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そうだ。
小野原に真衣香を攻撃させたのも。
今小野原が傷ついているのも、坪井が厳しい台詞を叩きつけるのも。
言わせてしまった、そう”させてしまった” 自分が元凶ではないのだろうか。
途端に嬉しさも胸の痛みも全てが不甲斐なさに変わっていく。
(小野原さんの苛立ちは、当たり前だよ)
こんな、うじうじしてばっかりの女に大好きな人をいきなり持っていかれて。
そしてその真実はと言えば、真衣香がただタイミングよく一緒にいた。 それだけの理由なのだ。
「小野原さんたちがあいつに仕事押し付けに行ってんのは高柳部長に話し入れてるし、人事の部長はうちの部長の大先輩で頭あがんないって言うし、立花の上司は総務の課長と人事の部長じゃないですか」
畳み込むように坪井が鋭い言葉を矢継ぎ早に投げ続ける。
「一応これ前置きで言いますけど、部長がうちの部に置いときたいのは金になる俺の方なんすよ」
「前置き?」
坪井の言葉に答えたのは次は小野原ではなく、森野だった。
「そ。一緒に仕事したくないって言いたくないんだよね、わかる? 森野、小野原さんも。 嫌ですよね、自分のせいで森野も巻き込んで、どーします? バカにしてる総務にでも二人で行きます? 」
明るい声で笑みを浮かべる陽気な同期。
顔だっていいから、いつも誰かに囲まれていて。
優しく朗らかな、人気者。
そのイメージだけが、数日前までの真衣香にとっての坪井だ。
そこから様々な表情を知り、極め付けは、今この瞬間かもしれない。
「ま、俺的には万々歳っすよ。でも嫌ですよね? プライドへし折られて、便利屋だなんだって見下されてさ、耐えられないでしょ、小野原さんも森野も」
「待ってよ、ちょっとさ、落ち着いて」
「待ちませんよ、ねえわかります? 無能な人間作り上げて安心しときたいんでしょ。効率悪い上に滑稽だし、高柳部長がめちゃくちゃ嫌いなタイプ」
口を挟ませない勢いで糾弾する坪井の声が一層低く這うようにして、囁くように、けれどハッキリと言葉を付け加える。
「だったら、都合の良い無能な人間ってあいつじゃなくても、その役小野原さんでもいーんすよね」
それが真衣香を庇う意思を持って、その上での言葉なのだとわかって。
それでも。これ以上の言葉は何の解決にもならないどころか……
(私が坪井くんの隣にいるに相応しくないから、坪井くんはこうして誰かを傷つける言葉を発してしまってる)
坪井の持つ彼なりの正義感をこんな形で使わせてしまってはダメなんだ。
その考えにたどり着いた真衣香は、無意識に声を発していた。
「それは……」
小野原の不安そうな、そして怯えたような声。
一方の坪井は軽い雰囲気で会話しているかのようで、けれど冷たく刺々しいばかりの内容だ。