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麗は寂しい子だった。
初めて会ったとき、麗はまだ中学生だった。
常に下を向いていて、顔を上げたと思ったら、姉の事しか見ない。
学友の一人である麗音の異母妹は目元くらいしか似ているところがない。
姉のような輝くような才覚はなく、可愛らしい顔立ちだが、誰もを魅了する美貌でもない。
本人もいたって控えめだ。大人数で佐橋の家に遊びに行っても混ざろうとせず、麗音の横で静かに話を聞いて頷いているか、お茶菓子を出してくれたりと細々な雑用をしている。
あまり人と関わるのが得意ではないが、麗音の傍にいたいのだろうと、明彦は麗に挨拶以外は構わないようにしていた。
それが変わったのは、麗が高校に、明彦と麗音が同じ大学に進学してしばらくたってからのこと。
頼りの姉に置いてきぼりにされ、大学の構内で一人ポツンとしゃがみこんでいる姿を見つけ、明彦は話しかけた。
それは友人の妹に対する親切心以外の何ものでもなく、戸惑う麗を楽しませたくて連れ回した。
麗にとって麗音はただの大好きな姉だけではなく生命線だった。
親しくはしているようだが麗音の母であって麗にはどこまでも他人でしかない継母と、どうしようもない父親。
麗には麗音しかいないのに、麗音は忙しくて麗に構わない。
寂しい筈なのに、我慢しているのか、それとも寂しいという事実にすら気づけてすらいないのか。
明彦は、一人ぼっちでいることが多い麗を何かと面倒をみるようになった。
テストで信じられないような点数をとっていた麗に基礎からやり直させたり、その時付き合っていた彼女に渡すついでにお菓子を買ってお土産にやったり。
麗音に会いに行っているのか麗に会いに行っているのか。
最初はおずおずと遠慮がちだった麗も、アキ兄ちゃん、アキ兄ちゃんと嬉しそうに瞳を輝かせるようになり、明彦は頻繁に麗に会っては頭を撫でた。
明彦は麗が可愛かった。
生来、面倒見がいい、というよりお節介な質の明彦だが、普段は干渉しすぎて嫌われないようにセーブしていた。
だが、麗は違う。明彦の度が過ぎたお節介を嬉しそうに受け入れてくれる。
それは麗がこれまでずっと、寂しかったことの証明だった。
だから、かまって、かまって、かまった。
大切で可愛い妹分。
それだけの関係のはずだった。
だが、それは違ったのだと、妹のような関係では満足できるわけがないのだと、麗の父親が起こした事件のときに思い知らされた。