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憂海歌
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Haru
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その日の帰り道。
駅まであと少し、というところで、祐希はふと口を開いた。
「……大塚」
「はい?」
「今日、楽しそうだったね」
「え? ああ、さっきの話ですか?」
達宣は笑った。
「めっちゃ面白かったんですよ!」
「うん」
「祐希さんも今度はちゃんと聞いてくださいよ! 絶対笑いますから!」
「……そうだね」
祐希は、少しだけ間を置いた。
言わなくてもいいことだ。
わざわざ伝えて、達宣を困らせる必要もない。
でも、今日は少しだけ。
「……ちょっと、妬いたかも」
達宣が、ぴしりとかたまった。
「…………え?」
祐希は、達宣のほうを向いたまま続けた。
「大塚が楽しそうに話してたから。俺も話したかったなって」
声は落ち着いていた。
責めるような言い方ではない。
ただ、自分の気持ちを伝えただけ。
それでも、達宣は完全に固まっていた。
「……えっ、えっ?」
「ごめん。困らせた?」
「ち、違います!!」
達宣は慌てて首を振った。
「いや、だって……祐希さんが、妬いたって……」
「うん」
「……俺に?」
祐希は思わず笑ってしまった。
「ほかに誰がいるの?」
「~~っ!!」
達宣の顔が、みるみる赤くなっていく。
祐希は、その反応を見て少しだけ後悔した。
やっぱり、恥ずかしかっただろうか。
「……ごめん。忘れていいよ」
そう言って話を終わらせようとした、そのとき。
「……忘れません」
小さな声がした。
祐希は足を止めた。
達宣は俯いていた。
耳まで赤い。
「……忘れません、そんなの」
「……大塚?」
「だって……祐希さんが、俺と話したかったってことでしょ?」
祐希は、ゆっくり頷いた。
「うん」
「……その、うれしい、です」
今度は、達宣が祐希を見た。
恥ずかしそうだけれど、ちゃんと目を合わせて。
「俺も、祐希さんと話したいです。……ほかの人と話すのも楽しいけど、祐希さんと話すのは、なんか違うから」
言い終わった瞬間、達宣は自分の発言に気づいたようだった。
「……あっ、いや、今の……!」
祐希は笑った。
今度は、隠しきれなかった。
「んふ、うん。ありがとう」
「……もう、笑わないでください……」
「ごめん」
「絶対思ってない!」
二人で笑いながら、また歩き始める。
少しだけ、距離が近くなっていた。
祐希は、達宣の手が自分の手に触れそうになっていることに気づいた。
達宣も、たぶん気づいている。
でも、どちらも何も言わなかった。
しばらくして。
達宣の指先が、そっと祐希の手に触れた。
一度離れて。
もう一度、触れる。
祐希は、何も言わずに待った。
すると今度は、達宣が少しだけ勇気を出したように、指を絡めてきた。
祐希の心臓が、大きく跳ねた。
けれど、顔には出さない。
ただ、達宣の手を優しく握り返した。
「……祐希さん」
「うん?」
「……俺、こっちのほうがいいです」
「……何が?」
「……こうやって、一緒に帰るの」
達宣は、前を向いたまま言った。
「……俺も、祐希さんと話したかったし」
祐希は、握った手にほんの少しだけ力を込めた。
「……そっか」
それ以上、何も言えなかった。
言葉にしたら、きっと声が緩んでしまう。
うれしくて。
かわいくて。
好きで、たまらなくて。
達宣は、そんな祐希の内心など知らないまま、繋いだ手を小さく揺らした。
「……祐希さん?」
「ん?」
「……また、明日も一緒に帰りましょうね」
祐希は、今度こそ素直に笑った。
「うん。約束」
達宣も笑った。
夕方の道を、二人で並んで歩いていく。
嫉妬なんて、できればしないほうがいい。
でも、好きだからこそ、少しだけ寂しくなる日もある。
そして、その気持ちを伝えたとき。
達宣は、ちゃんと自分のほうを向いてくれた。
祐希は、繋いだ手を見つめた。
――やっぱり、好きだな。
何度思っても、足りなかった。