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ルイスと別れて更に二週間が経った。

今日は編入試験当日。

私は自身のヴァイオリンを持ち、学校の制服を着てトルメン大学校に来た。


「ロザリー」

「お義父さま、お姉さま、付き添いありがとうございます」


私は一人で来たわけではない。

クラッセル子爵とマリアンヌと一緒に来た。

グレンは途中まで一緒に来ていたが、マリーンの父親に会いに行くと言って別れた。

マリーンの父親、トルメン大学校の学長はグレンを学校へ引き入れてくれた恩人だという。


「練習は十分にやった。だから、いつも通り弾いてくるといい」

「はいっ」


私は編入試験に合格したいという一心で、練習に打ち込んだ。

苦手だった表現力も、ルイスに披露したあの日からめきめきと上達している。

クラッセル子爵の言う通り、いつものように弾いていれば合格は間違いないだろう。


「行ってきます!」


私はクラッセル子爵とマリアンヌから離れ、試験会場であるトルメン大学校の校門をくぐった。



数か月ぶりの学校。

変わったことといえば、ここにいるのは在校生ではなくトルメン大学校に入学したい生徒たちだということだ。

私たちはトルメン大学校の制服を着た在校生の誘導を受け、校舎に入った。


「次の人」

(あっ)


この女の人の声、聞き覚えがある。

学長の娘のマリーンだ。


「試験番号と名前を教えてください」

「マっ……!」

「なにか?」


どうやらマリーンは受験生の案内係のようだ。

私は彼女の名を呼ぼうとするも直前で気づき、口を閉じる。

マリーンと親しくしていたのは、マリアンヌに変装していたとき。

今の私ではない。


「四〇一番、ロザリー・クラッセル……、です」

「四〇一……、ああっ! 編入希望の方ですね」

「はい」

「別室を用意しております。係の者の後に付いて行ってください」

「分かりました」


事務的な会話を終え、私はもう一人の在校生の後をついて行く。

マリーンは相変わらずテキパキしている。


(試験に合格しても、マリーンは普通科だから同じ授業を受けられないのよね)


私は試験会場へ向かいながらそのようなことを考えていた。

二学年に上がると、普通科と音楽科は別の教室で授業を受ける。

音楽科から生徒がふるい落とされるのは一学年だけで、二学年からは少人数の専門的な指導を受けるため、普通科との授業が合わなくなるからだ。

きっとマリーンと会えるのは放課後、寮のときのみだろう。

でも、私は覚えていても、マリーンは私の事を知らない。

マリアンヌに仲介してもらえばいいだろうか。


「着きました。こちらです」


考え事をしている内に、試験会場に着いた。

いくつかある中で一番大きな演奏場だった。

私はその中に入り、壇上へに立つため、客席の間にある階段を下る。


「君がロザリー・クラッセル、だね」

「はいっ」


前列には試験官が三人座っていた。

その内の一人はクラッセル子爵の後輩の人。変装して初めての実技試験で私を落第にしようとした人だ。あとの二人は初めて会う。


「編入試験を受けるのは君一人だ。心の準備ができたら壇上へ上がるといい」

「わかりました」


私は自身のヴァイオリンを取り出し、弦の張り具合を確かめる。

新しく変えたばかりでもないし、古くもない。

演奏の途中で弦が切れぬよう、前日に何度も状態を確かめた。


「あの、音を出してもよろしいでしょうか?」

「……二分間認めよう」


私は試験官に確認を取り、弦を引き、一音弾いてみる。

大きな会場のため、屋敷の演奏場より良く響く。

音を出して良いのは二分間だけなので、私は指を動かすための練習曲を弾いた。

指もつかえることなく動く。


「やめ」


試験官の声で私はヴァイオリンを弾くのを止めた。

音もいい、指も動く。

なら、後は緊張を緩めるだけ。

私は深呼吸をして、壇上に立った。


「まずは『小鳥のラプソディ』を」

「はい」


私は始まりの一音を奏でるため、ヴァイオリンを構えた。


(大丈夫、練習の通りに弾けば大丈夫)


試験官たちの視線が私に集まる。

両手が緊張で震えている。

すぐに始めてはいけない。震えを抑えなきゃ。


(合格して、お姉さまと一緒の学校に通うの。それからルイスとデートをしてお揃いのアクセサリーを買うの)


私はきつく目を閉じ、合格したい気持ちを高めた。

自信が付いたところで目を見開き、始まりの一音を奏でた。



一音を奏でてからの記憶はあまりない。

無我夢中で弾いていた気がする。

意識が現実に戻ったのは、一曲目を弾き終えたときだ。


「二曲目の準備をする。奏者、配置につきなさい」


上手からコツコツと靴の音がする。

二曲目はピアノとの合奏。

ピアノ奏者は試験官が選ぶ。


(あの人……)


壇上に現れたのは、中年の男性だった。

白髪混じった赤毛の前髪をかき上げ、正装姿である。

贅肉一つない体型に茶の瞳の眼差しは鋭く、プロの奏者の風格が感じられる。

私はこの人を知っている。

現在の”神の手”。メヘロディ王国の宮廷楽団の長、プレスト・コン・アレガロだ。

プレストはピアノの椅子に座り、鍵盤に指を置いてこちらを見ている。

私の合図を待っている。


(どうして、神の手が学校の編入試験にいるの?)


プレストの演奏は特別な時にしか聞くことができない。

王宮の晩餐会または演奏会が開かれ、そこに招待された者しか。

普通であればトルメン大学校に現れるはずのない人物。

そんな大物が、私の合奏相手だなんて。



拾われ令嬢の恩返し

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