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―――しばらくして
俺は夕葉を見つけ出した。
“あの”桜の木の裏に身を潜めていたのだ。
「ここかよ…」
「懐かしいでしょ?」
「…」
あの時、俺は無邪気だった。
夕葉と居て心地良かった。
「ああ」
俺は返事した。
「でも、そろそろ帰らなきゃ…」
「準備とか、色々あってね…」
ということは、もう一生会えないのか――?
一生この桜を一緒に見れない――
ひとりでこれからを過ごさないといけない。
そう考えた途端、俺は夕葉を呼び止めたくなった。
だがそれは不可能だ。
最後に夕葉はこう言った。
「これまですごく楽しかったよ、ありがとう!」
「また会おうね、いつか…」
俺は何も言えなかった。
このまま終わるのだけは嫌だ。
でも、間に合わなかった。
夕葉はどんどんどんどん遠のいていく。
「ま、って____」
伸ばした手は、夕葉にはもちろん届かない。
俺はさっきこらえていた涙を溢してしまった。
待ってくれという声は、夕葉には届かないだなんて――。
手を伸ばしたまま、時だけが過ぎていた。
俺は家に帰った。
呆然とした。
部屋にこもり、ずっと机に突っ伏したまま。
そんな俺を心配した母が、ドアをノックした。
「どうしたの?部屋から全然出てこないじゃない!」
「やること済ませるのよー!」
「……落ち込んでないで、前を見なさい」
母は最後にそう言った。
俺ははっと頭を上げた。
母は知っていたのだ。
夕葉のこと、俺のこと全てを。
「っ……」
俺はこの後、何も出来なかった。
やる気が起こらなかった。
だが、母は俺を注意しなかった。
「あい、たい…」
そんなか細い声が、静寂の中の部屋に響き渡っていた―――。
―――あれから数年後
俺は大学生になっていた。
近くで通える大学を探し、なんとか見つかった所だった。
俺は入学初日、不安でいっぱいだった。
だが意外にも大学は良く、友達もすぐに出来た。
とまあ、毎日平凡な日常を送っていたのだ。
____だが、ある日
何故か家族3人でリビングに集まる事になった。
不思議に思っていると、父が真剣な表情で話した。
「実は………」
――
「は…!?引っ越し…!?」
「そうなんだ―――、仕事の都合でな…」
そう、なんと引っ越しを告げられたのだ。
しかも1週間後には家を出て、新家に住みだすと言う。
「ごめんな、言うのが遅くなって…」
「大学も、残念だが辞めてもらったほうが良さそうだ…」
その理由として、新家は今の家からはるか遠く離れた場所にあり、仕事もずっとそこでやることになるという。
もうここには戻ってこないとの事だった。
確かに慌ただしいなとは思っていたが、まさか引っ越しだなんて―――
俺は仕方なく、部屋の片付けに取り掛かった。
「ん…?」
すると俺はとある物を見つけた。
見覚えのない物だった。
どうやら手紙のようだ。
「(開けてみるか)」
封筒を丁寧に開けると、そこには一枚の手紙が入っていた――。
“やまとくんへ”
“やまとくん、いつも私と遊んでくれてありがとう!”
“ずっと楽しませてもらってたね”
“だから引っ越しが決まった時も、離れたくなくて。引っ越しのこと、ずっと言えてなかったんだ”
“勇気が出なかったの”
“ごめんね、迷惑かけて”
“またいつか、会いたいな”
“でも最後に、どうしてももう一度会いたいの”
“4時頃にあの公園で待っています”
「(これは……)」
俺は全てを思い出した。
「(行かなきゃ、あそこに―――)」
俺の体は勝手に動き出した。
公園に向かって走り出す。
数分後、俺は公園に着いた。
―――綺麗な桜が咲いていた。
あの時見た景色と同じだった。
ふとベンチの方に視線を向けると、そこには一人の女性が座っていた。
髪は長く、サラサラだ。
俺は自然と、ベンチに吸い寄せられるかのように歩いていた。
近づくと、女性がこちらを振り向いた。
彼女は言った。
「ずっと待ってたよ」
「やっと会えたね、やまと」