!!!」心臓グサーッ!
BADEND:話せばわかる(わかるとは(ry
つじっとしておこう……
↓
「誰か!人はいませんか!?部屋に曲者が!?」
BADEND:石牢の冷たさに抱かれて
つ取り敢えず御身足をペロペロして服従の意を示そう……
↓
「キャーー!!!!!」背中グサーッ!
BADEND:変態という名の紳士等この世には居ない、イイネ?
これはとうとう失敗したか……?
だが一体どうしろと……?
まさかのスネーク的密室からの脱出シリーズが正解だったのか…‥?
くそっ!そうと分かっていればダンボールを持ち込んで……?
おや?女性が刃物の切っ先を……?
「貴方、お名前は?」
つい「人に名前を尋ねる時は(ry
ネタに走りたくなるが。
「私はマモル・オノレオです。レディ、貴女のお名前をお伺いしても?」
「あらあら、ご冗談を。もう知っているのでしょう?私はジャック・ザ「それは名前ではない」えっ?」
「それは貴女を知らない何処の誰かが正体不明の殺人鬼に付けた仇名であって、貴女の名前ではない」
「故に」
膝まづいて手を取り、
「よろしければ貴女の名前を拝聴する名誉を賜れますか、レディ?」
「よろしくてよ。私はシャクヤ。女王陛下よりナイトの称号を賜りし、シックスティーン家の嫡女でしてよ」
「それでミスタ・オノレオ。私が涙を流していたのは……」
そして語られたのは、ある悲劇の話。
シャクヤには生まれた時から婚約を結んだ貴族の嫡男がいた。
幼馴染の婚約者と言うご近所ガチャURを引いていた男は、非常に、そう非常かつ究極的に異常に愚か者であった。
大した努力もせずに、だが貴族に生まれた事で異常な自尊心を持つ男に男の両親は見切りを付け、代わりに非常によく出来た……出来過ぎてしまった婚約者に絶大な期待を寄せていた。
シャクヤも双方の両親の期待に応えるべく、性差別著しい当時の貴族社会の中で有形・無形の悪意にめげずにメキメキと頭角を現していった。学業優秀・各種事業補佐も出来、淑女教育も完璧に近い形でこなしていく彼女に周囲の人間は女だからと蔑視していた者ですら尊敬を抱く様になるほどであり、是非我が家の嫁にと希望することが後を絶たず、最初は自慢気だった婚約者は次第に彼女にキツク
当り散らす様になっていた。
そんな折に、イギリスがアフリカ方面の国と戦端を開く事になり、ノブレス・オブリージュの理念の下に多くの貴族子弟が戦場に赴く事になり、その中には何を思ったか自分から志願して従軍する婚約者の姿があった。
ロクに体力作りもしていないはずの男はそれでも貴族故か士官待遇で出征する。
シャクヤは婚約者に対して愛情を持っていたわけでもないが、それでも婚約者が危険な所に向かうのだからと、
自身も戦場に赴くべく、周囲全ての人間の制止を振り切って、ナイチンゲール看護学校に入学し、瞬く間に全ての知識・技術を習得して、婚約者が向かった戦場へと赴いた。
「ありていに言えば、其処は聖書に書かれた地獄よりも酷い場所でした」
清潔・衛生と言う言葉とは無縁の環境。
人手・物資・薬。必要な物は何時でも何処でも不足していた。
時間と共に増加する負傷者・死者。
安全を確保した後方の慰安所で享楽に更けていた婚約者を始めとした士官達。
互いに純潔を捧げあうはずの婚約者が連れてこられた娼婦を相手に猿と呼ぶのも烏滸がましい狂態を晒しているのを見た時に、
彼女の中に確かに存在していた愛想(オモイ)は遂に燃え尽きた。
家の為、男の為と自分を磨き上げてきた日々は、唯の魂を鑢掛けされた記憶に変わり、死にゆく兵士を看取り続ける日々は只管(ひたすら)に虚しかった。
敵国の降伏により戦争が終わり、国に帰った彼女だが、婚約者の家では酷い騒動が起きていた。
なんと、婚約者が娼婦との間に出来た子を実家に押し付け、駆け落ちしたというのだ。
嫡男の実子とはいえ、何者とも知れぬ処か娼婦の子を一族に迎える事等ありえず、
義両親(予定だった)夫妻の悲嘆は尽きる事なく、終いにはシャクヤを養女として迎えようとする始末。
「私は何を間違ってしまったのでしょうか?」
「習い覚えた事や師の言葉を振り返っても解らないのです」
「周りの人は皆、私は悪くなかったといいましたが」
「では何故こんなことになってしまったのでしょうか?」
考えました。
私は愚かであるべきだったのでしょうか?
学を身に付けず、婚約者に体を委ねて、家が没落していくのを見過ごすべきだったのでしょうか?
心の赴くままに貴族という身分を捨て、一人の人間として身を立てて生きてゆくべきだったのでしょうか?
答えを探せども考えども見つからず、
鬱屈した心は現状を生み出した原因を求め、
歪んだ世界・心の中で遂に私は婚約者と彼を誘惑した娼婦と言う存在が悪であると認識したのです。
悪を正し、正しい世界を取り戻さねばならない。
黄金の月明りの元、狂った使命感に突き動かされ、私は部屋の白布のシーツで身を覆い隠し、刃物を手に窓から部屋を飛び出しました。
月に照らされた白布は黄金色に染まり、私の体は風の如くロンドンの闇を駆け抜けました。
(……ん?雰囲気が変わったというか、黄色の布で風とか。
……何だか悪い予感がしてきたのぅ……)
運良く、いえ、この場合は悪いというべきでしょうか。人目に付きにくい路地裏に入っていく娼婦の娘と身なりの負い客の姿を捉えた私は壁を駆け登り、屋根に躍り出ると、獲物の進行予測地点目掛けて飛び降り……
後は皆様のご存じの通りです。
男性の犯行に見せかけるため、死体を高所に吊り下げたり、バラバラに切り裂いたり。
犯人がか弱い女性であると思われないように狂気と暴虐の限りを尽くして現場を荒らしました。
不思議な事に、返り血を浴びたはずのシーツにはシミ一つなく、疲れ切ったはずの体は、”作業”前よりも体が軽く感じられました。
(ほーん、不思議な事もって言うと思ったか!明らかにYABAI奴やん!?)
それからは月夜の下に屋敷を抜け出しては人を殺める日々を過ごし続けました。
人を殺める内に私は自分を誤魔化す為の理屈を作り始めました。
”これは正しき世の為の聖なる罪である”
”正さねばならない。正さねばならない。貴き血は穢れる事を赦されない”
”幸福を望むことは罪ではない。だが、青き血に赤き血を混ぜる事は大罪である”
”故に女は最後に貴婦人の如く着飾ろう。せめて望んだ幸福の一欠けらでも掴めたのだと思えるように、その命を対価として”
愚かなシャクヤ
哀れなシャクヤ
惨めなシャクヤ
こんな程度の低い言い訳では自分すら誤魔化せないというのに。
私の最後は朽ちた館の片隅で毒杯を仰ぎ、己の喉に刃を突き立てる物でした。
きっと当時のゴシップ記事の一つとして載せられているかも怪しい物です。
「いや、少なくとも君の最後は悲劇として語られ、大勢の人に見送られる物だったよ」
そう言って懐から一つのスクラップ記事を取り出す。そこには、
『白衣の天使の後継、悲劇の最後』と題が打たれた記事が書かれていた。
写真には大勢の人達に囲まれた棺とお墓が映されていた。
「嘘。誰が私なんか……」
「君が戦場で過ごした時間は君にとって空虚な時間だったかもしれないけど、
君が為した事で命と魂を救われた人達は確かに居たんだよ」
ダンジョンで出てきた兵士のモンスター。
恐らくはそれこそが彼女に救われた兵士達だったのだろう。
命の恩を命で返すその在り様には感動すら覚えるが。
顔を俯けてまた静かに泣き出す彼女に、
「ところで、突然なんだがこれを見て欲しい」
そう言って一枚の紙を突き出す。
「はい。これは……求人票?」
「うん、私は冒険者と学生をやりながら企業を一つ経営している者だけど、今会社には経理の専任者がいなくてね。就業前の事前学習・研修は勿論サポートするし、その期間中もお給金はその紙面に書かれた条件(月給30万円相当のポンド額)を出すから是非とも前向きに検討して貰いたいんだけど」
「あの、私に戦わせるのでは?私、ジャック・ザ・リッパーですし!?」
「無論、君が希望するなら経理事務以外の戦闘サポート等の他業務も適性に応じて参加を認める積りだけど。
此方の調査では相当の才媛である様だし、経歴には従軍看護婦・さらには帰国後にメイド・オールワークスとして働いていたとありますが……?」
「はい、家のコネで余裕のある高位貴族家で働かせていただいて……」
「また、淑女教育の一環として歌と楽器演奏とダンスも優秀な成績で修められて居ると」
「はい、お恥ずかしながら嗜み程度には」
「素晴らしい」
「え?」
「いえ、大変に素晴らしい。歌えて踊れて家事万能とは正にメイドル(メイド+アイドルの造語)……」
「メイドル?」
「失礼。我が社では芸能部門もありましてな。シャクヤさんの適性を見ての事になりますが、そちらの方の所属も考えられますよ」
「いえ、本当に嗜み程度ですから……」
「是非、そちらも併せてご検討を」
「でも……やはり、これ程高額なお給金での待遇は些か過分に過ぎませんか?」
「いえいえ、昨今の雇用事情から鑑みた適性な金額ですとも。勿論提示させて頂いた金額はあくまでも”最低限”、”最低限の金額”ですので雇用前の素養・適性検査や能力に応じて増額もありますとも。他にも勤務地付近に完成予定の集合社宅の個室提供、制服提供等々、我が社は福利厚生も充実を目指しており、希望者には日本国籍の取得・その他資格取得のサポートも……」
「あの、失礼ですが。本当にそれで経営が成り立っているのですか……?」
「ええ、資金繰りに問題はなく、利益も確実に出てはいるのですが。如何せんそれらの数字を取り纏める部署がなくてですな。
このままではまともに決算も行えない有り様ですので、急遽経理部門の設立を」
「いけません!トップが組織の実態を把握できていないなど、状況は既に致命的です!急ぎ緊急手術の準備を!?」
「ええ、ですのでこうして人員の確保を。そして、契約はして頂けるので……?」
「ええ、こうしている時間も惜しいです!」
そう言って取り急ぎ契約をしようとしたJTRことシャクヤさんだが、突然その身体が固まる。
様子のオカシイ彼女に声を掛けようとするが、いつの間にか隣に来ていたマリィさんが片手で俺を押し留める。
「お待ちください。彼女の中に潜む存在が今彼女に干渉しています。直ぐに対処しますので」
そう言うと、マリィさんが抜き手を彼女の左胸に差し込み、捻り、何かを掴みながら引き出す。
掴んでいた物は黄色い布で、先程彼女の凶行の実況で見たシーツそのものであった。
ドレス姿の女性の胸部からシーツが引きずり出されるという奇術もかくや、と言う光景にしばし絶句したが、
「終わりました。この寄生虫は私の方で処分しておきます」
と言うマリィさんの言葉に我に返る。
「マリィさん。これは一体……」
「彼女は神話存在に狂わされ、操られていました。彼女が罪を犯したのはそれだけが原因ではありませんが、その一因ではあります。
聞こえていますか?貴女が恐れていた契約者並びに周囲への無意識的な加害行動はこれで行われません。貴女は貴女の意思で自由に生きて良いのですよ。ただ、だからといって彼のベッドに入る自由などありませんから、そこは弁える様に」
「はい……はい……!」
こうして何だかわからないが契約は終わり、後には月明かりの差し込む寝室で眠る誰かと、穏やかな表情でそれを見守る銀髪のメイドのカードが残された。
そして、俺はまたネットで燃やされた。
長かった英国連続猟奇殺人事件編はこれで終わり!
JTRのキャラ詳細は、シャクヤちゃんの突撃!小野麗尾モンスターズ!JTR編にて公開予定。
予定は何時かって?守君が日本に帰ってからさ!
いつ帰るかって?そうねぇ……
数行で分かるシャクヤちゃんの軌跡
幼少からの貴族・英才教育で人格形成が歪んだ
↓
戦争に行き、婚約者の狂態を目の当たりにし、これまでの価値観と情緒が爆死
↓
戦場帰りのトラウマっぽい物は一切なく、自己問答の果てに表面上は静かに発狂。
↓
いあいあな輩に目を付けられ本格的に発狂。”殺戮救世”のコトワリに目覚め、JTRとして活動開始。
犠牲者の血が贄として扱われ、いあいあの使徒化。死後ジャック・ザ・リッパーというモンスター化が確定。
↓
守君に捕獲。以後小野麗尾興業㈱の経理部長として偶に下剋上を計るアルバイトの某天使をシバキつつ辣腕を振るい、
時にはメイドルとしてメイドルマスターを目指す事に。何故こうなった。
マリィさん:久しぶりの登場である。言いたい事はイロイロあったが、取り敢えず新入りの救済と釘差しをしておく。
以降、深夜のお茶会には楚々として控え、瀟洒にお茶を用意する侍女が侍る様になったとか。