⚠注意
① 引き続き,記憶の追憶です。苦手な方は回れ右をしていただけると幸いです。
② 「」が現実(?)のエマ達のセリフで,()が同じく現実(?)のエマ達の思考です。
③ []が記憶の中のエマ達のセリフで,〚〛が同じく記憶の中のエマ達の思考です。
④ アニメと漫画両方を加えていますが,アニメの方は,記憶が曖昧なので,おかしな部分もあるとは思いますが,ご了承下さい。
⑤ 原作にもアニメにもないセリフを,私が一部,入れています。
それでは,本編へどうぞ!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2045年10月18日。コニーが出荷されてから一週間が経とうとしていた。
[外だー!!]
[エマ,待って。]
テストが終わり,ボールを持った状態で両手を上げて外へ出たエマに,イザベラは待ったをかけた。
エマがくるりと振り返ると,スッとイザベラの手がエマの首元に伸びる。
[襟が曲がっているわ。]
[わ!気づかなかった!いつから!?]
[ガキ。]
エマの曲がった襟をイザベラが直していると,その横を,本を手にして通りかかったレイがケラケラと笑いながら誂った。
エマはそれに顔を赤くして抗議し,イザベラは口元に手を当ててクスクスと笑う。
[レ〜イ〜!?]
[ふふふっ…。]
レイがそれをガン無視するので,仕方がないと溜息をついたエマは,笑顔でイザベラに向き直る。
イザベラも,エマに笑顔を向けると,サラッとエマの癖のある髪をかき上げて左耳に触れた。
[行ってらっしゃい。]
エマはそれに嬉しそうに微笑むと,ボールを脇に抱えてタタタッと走っていった。
[行ってきまーす!!]
エマがそう言ってイザベラに大きく手を振ると,すれ違いざまに,レイがニッと笑った。
[上出来。]
[ありがとう。またあとで! ]
走りながらレイにそう言ったエマは,森の前で待っていたノーマンと合流する。
[お待たせ!行こう!]
[うん。]
そう言って森へと足を運んでいくエマとノーマン。
それに続くようにさり気なく歩いて森へ向かうレイ。
ニヤリと不気味に笑うクローネ。
ハウスの前から監視するように見つめるイザベラ。
今日もまた,食用児(子供)達と飼育官(大人)達との対決が幕を開ける。
[しかし耳か…。]
エマからの報告を受けたレイは,自身の左耳を触りながら感心したように呟いた。
[確かにこれは気づかねぇな。言われりゃあるけど。]
レイのその何気ない一言に,コナンは思わず眉根を寄せた。
(ある……?エマ(あいつ)は『自分の触っててもわかんない』って言ってたのに…?)
僅かな疑問を抱いてコナンは映像を見つめた。
腕組みをしているノーマンが,驚いたように若干目を見開いてエマを見つめた。
[“採血痕”なんて話も,初めて知ったよ…。]
[俺も。]
レイがノーマンの言葉に肯定すると,それを合図に,ノーマンは自分の耳を触って眉を顰めた。
[そんなすぐ消える痕なのか……。]
[うん…。]
ノーマンの言葉に,エマは手に持ったボールを見つめるように俯いた。
[本当,それくらいで消えるし…私,無意識にずっと疑ってこなかった…。ごめん……。]
意気消沈したエマを安心させるように,ノーマンはパッと両手を広げ,笑顔を浮かべた。
[いや,お手柄だよエマ!『場所』や『形』,『大きさ』が判った!次に進める!]
心から喜んでいる様子のノーマンに,エマは一瞬驚いたように目を見開いたが,コクリと頷くと,ノーマンの言葉を詳しく言うようにスッと人差し指を前に出す。
[『場所』の次──]
そして,3人の言葉と動作が一致した。
[[[『壊し方』。]]]
3人共が,ピッと人差し指を中心に向けてそう言うと,その指を耳に持っていったノーマンが,最初に口を開いた。
[どうする?切開して調べるにしても…]
[バレるよね…。]
ノーマンの言葉を,エマが眉を寄せて引き継いだ。
〚例えば,耳に何かして,それを髪で隠しても…さっきみたいに髪をかき上げられたら……〛
エマは,先程のことを思い出し,自身の胸に手を当てた。
[さっき,内心ドキッとしちゃった。……今までも,実は見てたのかな…。発信器のある左耳(みみ)に何事もないかって…。]
[かもな。]
エマの言葉に,レイが前を向いたまま,小さく頷いた。
そして,その頭の回転の速さをここで発揮する。
[個人の信号を特定できない。『確認』なしには位置がわからない。門や塀に近づいても“通知”一つしない。──俺達に埋められている発信器は,機能としては割と甘い。]
[えっ…甘いの?]
エマが驚いて聞き返すと,レイはそれに付け足すように続けた。
[でも埋めている。なぜか。──発信器さえ健在ならどこまでも追える自信があるんだろう。たとえ,こっそり門や塀を越えたとしてもな。]
〚壊れていない…ならば手の内…。〛
レイの言葉に,エマは再度自身の耳に手を当てた。
すると,エマ同様,レイの言葉を受けて考え込んでいたノーマンが,驚いたように唐突に顔を上げた。
[待って。それって,もし“通知”をするなら,発信器が壊れた時ってこと?]
[えっ…。]
[その可能性もあるわな。]
[?…どういうこと?]
理解しきれていないエマが,レイを振り返って尋ねる。
エマの問いかけに,レイは相変わらずの癖で掌を上に向けながら話し出した。
[壊れたら追えない。壊れなきゃ追える。じゃあ壊れた時だけすぐわかるようにしようってことだよ。例えば,アラームとかで。]
レイの言葉に,エマはハッとして目を見開いた。
[“壊したらママに知らせる”?すぐバレる…!?]
[まぁ,“通知”なんてものが実際あればの話だけど。]
[でも,ママが僕らにわざと発信器の存在を教えた点を考えると…“教えても問題ない”ってことなら……?]
そこで,ノーマンとレイの声が揃った。
[[簡単には否定できない…。]]
レイはもう一度自分の左耳に触れる。
[迂闊に触って壊すのも危ない……。]
ノーマンも,顎に手を当ててレイに同意するように呟く。
[壊すのは,あくまで逃げる時。]
2人のその言葉に,エマはぎょっとして瞠目した。
[えぇえ!!?でも,じゃあ,どうやって…壊し方……!!!]
すると,レイが,その混乱を,静かな声で抑えるように口を挟んだ。
[それなんだけど…。この『形』と『大きさ』…ちょっと思い当たることがある。この件は俺に任せてくれないか?]
[…!]
耳を弄りながら言ったレイに,ノーマンは目を細めた。
[いいの?]
[ああ。]
[レイが言うなら…じゃあ任せた。]
ノーマンが意味ありげにレイを見ながら一言,聞き返す。
レイも,そのノーマンの様子を受けながら,小さく頷いた。
エマは,気持ちの籠もった目でレイを見つめて託す。
そうやって,発信器の件が一応一段落つくと,ノーマンはもう一度顎に手をやった。
[あとは,『全員を連れ出す方法』……。]
ノーマンはそう呟くと,人差し指と中指を立てて悩ましげに言った。
[“みんなママを信じきっていること”と,“多分,真実に耐えられないこと”が問題だな…。]
[『嘘ついて連れ出す』とかになるのかな…。]
エマも前々から気になっていたのか,目を伏せた。
それにレイは付け足すように言う。
[それと単純に,**“能力的不足”**な。]
ピッと人差し指を立てたレイは,真面目な顔でサラッと厳しい指摘を加える。
[わかりやすく言えば“足手まとい”。]
[レイ!!!]
ブンッ!!!!と力任せに,エマは手にしていたボールを,思いっきりレイに投げ飛ばした。
スピードも,威力も,その他諸々,途轍もなく,恐ろしい程の勢いを持ったボールに,ノーマンは思わず顔を青褪めさせて身を引いたが,レイは,顔を軽く横にずらし,パシッと軽い音を立ててそのボールを難なくキャッチした。
コナン達も思わずその威力に若干引いた目でエマを見つめる。
だが,エマは対して何とも思っていない様子で,コナン達の視線にキョトンと首を傾げるだけだった。
映像内のレイも,何とも思っていない表情で正論をぶつけた。
[**でも,事実だろ?**運動が苦手な奴もいるし,ロクに歩けない赤ん坊もいるんだぞ。]
[………]
エマもそれにムッとしつつも耳を傾けた。
ノーマンは俯いていて顔に影を落とす。
[………]
その頭の中には,数日前にレイと交わした会話の内容が浮かんでいた。
〘方法は一つ。ママとシスターを…〙
そう言ってレイは洗っていたフォークを皿に打ち付けていた。
ノーマンは眉を寄せる。
〚やっぱり…そうするしか無いのか……。〛と考えかけたその時。よく通る声が響いた。
[それについては考えた!]
[えっ…。]
[考えがあるの!]
そう言ったエマは,グッと力を込めた拳を胸にドンッと当ててハッキリと言った。
[鬼ごっこ。]
[[………え…?]]
ノーマンとレイの間の抜けた声が人生で初めて揃った瞬間だった。
エマはトンッと指を自分の頭に当てて真剣に続ける。
[ノーマンが『鬼』で,みんなが逃げるの。頭と,体を使って。]
[!…遊びのフリをした“訓練”ってことか……。それならママにもバレない!]
[それをすれば鬼(やつら)から逃げられるってわけじゃないけど,脱獄にせよ,その後にせよ,逃走の基礎力は上げられると思う。]
エマはグッと意気込むと,真っ直ぐにノーマンとレイを見据えた。
[体の使い方は,私が教える…。頭の使い方は…ノーマンと,レイが先生で……私達が生徒。]
エマがそう言い終わった瞬間,グルンッ!!と場面が切り替わり,カレンダーを見るに,10月27日の光景らしい。コニーの出荷から,丁度2週間が過ぎた頃。いくら何でも飛ばしすぎだとコナン達が呆れていると,相変わらず木に背を預けて本を読んでいるレイの顔に影が落ちた。
レイはスッと無表情で上を見上げる。
そこにいたのはイザベラだった。
イザベラは,優しく微笑みながら,レイを見つめている。
[今日もまた一人で読書なのね。]
[まぁね。]
レイは近寄ってきたのがイザベラで,大した用もないと分かると,さして興味が無さそうに素っ気なく返して,目線を本に戻した。
イザベラは周りを見渡す。
[みんなは?]
[さぁ…?森で鬼ごっこじゃない?]
レイのその言葉を肯定するかのように,切り替わった場面──森の中では,殆どの子供達が鬼ごっこに励んでいた。
エマは木から飛び降り,スタッと,軽く,小さな音を立てて着地すると,スッと,真っ直ぐに森の一方を指し示す。
[こっち!]
小さな声で呟いたエマに,フィル,エウゲン,シェリー,ダムディンはその言葉通りの道へと走っていった。
森の中を自由自在に逃げ回っていたラニオンは,その運動神経の良さを活かして,軽やかに,素早く動き回る。
すると,ガッ!!!と勢い余ってコケそうになり,ラニオンは足を止めた。
転倒することは防げたが,別の問題が生じたからだ。──足跡がついてしまったのだ。
ラニオは足跡を見てしゃがみ込んだ。
[おっと!……ノーマンは,こういうの見てるんだっけ…。]
鬼ごっこをする前に,レイが助言してくれたことを思い出し,ラニオンは立ち上がるとキョロキョロと辺りを見回して,自身が進んで行っていた,2つに分かれている道を見つめた。
[………]
少し考えると,ラニオンはさっきついてしまった足跡をザザッという音を立てて消す。
[じゃあこっち消して……]
2つに分かれた道の片方にだけ足跡をつけると,そのまま,タンッ!と軽い音を立ててもう片方の道を進んでいった。
[逆側の道に跡つけとこう♪]
ウキウキとした気分で進んでいったラニオンと入れ替わるようにそこに来たノーマンは,その足跡を見つけて微笑んだ。
そして,その跡とは逆側の道に進んでいった。
〘考えろ。逃げやすいのはどっちだ。〙
逃げる前に,そう言ってくれたレイを思い出し,ドンはピンッ!と唾液で濡らした人差し指を立てる。
〚ええと…‥風下…風下……こっちか!〛
ダッ!と一気に踏み込んだドンは,風下へと走っていった。
[………]
ノーマンは左右の耳に手を当て,目を瞑る。
森の中は静かで,今までの鬼ごっことは段違いだった。
ノーマンは思わず苦笑した。
〚これ……ほぼ,僕とレイの間接的な戦略の対決になってる気がするなぁ…。と言っても,皆,まだまだなところもあるから,レイが鬼ごっこする時には届かないけれど…。でも,ここ数日で結構良くはなってきてるからなぁ……。〛
やれやれと小さく息をついたノーマンは,森の奥へと進んでいった。
ラニオン同様,元々運動神経の良いトーマは,ぴょんぴょんと跳ねながら木を降りると,感動したように呟いた。
[面白ェ!!前より全然捕まらない!]
そう言って鼻を高くしたトーマに,背後から忍び寄る影が一つ。
ノーマンだ。
ニコニコと微笑んで背後から近づいてくるノーマンには気づかず,トーマは腕を組んで自信満々に言った。
[これなら俺もいけるか……わああぁ!!!!]
も!と続くはずの言葉は,ノーマンがトーマの肩に触れたことによって別の音に変わった。
[うまく逃げたと思ったのにな〜。]
ノーマンに捕まってしまったトーマは,庭に寝転んで頬杖をつきながら溜息混じりに足をパタパタとさせていた。
その後ろでは,トーマよりも前に捕まったマルク達が群がっている。
だが,群がっているのはトーマにではない。
そのトーマの目の前にいるレイに群がっているのだ。
ポムッとレイはトーマの頭に優しく手を乗せた。
[自分の痕跡消すだけじゃダメだ。相手の痕跡も見ねぇと。]
[相手の痕跡…?]
[そう。あえて少しずつヒントを残してんだぞ,奴ァ…。それに,ノーマンはお前らの癖も読んでる。]
トーマの頭から一旦手を離したレイは,ピッと人差し指を立てた。
[例えばトーマ。お前は大抵──]
何かを言おうとしたレイの言葉は途中で途切れた。
レイが,急にバッと立ち上がって辺りを見渡したからだ。
[?……レイ?]
[オイ,どこ行った!?]
[?…誰が?]
チッと,レイはトーマ達には聞こえないくらい,小さく舌打ちをした。
〚あいつ……!シスター・クローネ……!!どこ行った!?さっきまでママの近くにいたのに…!クソッ!!しくじった!!〛
くっとレイが悔しさで歯を噛み締めていた丁度その頃。全員捕まえ終えたところのノーマンと,捕まってしまったエマ達は,森の中でザワザワと騒いでいた。
目の前に,コンパクトを手にしたクローネが立っているからだ。
クローネはニヤリと不気味に微笑んだ。
[楽しそうね。鬼ごっこ。私も混ぜて♡]
クローネがそう言うと,ノーマンとエマは探るように目を細め,子供達は目を輝かせた。
[は?どういうこと?]
ばーん!!!!という効果音がつきそうな程,レイは沢山の子供達に囲まれて(捕まって)いた。
レイは不快そうに眉根を寄せて目の前で嬉しそうに微笑んでいるクローネを見つめる。
〚は…?何だこの状況……。頼むから誰か説明してくれ…。つか,マジでシスター顔怖ェ…。笑ってても怖ェってどういう顔のつくりしてんだよ……。〛
ピッタリと貼り付いてくる子供達。
ニコニコと微笑んでいるクローネ。
レイはここ数日の疲れが一気に出てくる感覚がした。
クローネは,ぱあぁぁっ!!!という効果音をつけてにっこりと笑うと,両手を合わせた。
[みんなと仲良くなりたいの。鬼ごっこしましょう。]
[………………]
レイは一度無表情に戻ったが,再び嫌そうに顔を顰めて,ノーマンに耳打ちした。
[邪魔しに来たか?もしくは調べに…]
[問題ない。何も出ないよ。]
レイの(途轍もなく)嫌そうな雰囲気を感じ取ったノーマンが,笑顔で(笑顔を作って)それを遮った。
[僕らは皆,レベルの高い鬼ごっこで遊んでいるだけ。邪魔されることもない。]
ノーマンの言葉に,エマは真っ直ぐにクローネを見据え,〚ビビるな…。〛と自身に言い聞かせてた。
そして,口角が上がるよう,両頬を両手で持ち上げる。
〚あの頃の…何も知らない無邪気なエマならどうする?ワクワクが止まらないはず。──笑え。〛
そう考えていると,エマは,レイが嘗て言っていた言葉を思い出した。
〘逆に喜んでやろうぜ。情報源が2つも増えたってな。〙
〚あ…。〛
エマは一瞬瞠目すると,ノーマンとレイを振り返った。
[“チャンス”だよね!敵を知るチャンス!]
〚〚…!〛〛
エマの言葉に,レイも漸くニッと笑った。
[ああ。そうだな。]
〚〚〚これは“探り合い”。〛〛〛
エマ,ノーマン,レイが挑戦的な笑みを浮かべてクローネを見つめていると,クローネは,鬼ごっこに参加するために集まっている子供達を見回して口火を切った。
[勝負の時間は20分。私が『鬼』よ。みんな,逃げ切ってね♡]
クローネがニヤリと笑うと,子供達は一斉に森へと駆け出した。
[5…6…7…8…9…10!]
目を塞いでいた手を除け,クローネはくるりと森に向き直った。
[さぁて♡気になっていたのよね。森の中の子供達。]
そう言ってスタートを切ったクローネは,今までのことを思い出す。
〚ハウス(ここ)へ来て10日。私は忠実な“見張り”だった。日夜,決められた位置で……ただ見張る……。それだけ……しか,できなかった!!〛
クローネは,くっと屈辱に顔を歪める。
〚**屈辱よ!!**あの女,本当に隙がない。あと,私のこと全く信用していないわ!!〛
だが,クローネは,ダダダダッ!!!と走りながら,ニヤリと笑った。
〚でも,今日,ようやく隙を突けた。まずは小手調べ。イザベラは標的についても決して明かさない。──でも,〛
クローネは,初日にイザベラに言われた言葉を思い出す。
〘出荷まで逃さなければいいのよ。〙
〘私(ここ)の子供は特別なの。〙
〘これは農園の利益でもある。〙
〚あの辺りの言葉から考えて,多分,イザベラが見当をつけているのは,“出荷間近な最年長(フルスコア)”。〛
猛スピードで森の中を走りながら,クローネは不気味な笑みを深める。
〚見てやろうじゃない。奴の子供達の実力を!そして,標的を暴き,私がママの座を奪うのよ!!〛
クローネがそう考えている丁度その時。
ノーマンとレイは森の入口──クローネがいるであろう方角を見つめながら話していた。
レイが若干面倒臭そうに口を開く。
[さて。敵はどう動く?]
[これだけ多くの子供を集めたけれど,20分という制限時間つき。恐らく,シスターはまず僕らを探す。狙いは年長者(ぼくら)5人だろうからね。]
ノーマンの言葉に,レイが付け足すように続いた。
[まずは年長者(オレたち)。そして,その途中で見つけた弟妹(チビたち)を根こそぎ捕まえていく…。そんなとこだろ。]
レイがそう言って締め括ると,その場は解散した。
同じくその頃,クローネは,走りながら作戦を考えていたが,そのクローネの思考では,もう既に作戦を立て終わっていた。
〚──そんな感じで行きましょう。〛
と。
つまり,ノーマンとレイに作戦を完全に読まれているのだ。
そんなことは露知らないクローネは,ふと,違和感に気付き,ピタリと足を止めた。
[………!]
そして,片耳に手を当てる。
〚おかしい…。何これ…。何の“跡”もない…。〛
ふと,足元に視線を落とすと,そこには幾つかの足跡があった。
クローネは眉を寄せる。
〚足跡…。……ダミー!?これが子供の鬼ごっこ…!?〛
クローネは静かな森の中を見回した。
〚そう…。なるほど。“特別”な子供……。ハイスコアでなくても,他のプラントとは違うってワケ…。〛
クローネはふっと笑い,手にしていたコンパクトをパタンと閉じた。
[気が変わったわ。コレも封印♪]
そう言うなり,頭の中で,記憶した子供達の情報を並べたクローネは,バッと両手を広げると同時に,空を見上げた。
クローネがそう決めて少しした時。
エマは木の上に,レイとノーマンは草むらに隠れて,目だけで辺りを見回していた。
[…追ってこないね…。]
[手を変えたか?]
[…………]
エマが若干不安そうに,レイは目を細めて,小さく呟いた。
ノーマンは,何も言わず,スッと眼球だけを右から左に動かして,辺りを警戒するように見つめていた。
その時。ガサッと,5人の年少者がそれぞれ別々の方向から,一斉に飛び出てきた。
その手には何故か,葉っぱを持っていた。
[[[[[あれっ?]]]]]
[[[…!]]]
出てきた子達も,エマ達も驚いていると,待ち伏せていたように,クローネが,どこからともなくバッと飛び出してきて,その勢いで,5人共に抱きつく。
[わぁっ!]
[捕まえた♡]
エマはその光景に眉を顰めた。
〚年少者(あのこたち),一ヵ所に集められてる?一体,どうやって…〛
ノーマンは近くに落ちていた葉を拾うと,薄く冷や汗を浮かべた。
その葉はなぜか,それぞれ中心の辺りが星やハートのマークで切り抜かれていた。
〚注意させた足元にこんなものを…。マークを切り抜いた『木の葉』。他にも,『花』や『文字』…。道々に並べて,興味を持った年少者をおびきよせている。〛
同じく,近くにあった葉を持って見つめていたレイは,横目でクローネを見ながら思考を巡らせていた。
〚ガキの好奇心利用した小細工。見かけああだが,そういう手も使うのか。〛
そして,小さく呟く。
[ただの馬鹿じゃなさそうだ。]
そして,ピンッ!と手にしていた葉を,指先で器用に弾いた。
〚ゲッ…どんどん捕まってく。〛
イベット達が捕まっていく様子を木の陰から見ていたドンは冷や汗を浮かべると,慌ててクローネから距離を取ろうと背を向けて走り出した。
一方,草むらから出て,クローネを追うようにしてその様子を見ていたノーマンは,走りながら分析をしていた。
〚年少者だけならともかく,既にナットやアンナ,トーマまで…。完全に動きを読まれている…。この数日で皆成長したけど,ほんの数日。個々での逃走はまだキツイか…。〛
ノーマンと同じく,走りながらクローネの動きをじっと観察していたレイも,思考を巡らせていた。
〚ヤベェな。単純に強ェ…。特に,あの体力。〛
ドドドドドッ!!!!!という豪快な音を立てて走るクローネの目前には,泣き叫びながら逃げ惑うラニオンがいた。
ラニオンは,全速力で走ってはいるが,頭はパニック状態であった。
〚追いつかれるぅ〜!!……あ!あそこは…!〛
ふと,目の前にある小さな木の根本にある小さな穴を見つけたラニオンは,勢いのまま,その穴の中に滑り込んだ。
〚ナイス!この狭さなら,大人は追って来れない…!〛
逃げ切れたと確信して,ラニオンが一息ついた。
その時。
[フンッ!!]
クローネによって,ラニオンの居た穴の入り口が大きく破壊された。………………素手で…。
ラニオンは思わず叫んだ。
そりゃそうだ。普通の反応だよ…。と,コナンは遠い目をしてそう思った。
ラニオンまでもが捕まってしまったのを,エマは冷や汗を流して近くの木の陰から見つめていた。
[ちょっ…聞いて!シスターまじパない!!]
シスターに捕まってすぐ,既に捕まってしまったトーマ達のいる大きな木の元まで叫びながら来たラニオンは,その光景に絶句した。
[え…?ドンとギルダ……もう捕まってんの?]
そう。
エマ,ノーマン,レイの最年長(フルスコア)に次ぐ年長者(ハイスコア)のドンとギルダが捕まっていたのだ。
2人は肩で息をして座り込んでいる。
ラニオンが,信じれない思いで見ていると,ドンが先に口を開いた。
[シスターヤベェよ…。どこまでも追って来る…。]
ギルダも,胸に手を当てて息を吐き出しながら言った。
[これ,ノーマンが鬼の時よりペース全然早いよ……。]
2人のその言葉を受けたラニオンは,驚いて,近くで息を切らしているナットに向き直った。
[えっ…じゃあ,あとあの3人だけ?]
[そうだな。残りノーマン達3人……]
ラニオンの問いに,未だ森の中に居るノーマン,レイ,エマを指すように森に指を向けて言いかけたナットは,違和感を感じ,[あれ…?]と驚いたように声を漏らした。
[5人?]
ナットがそう呟くと同時に,4歳のフィルと3歳のビビアンが森の中で楽しそうに笑っている光景に,場面が切り替わった。
フィルが前方に向けて,嬉しそうに手を振っている。
[エーマー!!]
横から飛び出してきたクローネがフィル達を捕らえるよりもコンマ一秒早く,ザパッ!!!と,エマが2人を脇に抱えて全速力で走り出した。
クローネも,同じく全速力でエマ達を追いかける。
[口閉じて!]
エマが鋭い声でそう指示すると,ぎゅむっと2人共,素直に指示に従い,両手で口を抑えた。
そして,ガサッ!!と草が生い茂った所に入り,暫く走ると,次に,岩肌が見えている所をタンッタンッ!!と軽やかに飛び越える。
クローネもその後を追いかける。
そして,その下……森の死角になる岩が立ち並んだ場所に,エマ達を追ってクローネが出ると,シン…と辺りは静まり返っていた。
クローネは眼球を左右に動かしながら口を開く。
[二人抱えて走り続けて…‥疲れたでしょう?エマ。]
クローネの様子に,エマは浅い息の漏れる口元を抑えて驚きに目を見開いた。
[休まなきゃ動けないわよね。こんな追われ方,したこともないでしょうし。]
〚嘘…!シスター,汗一つかいてない…!〛
クローネは喋りながらスタスタと辺りを歩き回る。
[知ってる?ノーマンの弱点は“体力”。昔,体が弱かったんですってね。]
〚ママからの情報…?〛
息を落ち着かせながら,エマは眉を顰めた。
クローネはガサッと草を掻き分ける。
[レイの弱点は“諦めが少し早いところ”。判断が早い分,切り捨ててしまうのも早いのね。]
〚そんなことまで…!〛
エマがもう一度絶句して,クローネを横目で見ていると,クローネが両手を広げてくるっと振り返った。
[そしてエマ。あなたの弱点は“甘さ”。自分が追われているのに,他の子抱えて逃げちゃうようなその“甘さ”よね…。]
事実であり,自覚もしていたことをハッキリと言われ,エマは奥歯を噛み締めた。
クローネは次いで,少し柔らかくした口調で再び歩き出す。
[諦めて出てきなさァーい。悪いようにはしないわ。]
[……………]
キュッと唇を引き結んで,エマは打開策を考える。
〚どうする…?シスターの体力は本当にヤバい。このままやり過ごす?……いや,まずシスターは私達を捕まえる。絶対に諦めない。なら,勢いよく飛び出して撒く……?いや,それじゃ今の状況の繰り返し。いつか必ず追いつかれる…。どうする?どうすれば……〛
エマがぐるぐると考えを巡らせていると,クローネは不意に飼育監の雰囲気を纏った。
[ねぇエマ。もし,あなたがあの日,“収穫”を見たのなら……]
〚──え?〛
[私はあなたの味方よ。]
エマは思わず思考と動きを止めて目を見開いた。
〚**“収穫”?**シスター今,そう言って──?〛
ふと,頭上に影が落ち,エマは恐る恐る上を見上げた。
そこには,ニヤリと笑うシスターの顔があった。
[見ぃつけた。]
[[[……!]]]
そこでグルッと場面が変わる。
捕まったエマ達が大きな木の元へ辿り着いた直後らしい。
捕まっている子供達が騒ぎ立てていた。
[あと2人!!]
[残り何分!?]
それに答えるように,もう一度森の中に場面が変わると,木に背を預けているレイが,懐中時計を見て呟いた。
[あと9分弱。]
[…そろそろだね。]
[ああ…。]
レイの報告に,腕を組んでいるノーマンは,神妙な面持ちで呟いた。
レイが時計をポケットに仕舞って顔を上げると,何かに気付いたように目を細めた。
ノーマンもつられて,レイの目線を辿るように生い茂った草木の向こうを見つめる。
[[…………]]
静寂の中に,ほんの少し,鋭さを持った風が吹きつけた。
レイは木から体を離し,ノーマンは組んでいた腕を解いて真っ直ぐに前方を見つめる。
ダダダダッ!!!!という音が僅かに聞こえ,その草木の奥から人影が僅かに見えると,何の合図も無しに,2人は同時に踏み込んだ。
と同時に,その草木の中から,クローネが飛び出してくる。
2人一緒に逃げているその様子を見て,クローネはほくそ笑んだ。
〚残り8分40秒。ノーマンは圧倒的体力差で追い詰めれば仕留められる。〛
クローネは前方を走る2人の内,向かって左側を走るレイを見ると,小馬鹿にしたように微笑んだ。
〚馬鹿ね。バラバラに逃げれば……まだレイの方は時間内なら逃げ切れたかもしれないのに…。〛
クローネのそんな心情を読み取っているかのように,ノーマンとレイは横目で後方を振り返った。
ノーマンは,小さい声でレイに話しかける。
[………シスターは恐らく,僕を狙ってくるだろう…。]
[ああ。ママから何の情報をもらっていない,なんてこと,絶対ありえねぇだろうからな。]
[うん…。]
そして,2人は目を合わせた。
そして,どちらからともなく,ニヤリと笑う。
[捕まったら……一生誂ってやるよ。ノーマン。]
[まさか。僕がシスター如きに捕まるとでも?……それよりもレイ,君こそ,もしシスターに追われたら……ちゃんと,逃げ切るんだよね?]
[当たり前。]
完全にクローネを舐めているとしか思えない会話をして,2人は真っ直ぐ前を見据えると,スピードをほんの少し上げて曲がることもなく突っ走った。
クローネは,上がった2人の速度に合わせて自身も速度を上げる。
そして,道が2つに分かれているところの前まで来ると,また何の合図もなしに,2人は二手に分かれた。
クローネから見て,ノーマンが向かって右側。レイが左側だ。
[…!]
クローネは迷うことなくノーマンの方へ進んでいった。
それを横目で捉えたレイは,ほんの少し口角を上げると,更にスピードを上げて入り組んだ場所を難なく進んでいく。
そして,エマとノーマンが真実を知った日の昼間に,鬼ごっこでエマが軽やかに飛び越えていた崖を,レイも同じように軽く飛び越えた。
「なぁにぃ〜!!!?てめぇもか!!!」
「え?何が?」
「うるっせぇな…。」
小五郎が思わずレイを指差して叫ぶが,その時点ではこの場に居なかったレイは,きょとんと首を傾げた。
次いで,ユウゴが恨みがましく小五郎を睨みつける。
これ以上何か言うと面倒なのはもう十分に学習済なので,小五郎は渋々押し黙った。
レイは少しの間,首を傾げたままだったが,合点がいったのか,興味を失ったのか,はたまた両方なのか,スッと映像に目を向けた。
映像では,レイが崖を飛び越えた直後だった。
タタタッと,クローネが走るよりもずっと軽やかな音を立てて,レイは走り続ける。
〚……………年少者(チビたち)捕まえてる時に見たシスターの動きで,もう既に癖は読めている。ならば…‥恐らくノーマンは………〛
ニヤリと笑うと,レイは急に右に方向転換をして坂を滑り降りた。
そして,その勢いのまま,グッと踏み込むと,大きく跳躍して数m先にある木の上方にある太い枝を片手で掴んだ。
〚行くならこっちの方が早い…!〛
そして,グッ…と腕の力と遠心力を使って枝の上に降り立つと,そのまま,木の枝から別の木の枝へと伝って,ある場所を目指して進んでいった。
小五郎達はもう,何も突っ込まないことにした。
少し時を遡って,レイと二手に分かれた後のノーマンは,勿論クローネに追われていた。
クローネはニヤリと笑う。
〚遅いわ!まずノーマンを狩る!!〛
ノーマンの背に手を伸ばして,クローネは思考を巡らせた。
〚ノーマンに3分。レイに5分。どちらも逃がさない!時間内に必ず仕留める!!〛
ノーマンは,走りながら,クローネを横目で見る。
〚………単純だね。まあ,確かに,僕の弱点は“体力”で合ってるけど…。あー。なんか,急にレイと鬼ごっこしたくなってきたなぁ……。でも,レイとの鬼ごっこって,大抵,僕が戦略で勝つか,レイが戦略で勝つか,もしくは最後が体力勝負になってレイが勝つかの3択なんだよねぇ〜。……まあ,シスターとの鬼ごっこ(これ)に比べたら,もっと,ずっと,圧倒的に,面白いからやりたいんだけど。〛
と,率直に思ったノーマンは,森の死角になる岩をタンッタンッ!と伝って渡る。
クローネもそれに続き,渡り切ったところで,ノーマンを───見失った。
キョロキョロと首を動かしていると,ふと,後方に気配を感じ,クローネは振り返る。
そこには,クローネの背よりも少し高い岩に依然として立ち,クローネを冷ややかな目で見下ろしているノーマンが居た。
クローネは背筋に冷たいものが流れたのを感じ,冷や汗を浮かべる。
〚**全然…捕まらない!!**何あの子…。あんなにヒョロヒョロで…体格も体力も,間違いなく私より格段に劣っているのに…。まるで,私が,追わされているみたいな──〛
その時。クローネはイザベラに言われた言葉をふと思い出した。
〘私(ここ)の子供は特別なの。〙
クローネは,イザベラのその言葉の意味を,ようやく理解したように目を見開く。
〚ただの満点(フルスコア)とは違うというの?〛
クローネは目の前に立つノーマンと,今この場には居ないレイの姿を思い浮かべた。
〚この子…いや,この子たち?まさか……奴らが求める……最高の……神──〛
と,その時。ノーマンから見て向かって右側から,レイが音も無くクローネに近づき,ポンッと,その肩に手を置いた。
クローネは,半ば呆然としたまま,レイを見下ろす。
レイはポケットから時計を取り出してクローネに見せるように掲げた。
[タイムアップ。]
[……!]
レイの言葉を合図に,スッとノーマンが岩の上に座り,頬杖をついた。
ニコニコと嬉しそうに笑うノーマンと,ニヤリと悪戯に成功したみたいに笑うレイとが,何の合図も無しに,今度は声を揃えた。
[[俺 / 僕達の勝ちだね。シスター。]]
[……っ…]
ノーマンとレイの声に,クローネは何も言い返せず,ただただ,唇を噛み締めた。
「『神……』?」
「『神経系』よ。」
クローネが言いかけた(or 思いかけた?)ことが気になったのか,目暮が首を傾げて呟くと,イザベラが静かにそれに答えた。
すると,今度は佐藤が被せて質問する。
「なぜそうだと言い切れるんですか?」
佐藤の問いに,イザベラはユウゴに確認するように見た。
それにユウゴが溜息混じりに小さく頷くのを見ると,イザベラは面倒臭そうに大きく溜息をつくと,心底面倒臭いという感情を隠しもせずに渋々説明を始めた。
「だってそうでしょう?農園は人間の“脳”が一番の好物。神経系くらい欲しがるわよ。………期待値の高いノーマンとレイなら特にね。」
「期待値…?」
今度は蘭だ。
イザベラはなぜわからないのかと言うように頭を抱えると,説明を続けた。
「レイ。あとは宜しく。」
「は?」
いや,違った。説明をレイに丸投げした。
レイは驚いたようにイザベラを見つめていたが,ふと,諦めたように息をつき,イザベラの代わりに説明した。
「『期待値』ってのは,なんつーか,『美味しい脳になるだろう』っていうのを鬼が決めたこと?っていうのかな。まぁ,つまりは見込みがあるってことだよ。」
説明などしたことがないからか,少し考えながら言ったレイの言葉に,イザベラは付け足すように,でも,面倒臭そうに言った。
「因みに,ノーマンは4歳の最初のテストからフルスコアしか取ったことがないっていうのがきっかけだけれど,レイは元々なのよ。産まれた瞬間から期待値が一番高かったとされているわ。」
イザベラの言葉に,驚いたようにコナン達はノーマンを見つめたが,続いたレイのくだりでバッと一気に視線がレイに集まる。
レイも初耳だったのか,若干驚いたように目を見開いていたが,ふと,合点がいったようにフッと笑って目を閉じた。
次いで,瞼を上げてイザベラをしっかりと目で捉えると,何もかも見透かしているように口角を上げる。
「だから俺はママのプラントに?農園側だって普通は避けたいはずだもんな。」
レイの言葉に,イザベラは一瞬だけレイを見てから,眉を寄せて複雑そうな表情になって目を逸らした。
イザベラのその反応に,レイはほんの一瞬だけ寂しそうな表情になるが,さすがの切り替えの速さでそれも消え,無表情に戻った。
そして,コナン達がどういう意味かを尋ねる前に,映像が再生される。
ノーマンとレイがみんなの元に戻り,軽く手を上げると,**[うおーっ!!]**と歓声が上がった。
[勝った!?勝ったの!?]
特に,ラニオンとトーマは大喜びしてノーマンとレイに抱き着いた。
その様子を,少し離れた場所で見ていたクローネは,冷や汗を流す。
〚……なんて化け物を飼っているの。この家は……。と同時に,なんて素晴らしい商品をつくり上げたの。イザベラ。〛
クローネは,子供達に群がられているノーマンとレイを見つめた。
〚能力的に見て,“標的”の最有力候補はあの二人…。〛
〚でも…。〛と,クローネは,今度はやや疲れた表情で笑っているエマを見た。
〚あの子も捨て難い…。そしてもう一人…。〛
スッと,クローネは年少者の相手をしているギルダへと視線を移す。
そして,ニヤリと笑った。
エマは子供達に気付かれない程度に目を鋭くさせた。
〚私は,シスターから逃げきれなかった…。試しに抱えてみたけど,もっと工夫が必要。………本番は,こんなもんじゃない。まして,本物の『鬼』が相手なら…尚更……。〛
エマがそんなことを考えている丁度その時。
ノーマンとレイはボソボソとした小さな声で話し合っていた。
[隊列組んで,チームで逃げなきゃダメだ。各者各チーム,能力や得意不得意でカバーし合える割り振りに……。]
ノーマンがそう呟くと,レイは小さく頷いて口をいつも以上に小さく開いた。
[でも,今日一番知りたかったことも判った。]
[うん。]
レイの言葉に,ノーマンが頷くと同時に,エマはぐるぐると頭を回していた。
〘私はあなたの味方よ。〙
鬼ごっこ中にシスターに言われた言葉が頭の中で何度も復唱される。
〚あの言葉…どういう意味なんだろう…?ママの罠?それともシスター……〛
カシャンッ!!と,いつの日にか,レイがフォークを皿に打ち付けた時の音がノーマンとレイの頭の中で響いた。
2人は,クローネを見て,不敵に,そして………残酷に,微笑む。
[背後はとれる。まずシスター。]
レイがそう呟くと,ノーマンがそれに続いた。
[多分,殺すことは不可能じゃない。]
2人のその表情は,やろうと思えばいつでも出来ると確信できるような,そんな不気味な笑顔だった。
ガッ!!!!と小五郎がレイに掴みかかった。
「……いくら何でも殺すのはダメだって分からねぇのか…。犯罪なんだよ。」
小五郎は怒りで顔を真っ赤にしているが,対するレイは,余裕そうな笑みで小五郎を見つめている。
そして,ようやっと口を開いた。
「『刑法第二編 第二十六章 第百九十九条 人を殺した者は死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する』……。でも,悪ィなおっさん…。あっちじゃ,法律なんてもんは無かった。」
サラリと罪状を完璧に言ってのけたレイに,小五郎達は一瞬目を瞬かせたが,一泊遅れて安室……いや,降谷がレイにゆっくりと近づいていった。
「知っているのなら話は早い。レイ君だったかな?……ちゃんとわかっているかい?人を殺していなくても,他人にそうさせるように唆しただけで,立派な犯罪になることを。」
降谷のその言葉にレイが答えるよりも早く,ノーマンはニコリと微笑んで口を挟んだ。
「勿論,わかっているさ。ね?レイ。」
「『刑法第二編 第二十六章 第六十一条 人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。2 教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする』……。だったっけ?お兄サン?」
ニヤリと,映像と同じ笑みを浮かべて,レイは笑った。
それに小五郎も降谷も,勿論他の警察官も額に青筋を立てて更に詰め寄ろうとした。
だが,それを遮るようにイザベラが小五郎の手を,パシッ!と軽い音を立てて払い除けた。
「……っ………」
「いや,何か言えっつの!!!」
イザベラは何か言いたそうに口を開いたり閉じたりを繰り返しているだけなので,思わず小五郎がツッコんだ。
すると,それまで静観していたエマとユウゴが,小五郎達とレイ達の間に割って入ってきた。
「黙って見れねぇのか?てめえらは。」
「レイを責めたら許さないって言ったよね?黙って見ててよ。」
ピリピリとひどく緊迫した雰囲気に,小五郎達は何度目か分からないくらいに押し黙った。
すると,その空気を切り裂くように,ポンッと,エマとユウゴの肩に,レイが手を置いた。
そのレイの表情は,とても優しい笑みが浮かんでいた。
「エマ…。ユウゴ…。ありがとう。もう……十分だって。だから見ようぜ。…な?」
「レイ………。うん。そうだね…。次に……進まないもんね!」
ニコッと微笑んで小五郎達を振り返って言ったエマだが,レイとは違って,その目は一切笑っていなかった。
エマ達が映像に向き直ると,再び映像が再生された。
ノーマン,レイ,エマは,揃って洗濯物を干していた。
くるっと回って,ノーマンは,後ろに居るエマを振り返る。
[これからはチームで鬼ごっこをしよう。]
[チームで鬼ごっこ?]
[ああ。]
キョトンと首を傾げるエマに,レイもエマを振り返り,再び辛辣な言葉をサラッと言ってのけた。
[今のまま,個々での逃走をしてたらほぼ死ぬ。]
[レ〜イ〜!!]
[まあまあ…。]
エマが不満げに声を上げると,ノーマンが眉を下げて宥めてくれる。
レイは言葉を続けた。だが,その言葉は,今言った言葉とは真逆で,柔和な言葉だった。
[でも,皆の動きは悪くなかった。データは色々手に入れた。]
髪で隠れた表情を読むことはできなかったが,口元を緩めて言ったレイの言葉に,ノーマンが続く。
[実際は隊列を組んでチームで逃げる。]
[そのための…チームに分けて,チームで逃げる鬼ごっこ…。]
エマが納得したように頷きながらそう言うと,レイが顔を上げて真面目な顔でサラッと無理難題をエマに押し付ける。
[とりあえずエマ。今から隊列の型,100種言うから全部覚えろ。]
[…!]
映像内のレイの言葉に,エマは勿論,小五郎も,コナンでさえも言葉を失う。
映像内のエマも,今のコナン達と同じ気持ちなのか,若干冷や汗を浮かべた。
[………それって,耳で?]
[できねぇ?]
ニヤリと笑って言ったレイに,エマは一瞬怯んだが,ニコニコとしているノーマンを見て,すぐにニッと笑う。
[楽勝!!]
エマがそう言うと,ノーマンとレイは満足そうに頷いた。
そして,再び,ノーマンが口を開く。
[より本番に。そして,その後の逃走に即した訓練(おにごっこ)に変えていこう。その上で……]
そこで一度言葉を切ったノーマンは,一度瞬きをしてから続けた。
[近く,ドンとギルダを引き入れよう。事情を話して,隊列を率いてもらうんだ。]
ノーマンのその言葉を合図に,3人は訓練(おにごっこ)の準備を始めた。
無論,エマは,隊列を100種覚えるところから始まる。
鬼ごっこをした後の昼食後の片付け中。
ノーマンとレイは,相変わらず食器洗いをしながら話していた。
すると,レイは,相変わらず,フォーク癖が悪いとでも言うのか,スッと洗いたてのフォークを背後のクローネに向けた。
[──で,こっちはどうする?]
レイの問いかけに,ノーマンは肩越しにクローネを振り返った。
そして,再び,レイの言葉を思い出す。
〘ママとシスターを──〙
スッと目を細めたノーマンは,静かに口を開いた。
[方法を考えよう。]
[…恐らく,この件では俺とお前しか動けねぇだろうからな。エマも弟妹(ほか)もムリだろ。心情的に。]
食器を洗いながらそう言ったレイに,ノーマンは影のついた笑顔を向ける。
笑顔の筈なのに,その顔に影があるせいで,どこか恐ろしく感じる。
[それが正常なんだけどね……。まず,ママとシスターを引き離すことかな。一人ずつ,2対1で封じていこう。]
ノーマンの言葉に,レイは溜息混じりに復唱した。
[封じる……ねぇ…。]
[殺すより難しい。]
洗い物が丁度終わったレイとノーマンは,食料庫に入っていった。
ノーマンが台車を押し,レイが食料庫の備品チェックの用箋挟を持っている。
レイは面倒臭そうに口を開いた。
[『殺すことは不可能じゃない』──のに,殺せねぇからな。別の意味で。]
[食品(ぼくら)にすら,発信器という細工をしているんだ。飼育者(ママたち)にも,何か,鬼が管理する上での細工があっても不思議じゃない。]
箱を片付けながら言ったノーマンに,レイも頷いて用箋挟を壁にかけてボヤく。
[だよな。憶測だが,0じゃねぇ。実際,病気や事故での突然死とかどうすんだって話だし。]
レイの言葉に,ノーマンは僅かに顔を上げた。
[手段は選ばない…!]
[ああ…。]
ノーマンの言葉に,レイも頷く。
[“拘束”して動きを止めるぞ!!]
[うん…!]
今度はレイが言った言葉に,ノーマンが肯定した。
今度は図書室。
ノーマンとレイは,そこでまた話をしていた。
ノーマンが心の底から思ったことを呟く。
[やっぱりママは恐ろしいよ…。]
ノーマンのその言葉に,腕に抱えた本を元の場所へ迷うことなく返しているレイは,目だけでノーマンを振り返った。
ノーマンは,腕を組んで,本棚に背を預けている。
[“発信器をわざと見せた”。……あれ一つで,①脅し『逃げられない』②発信器『壊せない』③飼育者(おとな)『殺せない』。……………いくつも僕らの動きを抑えている……。一見,悪手ともとれる,あの一手で──]
ノーマンの言葉に,レイは,本を返しながら口を開いた。
[俺達が絶対迷うってわかってる。そう育て(つくっ)たのはママだからな。]
そう言うと,レイは,スッと目を鋭くさせた。
〚一方で,迷わねぇ,気づかねぇ脳(やつ)なら,警戒にも値しない──と。〛
ノーマンも,眉を寄せた。
〚ママの背後はとれるかな…?〛
ノーマンがそう考えた直後。場面が突然変わった。
今度は森の中のようだ。ノーマン,レイの2人に,やっとエマが合流している。
[でも,この10日余りで,ママの手の内が見えて来た。]
ノーマンの確信したような声が森の奥に響いた。
エマはキョトンと首を傾げる。
[どういうこと…?]
ノーマンはそれに,一度頷いてから答えた。
[結論から言うと,ママは“標的”が最年長(ぼくら)3人──正確には,エマと僕にレイが加わったと既に“特定”できていると思う。]
[“特定”?“見当”や“疑い”じゃなくて?]
[“特定”だね。]
エマは眉を顰めてノーマンを見る。
[どうしてそう思うの?]
[色々あるけど……わかりやすいのは,『シスターの使い方』かな。]
そう言うと,ノーマンは,少し顔を伏せてから続けた。
[標的を特定できていなくて,且つ,特定する気があるのなら,疑いをかけた“年長者(ぼくら)5人”をマークしないというやり口はありえない。けれど,ママが実際,シスターにさせている見張りは,終始,あくまで“全体”の監視の強化。]
スッと,ノーマンが目を細める。
[もしやと思って見てきたけれど,それがもう10日以上続いている。**ママは特定する気がない。その上で,僕らを好き放題動かしている。**でも,それもまた,おかしいでしょ?]
[うん…。]
そこでハッと気づいたエマは,目を見開いて声を上げた。
[だったら,最初の反応見(アレ)は何だったの?]
[ね。]
そう。そう考えると,レイを引き入れる前,イザベラがエマに近づいて反応を見たあれが,不可解になるのだ。
エマは顎に手を当てて考える。
〚ママは“特定”したかった……。でも,今はするつもりがない……。それは既に,“特定”を済ませているから?〛
その結論に思い至ると,エマは顔を俯かせた。
[けど,どうやって?発信器からは何の“断定”もできないはず。それに,“特定”してるからって,好き放題動かしておくなんて……]
[既に他の見張りがそばにいたら?]
エマがブツブツと言っていると,それを遮るようにレイが口を挟んだ。
たったの一言だったが,それだけで,エマはすぐにある結論に至ってしまった。
レイがノーマンを見る。
[ノーマンが言いたいのは,そういうことだろ。]
コクリと,ノーマンは頷いて,レイから話を引き継いだ。
[シスターにマークさせるまでもない。]
ノーマンがそう言うと,3人は,くるりと後ろを振り返った。
ノーマンが再び口を開く。
エマは目を見開いて,腕をギュッと握った。
[内通…者?]
[鬼の手先…裏切り者ってこと…。]
ピッと指を一本立てたレイが,サラッとわかりやすく,でも,認めたくない事実を言ってのけた。
だが,ノーマンは,顎に手を当てて僅かに首を振って否定した。
[いや…。そうとは限らない。無自覚にママへ情報を流している場合もあるだろうからね。]
そう言うと,ノーマンは目を鋭くさせた。
[厳密には,ママの『情報源』。『情報源』を利用した標的の掌握と制御。恐らく,それが……ママの策(て)の“実際”──]
そこで場面が切り替わる。
イザベラの部屋のようだ。
そこで,イザベラがクローネを呼び,話をしていた。
イザベラは,ニコッと笑う。
[言ったでしょう?既に事態のコントロールはできているの。]
そう言ったイザベラの正面に,クローネは冷や汗を浮かべて立っていた。
[**あなたは“保険”。**より確実に,商品を守るために,念のため呼び寄せた“保険”にすぎない。冷静に,あなたの利益を考えなさい。あなたは私の駒である以外,すべきことは何もないでしょう?]
優しく微笑みかけたイザベラは,真っ直ぐにクローネを見つめた。
[あなたは“標的”を知らなくていい…。ただ従順な補佐として立派に働き,私の弱みを握っているのだと,心の内で,高笑いしていればいいのよ。そうすれば,私があなたを,必ず,“ママ”にしてあげる。保証するわ。]
[………]
子供達に向けるような笑みでそう言ったイザベラに,クローネは眉を寄せた。
イザベラが再び口を開く。
[それで?あなたから見て,あの子達との鬼ごっこはどうだったの?]
イザベラのその問いに,クローネはダラダラと冷や汗を浮かべた。
そして,鬼ごっこでの光景を思い出す。
子供とは思えないような,鬼ごっこのレベルの高さ。
途轍もなく高い運動神経の良さを,存分に活かし,子供二人を抱えて走り続けたエマ。
体格も体力も無いながらに,その弱点をスコア通りの優秀さで補い,逃げ切ったノーマン。
クローネの手を読み,更に,それに対するノーマンの戦略も読んで先回りし,時間が来たところで,気配を殺して,クローネに近づいたレイ。
そして,ノーマンとレイの声が,クローネの頭の中で復唱された。
〘〘俺 / 僕達の勝ちだね。シスター。〙〙
冷や汗を浮かべながら,クローネは恐る恐る口を開いた。
[とても優秀で……特別な……]
[そう…。理解してくれたのね。]
[…!]
心の底から思ったことを口にしたクローネに,イザベラは安心したような声音で呟いた。
椅子から立ち上がるイザベラに,クローネはようやく気づいてハッと目を見開いた。
〚こいつ…そのためにわざと隙を…!?〛
椅子から立ち上がったイザベラは,ようやく飼育監の空気を纏って,クローネに近づいた。
[私の意図…あの子達の価値…。あなたは賢い子。今後は道を誤らないでね。]
**[下がっていいわ。]**と,イザベラが言って,クローネは大人しく廊下に出たが,その廊下の空気は,今のクローネの気持ちを表すかのように冷たく,重たかった。
[待って!]
エマはノーマンとレイにそう言って静止をかけた。
驚きに満ちた表情で,手先が震え出す。
[そんな…。『情報源』…?]
[エマー!]と呼んでくれる子供達の顔が,笑顔が,エマの頭の中に,ありありと浮かび上がった。
〚誰…?何人?いつから?どうして…〛
エマは信じられない思いで,震える手で口元を抑えた。
〚信じられない…。あの子達の中に……?ただ,ママが大好きで…ただ,いい子にしてて…ママに教えちゃってる。きっとそうだ。──でも…〛
エマは,先ほどのレイの言葉を思い出し,最悪の想定が頭に浮かんだ。
〚もし…もし…万が一…レイの言う通り,望んで鬼の手先になっている敵(こども)がいるとしたら…〛
〘全員で逃げたい!〙と,そう言った自分がエマの背後に見えた。
エマは顔を歪める。
[やっぱり…無……]
その言葉がエマの口から小さく出てきそうになった時,エマの右手を,誰かが掴んだ。
エマが振り返ると,出荷されたときの服装で,リトルバーニーを持ったコニーが笑って,エマを見上げていた。
[え…。]
そのコニーの服装に,エマは今の家族全員が出荷され,鬼に喰われる光景を想像してしまった。
何も知らず,ただただ目の前にある幸せな日々に目を輝かせて,鬼に喰われに行く,その光景を。
ゾクッ…!!と,エマの背筋に怖気が走った。
〚嫌だ!やっぱり,置いてけない!!〛
エマがそう思っていると,レイがちらりと横目でドンとギルダを見て[けど…]と,口を挟んだ。
[じゃ,この先どうするよ。『情報源』は見つけ出すとして…ドンとギルダを引き入れる話は?]
そう言うと,レイはノーマンを試すように見た。
[もし2人がママの『情報源』だったら……]
[問題ない。]
レイの言葉を遮って言ったノーマンは,腕を組んだ。
[『情報源』のあぶり出しと,ドンとギルダを引き入れること。この2つは同時にできる。]
そう言うと,ノーマンは,スッと射貫くように目を細めた。
[スパイなら,こちらの切り札にもなる。]
ノーマンの言葉に,レイは合点がいったように頷いて顎に手を当てた。
[情報を操作して,逆に敵を撹乱したり,こっちの有利な状況をつくることも不可能じゃない──か。]
[そ。]
レイの言葉に,ノーマンは人差し指を立てて薄く微笑んだ。
そして,イザベラにまんまとしてやられた日──シスターが来た日のことを思い出す。
〘甘かった…。甘く見ていた…。〙
木に打ち付けた拳を反対の手で握ったノーマンは,顔を僅かに上げた。
その顔は,決意に満ちた表情だった。
〘今のままじゃダメだ。変われ。考えろ!!〙
その日の夜,ベッドで胡座をかいたノーマンは,顎に手を当てて,ほぼ一晩中起きていた。
〘一から洗い直せ。ママの策(て)は何だ…。エマを守る。皆を逃がす。〙
そう考えて,ノーマンは顔を手で覆った。
ニコリと,ノーマンは,目の前にいるエマとレイに微笑みかける。
すると,数m先から,ドンがひらひらと手を振って大声で3人に呼びかけた。
[おーい!そろそろ休憩終わって,2回戦やろうぜ!]
3人を代表して,最近は訓練のために鬼ごっこに混ざっているレイがスッと手を上げることで肯定の意を示した。
ドン達が他の子供達の元に向かっていくのを見送りながら,ポツリと,レイが呟く。
[“コントロールはできている”……。だから特定済でも,ママは何も仕掛けて来ない。俺達が派手に動かない限り,ママは,即出荷は勿論,多分,計画(だつごく)の邪魔すらするつもりなかったってわけか…。]
元気に準備運動をしている子供達を眺めながら,レイは心の中でもポツリと呟いた。
〚つまり,次の出荷まで最短であと約ひと月半。それだけの猶予は確保できるってこと…。これなら…〛
[レイ。]
考え込んでいたレイに,ノーマンがニコリと微笑んで話しかけた。
[そろそろ僕達も行こう。]
[…ああ。そうだな。]
レイは素直に頷いて,ノーマンとエマの後に続いて訓練(おにごっこ)に参加すべく,歩き出した。
鬼ごっこ2回戦をした後,ノーマン,レイ,エマは元気に走り回る子供達を眺めて,内通者について話していた。
ふと,レイが小さくエマに問う。
[あいつ……スコアいくつだっけ。]
[えっ…。フィル?]
レイの目線を辿ったエマに,レイは小さく頷いた。
エマは思い出すように頭上を見上げる。
[えっと……直近7日の平均は,203ちょい…]
[高ェな…。]
レイはフィルを真っ直ぐに見つめて呟く。
[シスターとの鬼ごっこの時,ラスト5人まで残ってたんだよな。あいつ……。]
[………]
レイの言葉に,エマは薄く冷や汗を浮かべた。
レイは構わず続ける。
[シェリーと一緒に,いつもお前ら二人探して……]
[わー!!!こわいこわいこわい!!やめてー!]
[**アホ!!**もっと疑え!嫌でも!とことん!]
レイの言葉を遮って叫び出し,頭を抱えて蹲ったエマに,レイがキツイ……でも,筋の通った言葉をぶつけた。
レイは,真剣な声音で,エマに言い聞かせるように言う。
そう言ったレイを,エマは眉を下げて見上げた。
そんな会話を静かに聞いていたノーマンは,キリがいいと判断したのか,[レイ。]と言って身を乗り出した。
レイはフィルを含めた子供達から視線を外し,ノーマンの方に向き直る。
[あれから発信器を壊す算段は順調?]
[ああ。]
[あとどのくらいで整う?]
[え…。えっと…………]
レイは顎に手を当てて一瞬だけ考えると,[10日あれば。]と答えた。
その返事に満足したようにノーマンは微笑むと,次の瞬間にはその顔から笑みを消した。
[じゃあ,10日後に決行しよう。]
[[………え。]]
[脱獄決行は10日後,11月8日だ。]
サラッと[隊列の型100種言うから全部覚えろ。]とエマに言ったレイよりも,もっとレベルの高い無理難題をサラッと言ってのけたノーマンに,エマは勿論,レイですら思考が止まった。
そして,意外なことに,最初に反応したのはレイではなく,エマだった。
[ちょっちょっちょ!!急すぎない!?いやいいんだけど…!]
[よかねぇよ!!]
慌ててノーマンに飛びついて騒いだエマの頭に,レイはズビシッ!と手刀を落とした。
そして,珍しく焦っている様子で,ノーマンに向き直る。
[ママの目的は“制御”──だから,『標的(オレたち)が動かねぇなら,ママも動かねぇ』…。ゆえに,『時間はある』って話じゃねぇのかよ。]
[うん。そういう話だからこそだよ。]
[?…どういうこと?]
ニコリと微笑んだノーマンは,理解が追いついていない2人に説明するために,人差し指を立てた。
[**レイにそう見えているということは,ママにもそう見えている。裏をかきたい。**どの道,冬になる前には逃げたいしね。]
ノーマンはもう一度ニコリと笑って付け足すように言った。
[それに,そこまで急な話でもないだろ?訓練含め,諸々,ママの策(て)が読めなかった分,急ぎで進めてきたわけだし,必要なことは,全て,残り10日で片付ければいい。]
そう言って一度言葉を切ると,ノーマンは指を5本立てて反対側の手で指し示した。
[ママは『情報源』の存在を隠すつもりがない。色んな打算はあるだろうけど,本気で隠したかったら,フリでもシスターに年長者(ぼくら)5人をマークさせる。]
ノーマンは一度瞬きをしてから,もう一度続けた。
[『時間がある』は罠だ。]
[発信器を壊し次第,最速で脱獄を決行しよう。]と,そう言ったノーマンに,エマは戸惑いつつも頷き,レイは舌打ちをしたい衝動を堪えて,唇を噛み締めた。
その日の夕食後。レイは食器を片付けながら,あらかさまにノーマンをジトリと睨みつけながら文句を言った。
[俺,アレまだ納得しきってねぇからな。つーか,さすがに現実無理じゃね?10日後て……。]
[──と思うだろ?だから裏をかけるんだ。でなきゃ意味がない。]
珍しく意見の食い違っているノーマンとレイとを見つめて,エマは薄く冷や汗を浮かべた。
〚ノーマンの言い分もわかるし,レイの言い分もわかる…。ケンカにならないといいな。〛
そんな願望を抱いて見つめていたが,エマはさっさと頭を切り替えると,冷や汗を浮かべた。
〚多少無茶でも,あと10日…。それまでにすべきこと。その第一が……ドンとギルダを引き入れること。〛
3人で階段を上りながら,ノーマンが口を開く。
[チームを分けて増やせば,逃走の機動力も上がる。まずは仲間に引き入れる。──たとえ二人がママの『情報源』でも,その対応は後でいい。]
ノーマンがそう言うと,レイは,2人の後に続きながら僅かに眉を顰めた。
[──で?実際どう話す?いかに事実といえど,言い方考えねぇと,拒否られてディスられて終わりだぞ。]
そう言うと,レイは前を歩くエマに,グッと顔を近づけた。
[いいか?誰もが俺みたいに,ソッコーで信じると思うなよ?]
〚目がガチ!〛
ゴゴゴゴゴ……という空気を纏ったレイのその勢いに,エマは思わず,言おうとしていたことも忘れて白目を剥いた。
代わりに,ノーマンが答える。
[それについてはエマとも話したんだけど……]
途中で切ったノーマンの言葉を,一旦離れてくれたレイを見つめて,エマが引き継いだ。
[本当のことは言わない。]
エマのその言葉に,レイは驚いて僅かに声を大きくした。
[お前っ…またそうやって隠……]
[危険にさらしたくない。]
[は?]
レイの言葉を遮って間髪入れずに言ったエマに,レイは素の声を出してしまった。
前を歩きながら,エマとノーマンが,お互いで話し合った結果を,レイに告げる。
[ママが動かないのは,私達が変化を表に出さないから。“ボロを出したら即出荷”もあるかもしれないし……脱獄は成功させるけど…]
[万が一にも失敗しても,真実を知らなければ,あの二人はまだ,生きられるかもしれない。]
そう言い終えたノーマンの言葉を合図に,エマは一度立ち止まって後ろに居るレイを振り返った。
その顔は伏せられている。
[……嘘つきだって思われてもいい。騙されたって後で恨まれても構わない。鬼以前に,ママに殺されたら元も子もない。]
徐々に顔を上げながら言うエマに,レイは若干驚いたように目を見開いた。
エマは,そのレイの顔を真っ直ぐに見つめて,決意したように言う。
[真実を話すのは,今じゃない。]
そう言ったエマと,そのエマを真っ直ぐに見つめて頷くノーマンを見て,何を言ってもそうするつもりだと感じたレイは,小さく頷いた。
それを見たノーマンは,再びレイ達に背を向ける。
[とはいえ,あの真実でなくても,ドンとギルダが僕らの噓を信じてくれるかはまた別の問題だけどね。]
そう言って,ノーマンは,目の前にあるドアノブを掴んだ。
[さぁ。勝負所だ。]
ガチャッと音を立てて開いたドアの向こうは,沢山の本が置かれてある図書室があり,その入り口の一番手前にある椅子に腰掛けて待っていたのは,ドンとギルダだ。
ギルダは眼鏡が反射していて表情がよく見えないが,ドンは,ニコニコと笑っていた。
[何?話って。]
ドンのその問いかけを合図にして,ノーマンとエマは,考えていた嘘を話しだした。
[え…。人身……売買?]
重苦しい空気になった図書室に,ドンの呆然とした声が響く。
ドンと向かい合って立っているエマは,目を伏せて頷いた。
[うん……。今までの兄弟。みんな,悪い人に売られてたの…。]
〚そう言うか…。〛
吹き抜けになっている図書室の梯子を登って上から清聴していたレイは,小さく息を溢した。
暫しの沈黙が図書室に訪れる。
そして,その後,ドンの笑い声が響いた。
[プッ……だーっはっはっはっ!!何深刻に話し始めるかと思ったら…アハハ!!ないないないない!!]
[でも,塀に門扉…。出て行った兄弟達から手紙の一つも来ないのも……]
[またまたァ!で?オチは?一体コレ何の遊び!?]
笑いの止まらないドンに,ノーマンが冷静に声をかけるも,相手にしてもらえず,言葉を遮って笑い飛ばされた。
また,沈黙が流れる。
ノーマンもレイもエマも,ドンの問いかけには答えなかった。
**[ん?]**と,ドンが3人を見回す。
[えっ…本当とか言わないよね?]
[本当。]
努めて明るく言ったドンの問いに,今まで一言も口を挟まなかったレイが,キリッと,星が見えそうな口調で即答した。
それに,ドンは取り乱してエマに詰め寄る。
[ちょっ………え?待って。じゃあママは?]
[悪い人に,私達を売ってる……]
[は!?バカ言え!!]
顔を伏せて小さく呟いたエマの言葉を遮って,ドンは耐えきれずに叫んだ。
[ふざけんなよ…!ありえねぇだろ。あんなに優しい………取り消せエマ!!]
その様子を上から見下ろしていたレイは,眉間に皺を寄せた。
〚ああ…。やっぱこうなる。〛
[ドン…。]
ふと,それまで静かにしていたギルダが,囁くようにドンに待ったをかけた。
[ハウスのこと…ママのこと…大好きなエマが,そんな嘘つく理由ない。]
〚ギルダ…。〛
ギルダは一度言葉を切ると,ほんの少し顔を俯かせた。
[それにね…変だと思ってた…。あの日…エマとノーマンが門へ行って…]
[えっ…。]
食堂にいたノーマン,エマ,レイ,ギルダと,既に標的の“特定”を済ませているイザベラ以外知らない情報に,ドンは驚いてノーマンを見た。
ノーマンは,その視線に気づくと,コクリと小さく頷く。
ギルダは構わずに続けた。
[いつもの二人なら,たとえ規則を破っても,すぐに正直に謝って元通り──なのに,謝るどころか,二人には口止めされるし,ママは本当,“罰ゲーム”みたいなお手伝いさせてくるし,エマ,すぐどこか行っちゃうし,なんかすごく真剣だし,どんどん聞けなくなっちゃって……]
肩を震わせて言ったギルダは,顔を上げると,大声で泣き出した。
[うっ……うわあああ〜ん!!!]
[ごめん…。ごめんねギルダ……。]
エマは慌ててギルダに駆け寄ると,その体を抱き寄せた。
〚不安にさせてたんだ……。〛
[見たの?エマは……。コニーも売られて行ったの?悪い人に……。]
泣きながらそう尋ねたギルダに,エマは言葉を詰まらせた。
代わりに,ノーマンが答える。
[ああ。でも,間に合わなかった。]
[えっ…待って。コニー…まさか…]
ノーマンが放った一言に,ドンはハッとしてノーマンの肩を掴んだ。
[無事なんだよな?大事ないんだよな!?]
[わからない。]
[……っ!]
ドンが焦ったように問うたそれに,ノーマンは,殺されたことを伏せ,表情を変えずに嘘をついた。
それに反応したのはレイだ。
レイは,眉間に深い皺を刻む。
〚『わからない』…?あいつ…!〛
レイは,舌打ちをしたいのを堪えて4人の様子を見下ろす。
ノーマンの言葉を受けたドンは,顔を真っ青にして口元を抑えた。
[そんな……何だよ…そんな……!!]
俯くギルダと,口元を抑えるドンに,エマは凛とした声を響かせた。
[ここから逃げて,コニー達助けに行こう。]
[…!!!]
[全員(みんな)で一緒に,ここから逃げよう。]
エマがそう言ったと同時に,ノーマンはポケットから折り畳んだ一枚の紙を取り出して見せた。
[証拠になるかわからないけれど,ここ数日でレイとエマに調べてもらった兄弟(みんな)のスコア。]
[[スコア?]]
ノーマンから紙を受け取って広げたドンとギルダは,そこに記されているみんなのスコアを覗き見た。
[出て行った子達の分は又聞きだし,全員分ではないけれど,6歳以降,スコアの低い順に里子に出されている。──変だろ。]
人差し指を立てて言ったノーマンの言葉に,ドンとギルダは顔を顰めて頷いた。
[確かに。コニーのこのスコア…。ハオも,セディも…。]
そんな2人に,エマはグッと拳を握り締めて呟くように,祈るように,口を開いた。
[お願い……信じて……。助けて…。一緒に逃げて!!]
エマのその言葉に,2人は,顔を見合わせてからコクリと頷いた。
[ひとまず,信じてもらえてよかった。]
[いや,あれはマズイだろ!]
ドン,ギルダとの話が終わり,ギルダとエマが赤ちゃんのお世話に行き,ドンが部屋に戻ると,ノーマンは本当に安心しているのか曖昧な声音で呟いた。
レイはバッとノーマンに向き直り,否定する。
レイのその様子を横目で見たノーマンは,ふっと笑うと,[出荷のこと?]と聞き返した。
その質問には答えずに,レイはキッとノーマンを睨みつけながら言葉を絞り出す。
[何が『わからない』『助けに行こう』だ。あそこは『死んだ』って言っとけよ…!]
[いや,円滑に引き入れるには,あれがベストだった。]
[そりゃただ鬼の世界に飛び出そうってのも『うん。行こう。』とはならないけれども…!]
グッと,レイは拳を握り締めて怒りを噛み殺す。
[もし…あいつらがママのスパイじゃなかったら…この嘘は,残酷すぎる……!ありもしない希望を与えるなよ…!!]
レイは,努めて静かに叫んだつもりだったが,最後はやはり,思いっきり叫んでしまった。
普段,滅多に声を荒げることのないレイが,ノーマンにそう訴えかけるも,ノーマンの気持ちは一切揺らがなかった。
〚……本当に優しいね。レイ。君は。……でも,それじゃ…それだけじゃダメなんだ。確かに,君の言う通り,あれはマズイのかもしれない。…でも,あれが最善(ベスト)だったのも間違いない。それをわかっていないはずがないのに……。〛
ノーマンのそんな心情を知りもしない……というよりも,怒りでそんなことを知ろうともしていないであろうレイは,噛み締めていた怒りを,少しづつ吐き出しながらノーマンを問い詰めていく。
[真実は?いつ,どう話すんだ?話せるのか?]
[その時はその時だよ。まだ,二人が『情報源(スパイ)』だって線もぬぐえないしね。]
そう言って,ノーマンは,レイの方に向き直ると,スッと,人差し指を口元に持ってきた。
[既に網も張った。]
[…!!]
驚くレイに,ノーマンはニコリと笑みを浮かべた。
[仲間にできたら,次は『情報源』かどうかをあぶり出す必要があるだろう?だから,手始めに,一つ,仕掛けてみようと思って。]
[…………具体的には?何をどうするんだ?]
[ロープの在り処を教える。]
[は?]
[勿論,嘘のね。]
目をぱちくりと瞬かせている,珍しいレイを見れたノーマンは,満足そうに笑みを深めた。
[ドンとギルダ。それぞれに,別々の場所を伝えるんだ。既に,ダミーのロープも隠しておいた。]
そう言ったノーマンは,ニヤリと不敵に笑う。
[僕らの懐に潜り込んで,今まで得なかった重大情報を得た。『情報源』なら,必ず動く。誰がどう動くか,ママにどう漏れるか,ドンとギルダが敵(スパイ)かどうかは,それで辿れる。]
[…………で?場所は?]
レイの問いかけに対し,ノーマンは笑みを消して答えた。
[ドンには『僕のベッドの裏』。ギルダには『2階トイレの天井裏』。そう伝えてある。真実を話すのは,その後でいいさ。]
ノーマンのその言葉に,レイは,まだ納得しきれていない表情をしていたが,その場は一旦分かれた。
エマとギルダは同室だ。
赤ちゃんの世話が終わったのか,2人は,エマのベッドの上で談笑していた。
[ギルダとこんなにして話すの,すっごく久しぶりだよね!]
[うん。私達,気づいたら,もう年長者になってたから,小さい子達といること多くなったものね。]
消灯時間直前まで,エマとギルダは笑い合っていた。
その中で,エマの心の中はほわほわと,嬉しさで浮き立っていた。
〚楽しいなぁ…。こんなにいっぱい笑い合って……まるで,小さな子供に戻ったみたい。〛
消灯時間になり,ギルダが自身のベッドに潜ったのを見て,エマは布団も潜りながら顔が綻んだ。
〚一人じゃない。一人じゃなかった。わかってくれてた。これからは,一緒に,闘える…!〛
エマはそう思って,瞼をそっと閉じた。
そして,みんなが寝静まった頃。
ギルダはベッドからそっと体を起こすと,眼鏡をかけ,隣のベッドで寝ているエマを見た。
その表情は,部屋の暗さのせいか,はたまた,ギルダ自身の本当の表情なのか,異様な雰囲気を纏っていた。
エマが寝ているのを視認したギルダは,そのまま立ち上がると,ドアを開けて部屋から出ていってしまった。
エマは薄く目を開ける。
〚ギルダ……。〛
みんなを起こさないように,エマはそっと起き上がると,静かに,足音を殺して,ギルダの後を追って行った。
丁度その頃。
イザベラの部屋の前に,静かに,人影が現れた。
暗くて誰なのかは認識不能だったが,子供であることは確かだ。
その子供は,ポケットから取り出した一枚の紙を折り畳んだ状態のまま,スッと扉下の隙間から,部屋の中に入れた。
何かの作業をしていたイザベラは,扉の下から入ってきた紙に気づくと,作業を中断して椅子から立ち上がり,紙を拾った。
そして,その紙を広げ,中を見ると,満足そうに微笑んだ。
[……そう…。ロープがノーマンのベッドにあるの。]
そう。その紙には,たった一言。
と,書かれていた。
(……と,いうことは,『情報源』ってのは,ドンだったってことか…。)
コナンは,目を細めて,そう思った。
周りをよく見てみると,小五郎を始めとする警察官達も頷いたり,呟いたりして,「『情報源』はドン」で決定しているようだ。
だが,それだと,何故ギルダは夜中にベッドどころか,部屋を抜け出していったのだろうという疑問が残った。
ノーマン達はさっきから一言も喋らないし,喋ってくれたとしても,大した情報は得られないと判断したコナンは,自分で推理できないことに不満を覚えつつも,見なければ解決できないことはわかっているため,再び映像に目を向けた。
部屋を抜け出したギルダを追っていたエマは,ある違和感を覚えて,眉を顰めた。
〚あれ…?もしギルダが『情報源』なら,ママの部屋に行くと思ってたけど……ここって…〛
エマは,肩越しにギルダの様子を窺う。
ギルダは,ある部屋で立ち止まると,ドアノブに手を伸ばした。
だが,そこで,ギルダの背後から,その肩に手を置く者が現れた。
ギルダは小さく肩を跳ねさせる。後ろを振り返ると,そこに居たのは,シスター・クローネだった。
[待ってたわ。ギルダ♡]
エマは驚きに目を見開く。
〚やっぱり…。ここ,シスターの部屋だ。どういうこと?ギルダと……シスター?〛
[さぁ,入って。来てくれて嬉しいわ♡]
クローネは,そう言ってギルダを部屋に招き入れると,パタンと扉を閉めた。
エマはそっと扉に近づく。
そして,扉に耳を寄せた。
〚どうして…ギルダ…!ギルダが『情報源』?本当にギルダが…?涙も,笑顔も,全て演技……?そんな…。いや…でも……なんでシスター?ママじゃないの?〛
エマは,音を立てないように,そっと扉に顔を近づけた。
〚中……見えない。〛
エマがそうこうしている丁度その時。
ギルダを部屋に招き入れたクローネは,イザベラを思い出してキッと前方を睨みつけた。
〚私は途中で……道を変えたりしない…!あの女は嘘をついている。“チビガキの世話は年長の女子のみ”。そんな規則(きまり)は,この農園にはない。あれはイザベラの独自規則(ローカル・ルール)。〛
そこでクローネは,エマの姿を思い浮かべる。
〚奴が“ママ”にしたいのは自分(ヤツ)の家畜(こども)。私じゃない。まず**あの子!**〛
イザベラに警告された時,クローネは最悪の気分だった。
だが,それはイザベラに直接“脅し”をかけられ,あまり身動きが取れななくなったからではない。
ギリギリと,クローネは歯を噛み締める。
〚ムカついてきた!……エマ…レイ…イザベラ…ノーマン!!〛
クローネは,グッと拳を握り締める。
〚早いとこ尻尾掴んで出荷してやる!屈辱は利子山盛りで返してやるわ!!そのためのこの子……。〛
クローネがニコリと優しい笑みでギルダの正面に回りこんだ。
すると,歩美と元太がキョトンと小首を傾げた。
歩美が,コナンの方に向き直る。
「ねぇコナン君。『利子山盛り』ってなぁに?」
「ああ。『利子山盛り』っていうのは,一つの単語って言うよりは……」
「『利子。貸したり預けたりしたお金に対して,決まった割合で支払われるお金。利息。』……『利子山盛り』っていうのは,利息を山盛りにするってことだよ。簡単に言えばね。もっとわかりやすく言うなら,『シスターはこの時,受けた屈辱を返してやろうって悪巧みをしていて,しかもそれを倍で返そうとしてた』ってことかな。」
コナンが歩美の問いに答えようとすると,それを遮って,レイがぶっきらぼうに答えた。
歩く辞書のように,辞書に載っている通りに呟いたレイは,それっきり黙り込んでしまう。
後半はともかく,前半の説明は,『簡単に言えば』と言った割に,小学生にもわかるように説明してくれたとはとても思えない難しさだった。(無論,レイ達GF組にとってはまあまあなわかりやすさだ。)
それにポカンとして歩美達がレイを見上げていると,無慈悲にも,映像が再生された。
[さぁ。話してギルダ。]
[………]
会話が始まったのを感じ,エマは部屋の中から聞こえてくる僅かな声に集中した。
〚声は少し聞こえる!全部じゃないけど。〛
[例の件…ですよね。]
エマが扉に耳を寄せると同時に,ギルダの,静かな声が聞こえてきた。
エマはドクドクと心臓が嫌な音を立てるのを自覚しながら,部屋の中の会話に集中した。
〚“例の件”?一体何を〛
[悩みごとはありません!]
〚え…?〛
エマの思考を遮るように,ギルダはハキハキと喋った。
同時に,クローネが来てからのことを思い出す。
〘心配ごとがあるなら,お姉さんに言いなさい。〙〘お姉さん…。〙
〘ほらまたー。暗い顔して。〙
〘言えないよ…。口止めされてるもん。〙
〘明日の夜。何時でもいいわ。私の部屋へいらっしゃい!──いいから!〙
そのことを思い出しながら,ギルダはハキハキとした口調でクローネを真っ直ぐ見ながら言葉を続けた。
[心配して,何度も声をかけてくださって,ありがとうございました。でも,もう大丈夫です。なので放っといてください。]
**失礼します。**と,そう言って,クローネに背を向け,扉の方に向かってくるギルダの足音が聞こえても,エマは動けずにいた。
〚──悩み…相談?スパイじゃない!よかった!ギルダ。仲間だ!スパイじゃない!〛
嬉しさで声が出そうになるのを堪え,エマはグッと両手を合わせた。
扉の方に向かうギルダの背を見つめていたクローネは,唐突にニヤリと笑った。
[そう…。エマが全て…話してくれたのね?]
クローネのその一言で,ギルダもエマも時間が止まったような錯覚に陥る。
クローネは,足を止めて固まってしまったギルダの両肩を掴むと,ニヤリと笑ったまま,顔を近づけた。
[ギルダあなた……全部知ってしまったのね?]
〚……え。〛
クローネの言葉に,ギルダは一瞬にして顔を青褪めさせた。
〚**バレた!!どうしよう…!**ノーマンに言われてたのに!!〛
ギルダは,話の終わりに,ノーマンに言われたことを思い出す。
〘ママもシスターも敵だ。秘密を知っていると絶対にバレてはいけない。〙
ギルダは,恐怖の中でも,必死に頭を回転させた。
〚私の不注意?私の……何が……〛
〚違う!!ハッタリ!シスターは鎌をかけているだけ!〛
ギルダの心を読んだかのように,エマは,グッと歯を噛み締めながら心中で否定した。
クローネは,両手を広げ,憐れむように,囁くように言った。
[ああ。残念よギルダ。あなたとはお友達になれると思っていたのに……。]
ギルダはその場に凍りついたように動けなくなっていた。
〚バレたら…どうなるの?“悪い人”に…すぐ売られちゃう?〛
[他に誰が知っているの?]
クローネは,動けないでいるギルダに近づいた。
[ノーマン…レイ……あとは…?]
〚気づいてギルダ!!〛
[あなただけ見逃してあげるから,仲良くしましょうよ。]
クローネはギルダに優しく,悪魔の囁きを口にする。
ギルダは目を見開いてクローネを見つめる。
エマは扉の向こうから祈るように奥歯を噛み締めた。
そして,ドンッ!と,ギルダはクローネを押して引き離した。
[やめてください!何の話かわかりません!エマとはケンカしてただけ。でももう仲直りできたから大丈夫なんです!]
再び,ハキハキと,鋭く言ったギルダに,クローネは胸に手を当てた。
[………そう。じゃ,私の勘違いね。ごめんなさい。]
ホッと,エマもギルダも胸を撫で下ろした。
スッと,クローネはギルダの耳元に口を寄せて小さく呟くように言った。
[エマの嘘つき!と思ったら,また私の元へおいでなさい。]
〚──え。〛
ギルダから離れたクローネは,ニコリと微笑んだ。
[おやすみ♡またねギルダ。]
パタンと扉が閉まる音がすると,のろのろとギルダは歩き出した。
そして,自身の部屋に入り,近づいてきた人物に,目を見開く。
[……ギルダ。]
暗い中でも,優しく微笑んでいるのがわかる姉に,ギルダは抑えていたものが一気に溢れ出すのを感じ,目尻に涙を溜めた。
[エマァ…。]
一歩一歩進み,ギルダはエマに抱きついた。
エマも,一瞬驚いたようにしていたが,ギルダが安心できるよう,精一杯,抱き締め返した。
ギルダと分かれたクローネは,白いエプロンを取りながら,頭を回していた。
〚あの子は恐らく“標的”ではない。けれど,確実に何かを知っている**“使えるカード”。**少々強引にでも手の内にとりこんでおきたかったけど……まあいいわ。種はまいた。〛
バサッと,脱いだエプロンをベッドへ投げ捨てると,クローネはある場所を覗くように,視線を動かした。
〚さて,次は……〛
翌日。
子供達は,洗濯物洗いに励んでいた。
洗濯板でシャツを洗いながら,レイは目の前で洗うノーマンの顔を見た。
[おい。今朝,見たか?……シスター,物置の床ガン見してたぜ?]
そう言ったレイが朝の光景を思い出したのか,グルンッ!!と景色が変わり,ハウスの中が映し出されたが,それはとても『ガン見していた』という表現では片付けられないものだった。
レイは朝が弱い方なのか,兄弟達の着替えを手伝ってから部屋を出たが,歩く度に欠伸を噛み殺していた。
[レイ〜!]
[ん…?どうした?クリス。]
廊下を歩いていたレイに,クリスティが近づいてくる。
視線に合わせるため,しゃがもうとするが,クリスはレイの手を引いて歩き出した。
[…?クリス?どうし…]
[あれ〜。]
[ん?…え゛‥。]
クリスが立ち止まって指差す方向を見たレイは,物凄く引き攣った声を出した。
不可抗力だ。無理もない。
なんと言ったって,クローネが物置の床にベタァァンッ!!!と貼りついて床をガン見しているのだから。
レイの眠気は一気に飛び去ったが,代わりに思いっきり顔を引き攣らせた。
〚……え…?いや何してんの?シスター……。いや,何してるかはわかる……わかるけれども……やり方だよ。やり方。え…。マジ引くわ…。シスターってホント…なんか…ママや鬼とは違った意味で,すっげぇ“怖い”んだが…。〛
[何してるのかなぁ……?]
クリスも,その場に居た子供達全員,首を傾げた。
今,この場に居るのは,レイ,クリス,ジェミマ,ジャスパーの4人だ。
レイは無言で3人の子供達を抱き上げた。
ジェミマは,不思議そうに,でも,少し嬉しそうにしながらレイを見上げた。
[レイ…?どうしたの?シスター,朝ごはんに呼ばなくていいの?]
[……………………ママが…………いいって………。とにかく,俺達は先に行っとこう。]
[いつママに言われたの?僕達,まだ起きたばっかりだよ?]
まだ4歳のジャスパーの鋭い質問に,レイが一瞬言葉に詰まるが,それには答えず,レイはそのまま,シスターに気づかれないように足音を殺して食堂に降りていった。
〚……………………年少者(こいつら)には見せちゃダメだ。………農園どうのこうの以前に……。〛
と,密かに決意しながら。
そこでもう一度場面が変わり,洗濯物をしている光景に戻る。
レイの引き攣った顔を見て,ノーマンは苦笑した。
[ああ。エマから聞いた。………聞いたんだけど……レイ。君,『あれはこの世のものだったのか…?』って顔してるよ?]
[仕方ねぇだろ。あまりにも異様だったんだよ。さすがにあれはドン引きした。]
ノーマン指摘に,レイは溜息を溢して言葉を絞り出した。
ノーマンは,それにもう一度苦笑すると,スッと目を細めた。
ノーマンのその気配に,レイも真面目な顔に戻る。
[“標的”を探す一連の行動…。ママの狙いに反している。やっぱり,シスターはママとは別に動いている。]
ノーマンの確信した声に,レイはもう一度溜息を吐き出しながら呟いた。
[さて…。ママと一枚岩でないことを喜ぶべきか……鬱陶しいと嘆くべきか…。]
[あ。ちなみに,足跡は何の確証にもならないよ。]
ノーマンは目線を洗濯物に向けながら口元を緩めて言った。
[スリッパのサイズなんて,年長者は誰も同じだし,時間がないなりに,何を探したかわからない程度には歩き回っておいたもの。]
ノーマンの言葉に,レイも目線を下に向けながら口を開いた。
[足跡がダメなら,次,また別の何かで来るぞ。問題は,シスターがなぜ,独自に標的を見つけたいのか。目的(ソレ)如何によっては…]
[『鬱陶しい』では片付かない…。]
ノーマンがレイの言葉を引き継いだ丁度そのタイミングで,エマとギルダが洗い終わった洗濯物を入れた籠を持って出てきた。
エマが辺りを見回す。
[あれ?ドンは?]
[そういや,さっきから姿見ないね。]
エマの言葉に,ギルダもキョロキョロと周りを見回す。
小五郎は,声に出すと面倒なことになることは学習済みなので,心の中で,鼻で笑った。
(フンッ…!どうせ,“ママ”のところにでも行ってんだろ。“内通者”だってことは,昨日,わかってんだからな。)
「……………」
ふと,小五郎は,自分だけでなく,周りの警察官も,同じことを考えているのだと気配で感じると,自慢気に鼻を高くした。
小五郎達のその様子を,レイは横目で見ると,認識できるかできないかの瀬戸際なくらい,僅かに,ニヤリと笑った。
映像内のノーマンは,エマと話しながら選択したものを干すギルダを見つめた。
[……………ギルダは潔白(シロ)…。]
ノーマンは,そう小さく呟くと,レイに向き直った。
[ねぇレイ…。内通者は…なぜ内通するんだろう…?]
[…!]
レイは一瞬考えるようにしたが,どこに向けるまでもなく,指をスッと向けた。
[そりゃ…そうするメリットがあるからじゃね?例えば,出荷を逃れて大人になれる──とか…。]
[…!命の保証──か…。]
レイの例えに,ノーマンは考えるように顎に手を当てた。
対して,レイは,そんなノーマンを見ると,洗濯に集中するふりをして,そっと目を伏せた。
バッ!!と,軽く手を上げたエマは,隊列を率いて訓練(おにごっこ)に励んでいた。後ろからは,フィル,エウゲン,アリシアを始めとする年少者がついてきている。
それを見たドンとギルダは納得したように頷いた。
[成程。これは逃走の訓練だったってワケ……。]
そう呟いたドンと,その隣に立っているギルダを,ノーマンは観察するように目を細めて見ていた。
〚1…2…3…〛
[…?]
その日の夜。
エマは壁に手をついて歩きながら何かを測っていた。
何をしているのか見当がつかないノーマンは,首を傾げながらも,優先事項を思い出し,[エマ。ちょっといい?]と呼び止めた。
エマはその声に顔を上げて少し考えると,[うん。いいよ。]と言って頷いた。
ノーマンによってエマが連れて来られた場所は食堂だった。
エマが椅子に座り,ノーマンは立って,エマと向い合せになる。
ノーマンは,迷っているような,複雑な表情でエマを見つめた。
[エマの考えを聞きたいんだ。]
[…?]
恐る恐るといった感じで,ノーマンは再び口を開いた。
[もし…望んで鬼の手先になっている子がいて…その子がスパイをすることで,その命を保証されているのだとしたら……]
そこで一旦言葉を切ったノーマンは,一つ,小さく深呼吸をすると,意を決したように口を開いた。
[エマはその子を置いて行く?それとも,連れて行く?]
エマは一瞬,驚いたように目を見開くと,間を開けて呟くように言った。
[…………スパイをすれば,出荷されずに生きられるってこと?]
[うん……。]
[連れてく。]
[…!]
即答だった。
ノーマンは小さく目を見開く。
小五郎達も,驚きに目を見開いた。
レイはスッと目を反らす。
コナンは思わず,眉を寄せた。
(…………甘い……。いくら何でも甘すぎる。何でそんなこと……。許せるって言うのかよ…。)
コナン達がそう考えている間も,どんどん映像は進んでいった。
映像内のノーマンが,僅かに身を乗り出して,エマに聞き返した。
[…たとえ,相手が望まなくても?]
[うん!ひっぱってく!]
そう言うとエマは真剣な表情で理由を説明した。
[だって,私達が逃げたら,その子の命が保証されるとは限らないもの。]
[……!!]
[それにね,やっぱり私は信じたい…。]
顔を俯かせて,でも,少し微笑んで,エマは続けた。
[ギルダとのことで,改めて思ったんだ。レイには『疑え』って言われたし,『ママの嘘見抜けなかったくせに』とか言われたら,言い返せないんだけど,たとえ,鬼の手先の内通者でも,兄弟に,悪い子はいないと思う。]
そう言って顔を上げたエマは,ニコッとノーマンに微笑みかけた。
[一緒に育った家族だもん。邪魔されても,裏切られても,甘いって言われても,私はその子を信じたい!]
エマのハッキリとしたその言葉に,ノーマンは口元を緩めた。
[そっかぁ…。そうだよね。]
そして,ニコッと,ノーマンももまた,エマに微笑みかけると,安心したような,スッキリしたような表情を浮かべた。
[エマなら,そう言うよね!]
ノーマンの言葉に,エマもまた,嬉しそうにニコリと笑みを深めた。
その後,ノーマンは,レイと合流して,2階トイレの天井裏を覗いていた。
ノーマンが蓋を閉じた便器の上に登って,天井裏に隠していた袋を取り出す。
下で見ているレイに無言で渡すと,袋の中を見たレイは,コクリと頷いた。
『中に入れたロープはちゃんとあるぞ。』という意味だろう。
それがわかると,ノーマンも,力強く,レイに頷き返した。
次に,2人は,ノーマンの部屋に移動していた。
ノーマンがベッドの脇に座りこんで,袋の中に入れて隠していたロープを確認する。
レイはその様子をそばで見ていた。
[どうよ。]
[……………ない……。]
レイの短い問いかけに,ノーマンは力なく首を振って答えた。
レイも,[マジか…。]と,力なく呟く。
[んじゃあ…ドンで決まりだな。]
[うん……。]
ノーマンが立ち上がったのを見計らったように,レイは,ノーマンから目を逸らして呟いた。
反対に,ノーマンは,小さく頷きながらレイを見る。
視線に気づいたレイが,ノーマンの方を向くと,それを待っていたかのように,ノーマンは,グッと左足を横に一歩,踏み出して,レイに顔を近づけた。
そして,確信したように言う。
それを聞いた映像内のレイは勿論,記憶を見ている小五郎達も,コナンでさえも,驚きに目を見開いた。
コメント
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