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〇〇に愛された贄











僕の名前は速水泰輝。

『『花嫁様』』

『あまり社から離れてはなりません』

『結界に触れてしまいます』

……この【神殺し】の社の生贄だ。

『うん、大丈夫だよ』

ふたりの巫女にそう言って、

目の前に視線を戻す。

鳥居が連なる道の先には境内の出口が。

あの先にはきっと人の街や…海があるのだろう。

この社はとある山の上に存在している。

かつて、【神殺し】が行われた地に出来た社は千段階段の先に。

長い長い階段下は山の麓…

そこを囲うような石灯籠にしめ縄。

結界。

此処から先は僕は出られない。

もう…何年もこの先に行ったことがない。

最初は、生贄に出されたのだから外から来た筈だけど…小さい頃の為か外の記憶がない。

何処から来たのか、誰と居たのか…

わからない。

でも家族からは愛されてなかったんだろうな。

じゃなかったら生贄に出さないし。

『ごめんねふたりとも、帰ろっか』

『『…はい』』

タッタッタ…っ

『!』

『大丈夫です』『あれは』『ただの豆狸です』

『そ、そっか…』

豆狸…異形、というか妖怪の一種だ。

結界がある筈のところからやってきたがそのまま茂みへ飛び込んで行く。

普通、結界は悪いモノが入らないように…

悪いモノから守る為のことが多いのに。

此処の結界は人間の贄が社から逃げないように張ってあるんだ。

あんな低級妖怪も無傷で境内に侵入できてしまうのに…。

生贄が迂闊に結界に近づくと、

まるで感電したような…火傷したかのような痛みに襲われ弾かれる。

僕も、昔は間違えて触って泣いてたなぁ…

……今までの生贄なんて、

考えたことなかったけど。

僕の前の生贄はどうなったんだろう。

外に出れないから、

この結界の中で…しんでしまったのかな…





『な、長かった……もう、暫くは麓まで降りない……

……いや、僕も天羽衆のみんなみたいに強くなるんだから…!

鍛えないと…!』

千段目に到着して、身体が悲鳴をあげている。

『『お疲れ様でした』』

『なんでふたりは普通なの⁉︎ッッッ』




そんな馬鹿騒ぎを見守るのは。

……葉っぱも花も芽もついてない枯れ木の桜。

この山唯一の桜の大木。

たぶん、御神木ってやつだと思う…けど、

どの巫女さん達もこの桜の木をたいして気にしていない。

枯れてしまった桜は忘れるには存在感が強く…意識してみるには優美さや特別感は湧かない。

物心ついた時からある桜。

一度も咲いたところは見たことないけど。



ゆらり、と枝が靡く。

『…ただいま』

それに返すように小さく呟く。

なぜか?

きっと、僕がしぬまてこの桜とは長い付き合いになるだろうから。

『速水ぃ』

『あ、小林の兄貴ッ』

『『ご機嫌よう、小林殿』』

『チビちゃん達も元気かー?』

小林の兄貴は大きな翼を振りながらこちらに近づく。

『……この木よぉ…』

『?どうしましたか』

『……なんでもねぇ』

桜を見つめる小林の兄貴は少し考えていたが、興味を失ったかのように僕を俵担ぎした。

『ぐはッ!?』

『腹減ったから飯作れー』

社に我が物顔で向かうこの暴君…。

本当、退屈しないなぁ…。

『……こいつを囲って…ムカつくな…』

枯れた桜はそんな天狗の言葉には無反応。

ただただ、

今日も愛おしい贄を見守るようにそこにそびえ立つ。

end

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