今後どう付き合ってくか会議して以来、何だかんだ数日経過してしまった。
お互い暇な時間が噛み合わず、会っても医者と患者として。立場の問題もあり流石に人前でのキスははばかられ、恋人として触れたのはあの日が最後だ。
気持ち的には話し合ったその日に襲ってやりたかった。しかし「安全のため時間をかけて解していく」という約束を早速破ると、当たり前に一気に信頼を失うので留まった。
ギャングボスとして頭を抱えてばかりで性欲が湧く暇もなく東奔西走していたが、落ち着いて今ベットに寝転ぶと悶々としてしまう。
「ハグ……いやキスしてえな」
そうだ、ぐち逸は行為をするあたって衛生管理の徹底も条件に入れていた。この数日で貯めに貯まったお金で、ぐち逸を招き入れる用に買ったこの小さな家。夜も更け皆眠ってきた頃だ。壁を貼り替えたり清潔にベットメイキングをして準備しておこうか。
それにしても、今まで経験した交際とは全く異なる接し方で少し面白い。行為について、「※専門家の指導のもとってやつだね(笑)」って言ったら「誤解されるので二度と言わないでください」って言われた。稀によく見る語気の強さだった。
真新しいベットのシーツを敷き直したところで、スマホの着信音が鳴った。ほぼ反射で受信ボタンを押す。
「もしもし空架です」
「ぐち逸!」
聞こえた声は今どうしようもなく求めていたぐち逸の声だった。嬉しくてつい名前を呼ぶ。
「レダーさん今お時間ありますか?」
「ある。ねえ今どこ」
「こ、高速道路を爆走してますが……よければそちらに行っても?」
声を聞くとより一層会いたくなって迫る。ぐち逸は相変わらず愛車を走らせていたようだ。
「じゃあこの番地に来て。今から」
「そ、そのつもりですよ。わかりました、では」
プツッと電話が切れる。
あぁやっと会える、触れられる。
この家に招き入れるためにさっさと清掃しないと。
ふはははっ、なんか楽しくなってきた!ここが二人の愛の巣になる!
最低限部屋と呼べるまで整ったとこ ろで、 外からバイクのエンジン音が聞こえた。綺麗に敷いたラグを崩す勢いでドアに駆け寄る。
「ぐち逸!?」
「うぉっ……レダーさん。どこの番地かと思えばご自宅でしたか」
「違う、ここは俺たち二人の家だ。ほら入って、鍵渡すよ」
は?と言わんばかりのぐち逸の手を握って家に連れ込む。戸惑いながらもぐち逸がきゅっと握り返してくれた感触がして、ひどく可愛いと思った。
「二人の?いつの間に家を買ってたんですか!?お金は……」
「あーそれはいいから。それよりさ、会いたかったよ。ぐち逸」
玄関から数歩進んだ廊下でぐち逸の首に腕を回す。きっと俺の視線も呼吸も熱がこもっている。それ程今ぐち逸が欲しくて堪らなかった。
「あ、は……はい」
恐る恐る抱き締め返してくれる。じっと見つめる俺にぐち逸は目を泳がして下唇を噛む。恐らく彼の癖であるその仕草にそそられてそのまま口付けた。
「!んっ……っは、レダーさん?」
「ずっとぐち逸が足りなかったから」
「……私も、ですけど。いきなりキスは驚くと言いますか」
「いいじゃん、恋人だから」
「恋人だから……」
何やら考えるぐち逸に構わず手を引いてリビングへ行く。といっても1LDKで間取りは単純だが。
さて、どうしようか。ぐち逸とイチャつくにもいきなり本番は許してくれないし。でも次のステップには進みたい。一先ず指を絡めて手を握った。
「ここ二人の家だから。明日からここに帰ってきてもいいよ」
「わかりました。なら今救助後で泥だらけでして、シャワーお借り……使ってもいいですか?」
確かに彼の足元を見ると汚れていた。救助に全力である証拠だが部屋を汚してしまうのが気になるだろう。
シャワー、風呂……そうか。
「じゃあ今日は2人で風呂入ろ」
「はあ。なぜ」
「恋人だから」
「…………恋人だから」
渋々で了承され、すぐ風呂場はここだと案内する。予め揃えておいたタオル類が棚に積んである。
薄着かつノリノリな俺と反対に、ぐち逸は背を向けゆっくり脱いでいた。シャツを着ているからボダンが多いのだろう。
いつも厚着なぐち逸の肌を見ることが初めてで、ためらいなく凝視し考え込む。
医者のくせにちょっと不健康な色だなとか、外でよく走り回っているから少し日焼け跡があるなとか、色気あるなとか。ホットドッグ屋で磨いた観察眼が光った。
「あの……そこまで見られると少し恥ずかしいです」
ああバレた。
「なんでよ、男同士じゃん?」
「……恋人ですから」
「…………」
まあ、そうね。
全然邪な目で見ていたことを誤魔化すように、浴槽の湯を沸かした。
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