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月明かりが静かに差し込む子供部屋で、出木杉は音もなく窓から滑り込んだ。教科書通りの完璧な優等生としての日々を過ごす彼にとって、この深夜の密会だけが、唯一、論理や道徳から解き放たれる瞬間だった。静香はベッドの中で彼を待っていた。昼間、学校で見せる快活な笑顔とは違う、どこか物憂げで湿り気を帯びた瞳が彼を捉える。二人の間に言葉は必要なかった。出木杉がその細い肩に手を置くと、静香は小さく吐息を漏らし、吸い寄せられるように体を寄せた。
重ね合わされる肌の熱だけが、この世界の真実であるかのように、二人は互いの存在を確かめ合う。出木杉の指先が静香の髪をなぞり、彼女の鼓動が彼の胸に直接響く。それは、誰にも邪魔されない、完璧に閉ざされた二人だけの聖域だった。
毎晩繰り返されるこの秘め事は、二人の関係をより深く、そして危ういものに変えていった。出木杉の眼差しには、知識への渇望とは異なる、執着にも似た色が混じるようになる。一方で、静香の仕草には、少女特有のあどけなさが消え、秘められた情事を知る者だけが持つ、妖艶な影が差すようになった。
夜が明ければ、彼は再び非の打ち所がない秀才に戻り、彼女は誰からも愛されるマドンナに戻る。しかし、互いの肌に刻まれた記憶と、消えることのない微かな残り香が、日常の裏側に潜む「夜の顔」を静かに繋ぎ止めていた。
月の光が雲に隠れ、部屋が深い闇に包まれる中、二人はただ無言で、朝が来るまで溶け合うように抱き合い続けた。