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月城 蓮桜音
4,944
ふわもちお餅
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隅々まで掃除された明るい待合室。
落ち着いて良く通る低い声。
きちんと整えられた髪と服。
そして、頼り甲斐がありそうな、真っ直ぐ相手を見て話してくれる優しそうな顔。
「……ちゃんとしたお医者さんいた」
診察室に通されて診察を受けた後、カノンの第一声がそれだった。
優しそうな表情はそのままに、医師は横のアトリに問う。
「また、ちゃんとしてない行動をしたのかな?アトリは」
ちゃんとした医師、さすが察しがいい。カノンは正直に答えた。
「家から徒歩5分くらいのとこで行き倒れてました」
顔の形は笑顔のままだが、確実に怒りのオーラが出ているのを、カノンは感じた。
「お、ま、え、なぁ~…わざわざ周りに飲食店が多い物件を譲ってやったのに」
「食べ物より、入手したばっかりの文献の方が美味しそうなんだなー、これが」
平然とアトリが胸を張る。悪びれる様子はない。
「…まあいい。その件はまた、じっくり話をしよう」
噛みつきそうに歯を見せた笑顔になった後、医師はカノンの髪の毛や爪の欠片を容器に入れて立ち上がった。
「ちょっと待ってて。髪の毛の成分は今調べてみるから」
「よろしくな。マコト」
もう夜だから、診療時間は終わっている。
無人の待合室に移動して、検査の結果を待つことにした。
(検査って…何を調べるんだろ)
紫がかった髪の子供は施設には何人もいるが、確かに外では見掛けることはなかった気がする。しかし、血相を変えて、こんなに急いで医者にかかりに来るようなことなのだろうか。
カノンが壁の貼り紙などを読んでいると、アトリがどこからかお茶を淹れて持ってきた。
マグカップを受け取って、長椅子に座る。
「仲いいの?勝手にお茶持ってきていいほど」
「あ、うん。彼はマコトっていって、もう長い付き合いなんだ」
アトリも向かいの椅子に腰掛けた。
今までより改まった表情で、カノンを見る。
「少し、話を聞いていい?施設のこと」
「――うん」
「周りにも、紫がかった髪の子供はいた?」
「いたよ。小さい子はよくわかんないけど、同じくらい長く施設にいる子には何人か。正直、そういう髪色の人が多い地域から来たんだと思って、あんまり気にしてなかった」
「不自然に、突然いなくなる子供は?」
何で、こんなにこわごわと訊いてくるのだろう。
カノンは施設の子供たちの顔を思い浮かべながら、慎重に考えて答えた。
「あたしの知る限りでは、いなかったと思う。だいたい裕福そうな夫婦に引き取られて行ったり、見た目がいい子は、金持ちそうな独身のオジサンオバサンに引き取られて行ったりした」
自分も正に、独身のお金持ちのオバサンが近日迎えに来るところだったのだが。
「誰か、決まった子にだけ、特別な仕事が来てお小遣いを貰ってたりは?」
「ないよ。あたし達の仕事っていったら、自分達の生活スペースや礼拝堂の掃除とか、あと地域の清掃活動くらい。施設からはお小遣いなんて出ない」
ふと、疑問に思ったらしく、アトリは首をかしげる。
「今回の旅費とか防寒着を買うお金は、どこから?」
「……あたし、清掃活動とかは手を抜かない主義だから、いつも本気で取り組んでたんだ。そしたら、内緒で色んな人がお小遣いくれたの。それを、誰かが困った時のためにコツコツ貯めてた」
「ほう。凄いね」
心から感心した声で言ってから、アトリはお茶を一口飲んで、マグカップをサイドテーブルに置いた。
「これが最後の質問だけど…シスターエリィの、髪と瞳の色は?」
彼女の姿を頭に浮かべる。穏やかを装っているが、いつも瞳の奥には冷たい光があって、何だか気を許せない人だ。
「髪はいつも覆ってるから知らないけど、瞳は、白っぽく見える青だよ 」
「……そっか」
みつけた、とアトリの唇が動いた気がした。
ちょうどそこに、奥の部屋のドアが開いて、マコトが戻ってきた。
「例の『リリのギフト』で間違いない」
前置きもなく、結論だけ告げる。
(何それ、絵本のタイトル?リリって?)
カノンの頭の中に疑問符が湧いていたが、二人の会話は彼女を取り残していく。
「侵食は、おまえほど進んでないようだな。薬の強さの調整が可能になったのか、体質の問題かは判らないが」
「カノンから話を聞いた限り、前回のように何らかの仕事を請け負わせてたりはしないようだ。ただ、日常的に、かなりの頻度で投薬しているっぽい……他の目的もあるんじゃないかな」
「売り込み先の路線変更、って感じか」
男二人が深刻な顔で話している内容が、聞いていていいものか判らなくなって来たので、カノンはお茶を飲み干してから、壁の貼り紙に目を通すことにした。風邪予防に関する内容だ。
油断していたら、急にマコトがこちらに質問を振ってきた。
「それで君は、どんなちからが発現したんだ?」
「ち、ちから?ナンノコト?」
無邪気な子供の顔で誤魔化そうとする。しかし、アトリからにこやかに両肩を掴まれた。
「とぼけても無駄だよ。君は、精霊の力も魔力も使わずに、落ちてきた枯れ枝を粉砕したよね?」
結構切実に問い詰められる。観念して、カノンは立ち上がった。サイドテーブルに、マグカップをアトリのものと並べて置く。
「…そんなに、大したことは出来ないよ?」
アトリの手から逃れ、 集中するため、握り拳を作り力を込めるイメージをする。
マグカップが二つ宙に浮く。
「最初会った時、広場から診療所まであたし1人で送って行ったでしょ?それもこの感じ。ちょっと浮かせて引っ張った」
地方に住んでいては、滅多に見る機会はないが、過去の記憶にある『魔法』は、呪文や発動の光で、派手な印象だった。それに比べたらカノンのちからは、手を使うことの延長線上にある地味なものだと思う。
「あとは、落ちてきた危ないものを振り払ったり、擦り傷を消したり…出来るのは、そんなもんかな。地味でごめん」
「えぇ……」
マコトは、二の句が継げないようで、ずっと口を開いたままでいる。
再び両肩を掴まれ、アトリは真剣な面持ちで確認してきた。
「それ、シスター達には知られてる?」
「言うわけないじゃん。なんか大人たち、みんな良くしてくれるけど怖いんだもん」
何なら、まだ出会ったばかりのこの二人の方が、まだ親しみを感じているくらいだ。カノンは施設の職員達には気を許していない。
「……賢明だったよ。良かった」
彼らが長い安堵の溜め息を吐く。
「お茶、お代わり持ってくる。オレも飲みたくなったし」
マコトがマグカップを持って奥に引っ込んだ。休憩か、終了か。
「ところで、『リリのギフト』って何?」
質問責めが終わったと感じたカノンは、先程から気になっていたことをアトリに訪ねてみる。
「聞かれてたか……」
彼は薄い紫色の瞳を伏し目がちにして言った。
「紫の毒――条件が合ってしまった子供の、人間の奥底にある力を呼び覚ましてしまう薬のことだよ」
コメント
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第4話、読み終えたよ! カノンの「ちゃんとしたお医者さんいた」っていう第一声、めっちゃツボったw 今までの環境がどんだけヤバかったか一発で伝わるし。 アトリとマコトの会話で「リリのギフト」って単語出てきた時の不気味さと、カノンが自分の力を隠してた判断が正解だったって分かる流れ、ゾクッとしたわ。 「言うわけないじゃん。なんか大人たち、みんな良くしてくれるけど怖いんだもん」ってカノンの直感、鋭いよね…次どうなるか気になる🔥