テラーノベル
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灼(あかり)がパーティーに加入してから数日。
僕たちは三人での連携を高めるため、
渋谷の外れにある訓練場へ向かった。
廃ビルを改造した広い空間。
壁には魔法の痕跡、床には焦げ跡。
冒険者たちが練習に使う場所だ。
「じゃあ、まずは呼び方を決めようか」
凛が言った。
「え……よ、呼び方……?」
灼は胸元で手をぎゅっと握りしめ、
視線を泳がせている。
「だって二人とも“凛”だしね。
呼び分けないと混ざるよ」
「あ、確かに」
僕も頷く。
灼は小さく深呼吸し、
蚊の鳴くような声で言った。
「えっと……
お、男の子の方は……“凛くん”で……
女の子の方は……“凛ちゃん”……で……」
僕は思わず言った。
「男の子……?
僕、女の子だよ?」
灼は固まった。
「……えっ」
顔が一気に真っ赤になる。
「えっ……えっ……
で、でも……かっこよくて……
声も落ち着いてて……
てっきり……」
凛”ちゃん”が笑いながら肩をすくめた。
「まぁ確かに、中性的だしね」
灼は両手を胸元でぎゅっと握りしめた。
「ご、ごめんなさい……!
ひ、人を見るの……苦手で……
ま、間違えました……!」
僕は苦笑しながら言った。
「じゃあ、“凛くん”じゃなくて“凛さん”でいいよ」
灼はこくこくと頷いた。
「り、凛さん……
凛ちゃん……
……が、がんばります……!」
凛ちゃんは優しく笑った。
「うん、それでいいよ。
灼ちゃん、よろしくね」
「よ、よろしく……お願いします……!」
呼び名が決まったところで、
僕たちは訓練場の中央に立った。
「じゃあ、軽く動いてみようか」
凛ちゃんが言う。
灼は胸元で手を握りしめ、
小さく頷いた。
「……り、凛さん……凛ちゃん……
よ、よろしく……お願いします……」
声は震えているけど、
その瞳はちゃんと前を向いていた。
練習に入る。
「じゃあ灼ちゃん、まずは自由に動いてみて」
凛ちゃんが優しく促す。
灼は深呼吸し、
一歩、前へ。
その瞬間――
空気が変わった。
灼は軽いステップで前に出て、
すぐに後ろへ跳び、
横へ滑るように移動し、
また戻る。
派手ではない。
でも――
無駄がない。
「……灼ちゃん、動き綺麗だね」
凛ちゃんが思わず呟く。
「えっ……そ、そう……ですか……?」
灼は耳まで赤くなる。
僕も見ていて思った。
(この子……基礎がしっかりしてる)
でも本人は気づいていないらしい。
「じゃあ、灼ちゃんの動きに合わせて
私が防御を張るね」
凛ちゃんが光の壁を展開する。
「僕は召喚のタイミングを合わせるよ」
「は、はい……!」
灼が動く。
凛ちゃんが防御を合わせる。
僕は召喚陣の位置を調整する。
最初はぎこちない。
でも、何度か繰り返すうちに――
「……あ、合ってきたね」
凛ちゃんが笑う。
「うん。
三人で動くと、意外と形になるね」
灼は息を切らしながら、
小さく笑った。
「ふ、二人が……
やさしいから……です……」
その言葉に、
僕と凛ちゃんは思わず顔を見合わせて笑いあった。
休憩中、
灼はペットボトルを両手で持ちながら、
もじもじしていた。
「……あ、あの……
わ、私……
こ、こういうの……初めてで……」
「パーティー練習?」
凛ちゃんが聞く。
灼はこくりと頷いた。
「ひ、人と……合わせるの……
む、難しくて……
で、でも……
た、楽しい……です……」
その言葉は小さかったけれど、
確かに本音だった。
僕は自然と笑った。
「じゃあ、これからもっと上手くなるね。
三人なら」
灼は顔を真っ赤にしながらも、
小さく頷いた。
「……はい……!」
夕方。
訓練場の窓から差し込む光が赤く染まる。
「今日はここまでにしよっか」
凛ちゃんが言う。
「うん。
灼もよく頑張ったね」
灼は胸元で手を握りしめ、
小さく、でも確かに微笑んだ。
「……あ、ありがとうございました……
り、凛さん……凛ちゃん……」
その笑顔は、
炎のように控えめで、
でも確かに温かかった。
こうして三人の初めての練習は終わった。
まだぎこちない。
まだ不安も多い。
でも、
この日から確かに、
僕たちのパーティーは“本当の意味で”動き始めた。
コメント
1件

すごい、、ほんまに、、