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城プル
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「FORSAKEN」の夜空を疾走する冷ややかな風。
黒いハチワレ模様の猫獣人・Mowlは、上空で体だけを大型のフクロウへと変身させ、静かに羽ばたいていた。
胸の黄色いリボンを風になびかせ、大きな翼を優雅に広げながら、左目のモノクル越しに地上を厳しく見下ろしている。
「おかしい……実に不可解です。最近のGatitoさんはどこか落ち着きがなく、あのお行儀の悪いネズミ(Rat)を探してばかりいる……」
主であるスペクターのお気に入りとして、Mowlは同僚キラーであるGatitoの変貌を深く憂慮していた。
本来ならサバイバーを容赦なく引き裂くはずの凶暴な黒猫が、あの狂ったネズミの前に出るとペースを乱され、あろうことか甘い声を漏らしているという噂。
「まさか、あの凶暴なGatitoさんがネズミごときに洗脳・毒害されているのでは……? 紳士として、同僚の危機を黙って見過ごすわけにはいきません!」
フクロウ特有の卓越した暗視能力と聴覚を研ぎ澄まし、Mowlは廃工場の陰に位置する薄暗い給水塔へと静かに旋回・降下した。
屋上の鉄骨に音もなく爪を立て、眼下の暗がりに視線を向ける。
しかし――そこで繰り広げられていた光景は、Mowlの紳士的な想像力を遥かに、そして致命的に超越していた。
「――んっ! ぁっ、……強引すぎるぞ……ッ!」
「逃がすと思うかい? 君が僕だけを求め、僕の手で狂いたいと白状したんだ。……最後まで責任を持ってもらうよ」
「ひっ……!?」
Mowlのモノクルが、衝撃のあまりカチャリと音を立ててズレかけた。
物陰の影で、Gatitoのパーカーは大きくはだけ、透明な胴体の奥で肋骨が激しく上下している。
そのGatitoの身体を完全に覆いかくすように密着し、頭上で手首を固く拘束しているのは、サバイバーのRatだった。
それだけではない。
RatはGatitoの過敏な首筋や透明な脇腹を強引に揉みしだき、背後からはRatの長いピンクのしっぽが、Gatitoのしなやかな太ももと腰へ蛇のように固く巻きついている。
「あぁッ……! ごろ……っ、ゴロゴロ……ッ! 嫌だ、声が出……ッ! んぁぁッ!」
「いい声だ、Gatito。君のその透ける肋骨の奥の心臓も……全部僕のものだ」
「ふっ……あぁっ! 好きに……しろよ……っ! 俺を……俺の全部を、喰い尽くせよドブネズミィ……ッ!」
「――っっっ!!!!????」
あまりにも濃密で、過激で、淫らすぎる二人の営み。
フクロウの姿のまま、Mowlの目が限界まで見開かれた。
鳥類特有の鋭利な視界が、二人の重なり合う肌、交わされる唾液の糸、そしてGatitoの屈辱と快感に塗れた蕩けた表情の隅々までを、超高画質で鮮明に脳裏へ焼き付けてしまったのだ。
「な、なななな何をおっぱじめておられるのですかあぁぁぁッッ!?」
声を出せば己の存在がバレる。
かといって、この刺激的すぎる現場にこれ以上留まれば、自分の純潔な紳士の精神が崩壊してしまう。
Mowlは、上空で盛大に空回りし、バタバタと無様な羽ばたきを見せながら、悲鳴を押し殺して飛び去った。
数分後。漆黒の謁見の間。
「スペクター様ァァァァッッ!!」
豪奢な絨毯の上へ、フクロウから猫の姿へ戻ったMowlが凄まじい勢いでスライディング土下座をかました。
赤と茶色のマントは乱れ、胸の黄色いリボンは斜めに歪み、その顔は耳の先端から首元まで熟しきったトマトのように真っ赤に染まりきっている。
ワイングラスを傾けていた支配者スペクターは、面白そうに赤いシルクハットの鍔を持ち上げた。
「やあ、Mowl。どうしたんだい? まるで恐ろしいバケモノでも見てきたような顔をして」
「バケモノどころではありません!破廉恥です! 無法地帯です! 紳士として……紳士として断じて見過ごせませんッ!」
Mowlはポロポロと涙を零しながら、顔を真っ赤にしてスペクターの膝元へと泣きついた。
「あの悪名高きドブネズミ(Rat)が! 我らが同僚であるGatitoさんを物理的に押し倒し、あろうことか怪しい手袋やピンクのしっぽで、あんな場所やこんな場所を好き放題に弄くり回していたのです! Gatitoさんも『喰い尽くせ』などと甘い悲鳴を上げて降伏しておりました! ああ、恐ろしい! 教育上よろしくなさすぎます!」
Mowlの必死すぎる惨状の報告を聞きながら、スペクターの薄い唇が、ゆっくりと優雅な弧を描いた。
道徳の概念は完璧に理解しつつも、人間的な倫理観を一切持ち合わせないこの「生命の神」にとって、Mowlの報告は最高のスパイスに他ならなかった。
「ふむ……ネズミが猫を捕食し、愛で、完全に屈服させたというわけか。くくっ、実にいい……実に滑稽で美しいドラマじゃないか」
「スペクター様!? なぜ笑っておられるのですか! 今すぐあの不埒なネズミにおしおきを――」
「まあ落ち着きなさい、我が可愛いMowl」
スペクターは赤いシルクハットの鍔をそっと撫で下ろすと、泣きじゃくるMowlの頭を優しく、しかし冷ややかに撫でまわした。
「絶望と殺戮の箱庭で芽生えた、あまりにも歪んだ愛の捕食関係……。ふたりの『実験』がどこまで深化するのか、もっと近くで観察したくなったよ」
神の気まぐれな瞳に怪しい光が宿る。
泣きつくMowlの訴えはあっさりと却下され、FORSAKENの理は、さらなる波乱と激しい愛好の渦へと巻き込まれていくのだった。