テラーノベル
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雨が降る夜。
絶望に打たれて、濡れてしまうことなんて気にもならない。
人は、弱い。
それを思い知らされたのは、たったの二日前。
「おはよう。みこ。」
「うん、!おはよう、すいちゃん! 」
いつも通りの挨拶をする。
昨日と何も変わらない彼女の仕草は、
不安な朝を塗り潰してくれる。
「みこ。今日は何の依頼受けるの?」
「…じゃぁ、これ!」
そうやって彼女が私の目の前に差し出したのは、3等星レベルの依頼書。
私達は5等星冒険者で、依頼を受けれる2等星上まで、、ギリギリだ。
でも、まぁ、最近私達は成長している。
そこまで考えることはないだろう。
「…わかった。受けようか」
「…っくそ、受けるべきじゃ無かった、、」
依頼の等星が、間違っている。
いま私たちの前に居るのは、「黒龍」一等星の冒険者が束になって倒すものだ。
「っ、考えてる暇は無い、走れ、!」
できるだけはっきりと声を出しながら、震えていた右脚に無理矢理にでも力を込める。
右脚を軸にして周り、浮いた左脚を強く地面に叩きつけ、蹴る。
生存本能が働いて、何とか逃げ始めることが出来た。
そんな最中、みこは、。
腰を抜かし、目に涙を浮かべなから、
黒龍に両腕を刈り取られていた。
「あ”あ”あ”ぁ”ぁ”ぁぁぁぁぁ”」
地面に涙と、血と尿が混じり溢れる。
みこは力無く白目を剥きながら倒れしまっていた。
「…あぇ?、、」
頭では冷静に考えられるのに身体が動かない。
頭では、みこを助けろと言っているのに。
疑問と体を、多大な恐怖に押し付けられる。
でも、それでも、。
「助けに、行かなきゃなんだよぉ、!」
きっと今の私は惨めだろう。
涙と尿を垂れ流しながら、
叶うはずもない敵に抜けて、戦うべく走り出しているのだから。
「それでもい”いがら”っ、」
後で助けられなかったことを悔やむより、今助けようとして死んだ方がいい。
助けずおしまいなんて、許されるはずが無い。
走りながら、手に魔力を貯める。
得意な武器の形に整えるイメージ。
そうすると突然、金の巨大な片手斧が出て来る。
余った魔力を、足と腕に限界まで込める。
できるだけ高く飛び、目の前の脅威に、右手の斧を叩きつけた。
「…ふはっ、硬すぎ」
鱗に斧が弾かれ、代わりに尻尾で地面に叩きつけられる。
「っ!がっぁ、、…
「んっ、あぁ?」
どれくらい経ったのだろう。
私は湿った土に横たわり、意識を失っていた。
「、、!っ、みこっ!」
思わずみこを探そうとする。
…足に力が入らない。
違和感を感じる足に、目線を合わせる。
「あ”?」
両脚が、全く反対の方に向き、。
筋肉は千切れ、肌はボロバロ、骨が折れ剥き出しになっていた。
「あ”ぁあっ?、、あがぁ、、!」
自分でもよくわからない声を出して叫ぶ。
大きく開いた傷口に、ウジがたかり始めていた。
「いだぃぃい、!」
まるで転んで泣き叫ぶ子供のように、
掠れた声で「痛い」としか言えない。
そうだ、治してもらおう。
そう思って、治癒魔法の使えるみこを探す。
「、、え?」
そこに見えたのは、
腹は鼠に食いちぎられ、
腕には大量のウジが蠢き。
食いちぎられた箇所から、
腐った臓物が溢れ出している、
“ナニカ”だった。
「えっあ?みこ、?みこぉ?何処なの?」
頭では、分かっているんだ。
分かっているはずなんだ。
目の前に転がっている翡翠色の目玉も、
焼け焦げ、
千切られた跡が残る桜色の髪の毛も、。
彼女のものなんだ。
「ぉ”ええぇえ”.」
その事実が、受け止められない。
受け止めたくない。認めたくない。
目の前に転がっている腐肉は、
大好きだった彼女なんだ。
痛み
絶望
孤独
罪悪感
拒絶
憎しみ
全ての感情が織り混ざったまま、彼女の血によって湿った大地に身を伏せる。
もう、死んでしまおう。
助けなど来ない。
ならば、彼女が孤独にならないように、ここで共に眠ろう。
「おやすみ、みこ」
「大好き」
一度でも、彼女が生きていた時にこの言葉を伝えられたのなら。
もう少し、後悔などなかったのかもしれない。
彗星が流れる星空の下、
冷たくなったみこを腕の中に抱き入れ、瞼を閉じる。
この日、一つの冒険者の命が、
途絶えた。
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