コトンと音を立て置かれた藍色の花瓶の中に白色の百合が置かれる。
「体調はどう?」
そう問い掛けてくるのは私の専属看護師の佐宮千鶴さんだ。
私が小さい頃から看病をしてもらっているお姉さんの妹さん。
千鶴さんの、お姉さんの佐宮千尋さんは、一昨年交通事故で亡くなってしまったとの事。
『体調は前より良かなったわ。』
「そっかぁ、良かったね。」
そこから、暫く沈黙が続き、気まづい空間が流れる。
数分だった頃だろうか。千鶴さんが口を開いた。
「…お姉ちゃんね、文葉ちゃんの事、大事にしてたんだよ。」
突然、千尋さんの名前が出て来て、少し動揺してしまった。
『いきなり、やな』
「…そうだねぇ。」
「きっと、お姉ちゃんは文葉ちゃんの事、守ってくれるよ。」
『?』
窓辺の夕陽に照らされた花瓶の影を見ながら千鶴さんはゆっくりと目に涙を浮かべた。
『え…千鶴さん?』
「…っあ…ごめんね。大丈夫だから…」
『…』
そっと伸ばした手を引っ込める。
「大丈夫」と聞いたら駄目な気がして、その言葉も取り消した。
だって、「大丈夫」と聞かれたら「大丈夫」しか答えられないから。
『千鶴さんは、溜め込みすぎやねん。』
「っ…え?」
ぽかんとしている千鶴さんをほっておき、私は頭から布団を被る
『泣いてええよ』
「…ごめんね。ありがとう」
やっぱり、どんな大人でも辛い時は辛いんだ。
そりゃ、大切な人の*死*なんて受け入れる訳ないから。
私に母がしてくれた様に、私も千鶴さんに同じ事をしてあげた。
千鶴さんは、幼い子供のようにわんわん泣いていた。
今日は久しぶりの退院日。
晴れやかな気持ちで外へ出たけど残念ながら雨日和。
『せっかくの退院日やのに…最悪やわぁ…』
憂鬱な気分でビニール傘を差す。
すると水滴が傘にあたって音が出る。
『いよいよ夏やなぁ…』
夏と言ったら、プール、アイスなど色んな事が思い付いて、今からでもワクワク出来る。
『よっしゃ、はよ病気治して沢山遊ぶわ!!』
雨の道中で私は大声を張り上げた。
ジッと周りの視線が私を差す
『あっ…すんません…』
静かに私は謝ると、家までの道のりを早歩きで帰った。
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