テラーノベル
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「……まったく、休む暇もねぇな」俺はオカ研の部室のドアを押し開けると、パイプの煙をくゆらせている九条の青くさい顔を無視して、渚のもとへ歩み寄った。
隣県警の知り合いから緊急で入ってきた捜査協力の要請。
旧家の蔵で見つかった「いわくつきの遺品」と、それに触れた人間が相次いで重度の記憶障害を起こしているという怪事件だ。
表向きは奇病扱いだが、鑑識も医者もお手上げの状態で、現場はパニックに陥っているらしい。
「またお前の出番だ、渚。……準備はいいか?」
そう声をかけた時、俺は渚の顔を見て、ふと息を呑んだ。
ほんの数分前まで、暗い顔でカモミールティーのカップを見つめていたはずのあの子の瞳に、妙に腹の据わった、晴れやかな光が宿っていたからだ。
「……うん!」
迷いのない返事とともに、渚はソファーから立ち上がり、ブレザーの裾をぴっと正した。
三年前、死者の記憶の激痛に耐えかねて、俺のスーツの袖にしがみついて泣いていた「守られるだけの少女」の面影は、もうどこにもない。
二度目の覚醒を経て、傷つきながらも自分の足で運命に向き合おうとしている、一人のたくましい人間の顔がそこにあった。
「……行くぞ、佐藤。車出せ」
「はいっ! 先輩!」
キャンパスのロータリーへ向かって歩きながら、俺はポケットから火のついていない煙草を取り出し、ガリッと噛んだ。
隣を歩く渚が、ふと前を見つめたまま、独り言のように呟いた。
「ねえ、峯岸さん」
「あ?」
「私……大学を卒業したら、自分の探偵事務所を開こうかなって思ってるんだ」
「……ああん!?」
俺は思わず足を止め、渚の顔を二度見した。
「探偵事務所だぁ? お前、またそんな危険で物騒な商売を……!」
「物騒じゃないよ。警察の手には負えない、科学で証明できない『声』や『残香』で困ってる人を救う場所。……私だからできる仕事、作ってみたいんだ」
渚は振り返り、悪戯っぽくニヤッと笑ってみせた。
「その時はさ、峯岸さん。定年退職したら、私の事務所の顧問兼ボディガードとして雇ってあげる。……あ、お給料はファミレスのポテト大盛りでいい?」
「バッ……誰がそんなシケた給料で働くかよ! ガキのくせに生意気言ってんじゃねぇ!」
怒鳴り散らしながらも、俺は照れくささを隠すために慌てて顔を背けた。
……クソッ。
『探偵事務所』か。
あの痛みに耐えることしかできなかった幼い少女が、自分の将来の姿として、そんなたくましい未来を思い描くようになったんだな。
「……フン。顧問料はポテト大盛りプラス、特大イチゴパフェもつけろ。じゃなきゃ引き受けねぇからな」
「えー、峯岸さん甘党すぎる! おじさんなのに!」
「うるせぇ! 佐藤、何笑ってんだ! サッサとエンジンかけろ!」
「は、はいっ! 顧問就任おめでとうございます先輩!」
「まだ就任してねぇよッ!」
夕暮れ時の赤色灯が、キャンパスの街路樹を赤く染めていく。
不気味な「呪われた遺品」の事件が俺たちを待っている。
過酷な現場で、また渚に辛い思いをさせることになるかもしれない。
だけど——もう大丈夫だ。
あの子は自分の意思で歩み出し、俺たちという最高の相棒が横にいる。
「行くぞ、渚。未来の所長さんよ」
「うん! 任せて、峯岸さん!」
俺たちはエンジン音を響かせ、新しい事件と、あの子が切り拓く未来の道へとパトカーを走らせた。
コメント
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「このエピソード、すごく良かったです……! 渚ちゃんが『探偵事務所を開く』って言い出したシーン、胸が熱くなりました。最初は守られるだけだった彼女が、自分の意思で未来を描けるようになったんだなって。峯岸さんの照れ隠しのツンデレ返しも最高で、思わずにやけちゃいました。次の事件も楽しみですが、それ以上にこの三人の絆がこれからどう育っていくのか、すごく気になります🤍」
キュルノ
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蒼月
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