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うちの家族に祝福されて、晴れてお付き合いするようになったわたしと玲伊さん。
あの日から3週間が過ぎた。
いつの間にか梅雨も明け、日中の日差しがぎらぎらと眩しい季節になっていた。
玲伊さんは、とにかく忙しい人なので、ふたりきりで会えたのは、あれからほんの3回ほど、それも、休憩中に書店を訪ねてくれるか、彼の予約の合間のわずかな時間にわたしが会いに行くことだけに限られていた。
今日も夜の10時ごろ「今から会える?」と連絡をもらい、彼の部屋を訪れていた。
ドアを閉めると、挨拶もそこそこに抱きしめられてしまう。
そして、髪にキスを落としながら甘く囁く。
「俺、優紀中毒みたい。一日中、会いたくて、こうやって抱きしめたくて、本当困るよ」
そう言いながら、今度は額や頬にキスの雨を降らせてくる。
「まだ、信じられない。ずっと夢のなかにいるみたい」
彼の腕のなかで髪を撫でられながら、わたしはついそう呟いてしまう。
もう何度、その言葉を口にしただろう。
会うたびに繰り返していた。
「いや、現実だよ。ほら」
そう言うと、玲伊さんはわたしの頬を両手で包んで、触れるか触れないかのキスをくれる。
そのままの至近距離で、彼はもう一度、囁く。
「どう? もし夢なら、なにも感じないはずだけど」
「え、えーと」
「まだわからない?」
彼はすこし口角を上げて、熱のこもった目で見つめてくる。
そして斜めに傾けられた彼の顔がまた近づいてきて、舌先がわたしの唇を左右にそっとなぞった。
「あ……っ」
未知の感覚に襲われ、わたしは思わず身を震わせてしまう。
「ほら、夢なんかじゃないだろう?」
その後、耳のそばに唇を近づけ、一段低い声で囁く。
「ちゃんと感じてるじゃない……」
その言葉が耳に入ったとたん、カッと頬に血が上った。
これまでにないほど、頬が火照っている。
どれほど赤くなっているか心配になるほど。
「れ、玲伊さん。は、恥ずかしいからそんなこと言ったら、やだ……」
その言葉を聞いて、玲伊さんは今まで見たことがないほど、|淫《みだ》らで妖しい眼差しを私に向けた。
体の奥がぞくりとうごめいてしまうほど|艶《なま》めかしくて、たまらず目線を逃がした。
「優紀、それ、言ったらだめなヤツ」
「えっ?」
そう言うと、わたしを壁際に追い詰めて、両脇に手をついて、腕のなかに閉じ込めてしまう。
「玲伊さん……」
「ああ、もう。真っ赤になって。どうしてそんなに可愛いんだよ、優紀は」
ふたたび、唇が重ねられた。
でも今度は、さっきされたキスとはくらべものにならないほど、熱くて甘い口づけだった。
思わず逃れようとしても、逃してもらえず、壁に押しあてられ、貪るように唇を|喰《は》まれる。
ここまで、深いキスははじめてで、まったく経験したことのない感覚に「ふ……あぁ」と鼻から抜けるような情けない声を出してしまった。
「また……そんな声出すなって」
ため息交じりにそう言うと、彼はわたしの膝に腕を回して、抱き上げてしまった。
「きゃ、玲伊さん」
そのままソファーまでわたしを運んで横たえて、またキス。
わたしは、恥ずかしさに耐えられなくなって、目をぎゅっと閉じた。
付き合いはじめてから、こんなふうに何度も口づけを交わしたり、抱き合う寸前まで行ったことはあったけれど、実はまだ、最後までは進んでいなかった。
心は彼を欲しているはずなのに、未知の行為への恐怖からか、どうしても体がこわばってしまって……
今日こそ、もう、大丈夫だと思うのだけれど。
でも、そんな煮え切らないわたしにも、玲伊さんはとことん優しい。
いつも「すぐ手に入ってしまうのも、なんだかつまらないからね」なんて|嘯《うそぶ》いて、微笑んでいる。
「まだ、怖い?」
玲伊さんが聞いてくる。
わたしは首を横に振る。
彼はふっと微笑んで「じゃ、少しだけ、先に進んでみようか」とわたしの|耳朶《みみたぶ》を甘噛みしてくる。
耳にそっと息を吹き込まれて、ぞわっと、今まで感じたことのない感覚に襲われる。
そのまま唇を耳や首筋のあたりに遊ばせる。