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もちぷよ
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#山中柔太郎
65
〜吉田side〜
「えっと、僕……いないんですよ、恋人」
その瞬間、僕の淡い、そして卑怯な一縷の望みは無情にも打ち砕かれた。
「へー、意外! モテそうなのに〜」
あーあ、終わった。
彼女がいれば勇斗も諦めるんじゃないかって…。
せめて遊んでるくらいの軽い奴であってくれ…、そんな性格の悪い願いの代償として、結果的に、僕はシンプルに勇斗の恋路をアシストしてしまっただけだった。
気まずそうにはにかむ彼に向けて、嫌味たっぷりの言葉を吐き出してしまった自分に猛烈な吐き気がする。
勇斗は慌てて早口でフォローを入れ、彼を厨房へと帰らせた。
「お前、何考えてんだよ。失礼だろ!」
じゅうたろーさんの背中が見えなくなると同時に、勇斗が僕をきつく睨みつけて言った。
そんなこと、自分が一番よく分かっている。
分かっているからこそ、もうこれ以上僕を惨めな気持ちにさせないでくれと、叫び出したくなるのを必死で堪えた。
「え〜。だって気になるじゃ〜ん」
今できる精一杯の笑顔を貼り付けて、頭の悪い酔っ払いのフリをする。
これで見逃してよ、と祈るように。
だけど、勇斗は重いため息をひとつついて、温度の無い低い声で言った。
「お前な……俺、本気なんだわ。余計なことすんなって言ったよな?」
その冷めた声が、僕の傷口をさらに深く抉る。
俺だって。
俺だって、ずっと本気だわ。
お前があいつを見つけるずっと前から、もう十年近く俺はお前だけを見てきたのに。
あいつのほんの一瞬の輝きに、俺の十年は負けるのかよ。
一気に涙が込み上げてきて、視界が歪む。
それを悟られたくなくて、僕は咄嗟に下を向いて髪で顔を隠した。
「……ごめん、ふざけすぎた」
震えそうになる声を必死に喉の奥で抑え込んで、何とか紡ぎ出した謝罪。
勇斗はバツが悪そうに「まあ、いいよ」とすぐに許してくれたけれど、もう勇斗の顔を真っすぐに見られそうになかった。
「……ちょっと、トイレ」
僕は席を立ち、逃げるようにトイレへと向かった。
冷たい水で何度も顔を洗い、鏡に映る情けないその顔を睨みつける。
胸の奥で渦巻く黒い感情を無理やり押し殺して、もう一度、いつもの「親友」の笑顔を作り直して席に戻った。
戻ってきた頃には、勇斗はすっかり酔っ払っていた。
いつの間にそんなに飲んだんだよ、と呆れるくらいに。
だけど、今の僕にとっては素面のあいつと重い空気でサシ飲みを続けるよりは、よっぽど好都合だった。
そこからはいつものノリに戻った。
僕の貼り付けたお面は、最後までちゃんと剥がれずに耐えてくれたはずだ。
「ちょいトイレ〜……」
しばらくして、今度は勇斗がそう言い残し、千鳥足でフラフラと席を立った。
あいつの背中を見送りながら、さすがにだいぶ酔いが回っているな、と息を吐く。
勇斗のためにチェイサーの水を頼もうと、僕は厨房の方へ視線を送った。
「すみません、お水ひとつください」
「はーい!……佐野さん、かなり酔ってますね。タクシー、呼びましょうか?」
すかさず駆け寄ってきてくれたじゅうたろーさんは、本当にこちらの状況をよく見ていた。
「あー、車で来てるんだよね。だからもうちょい後で、代行お願いしようかな」
「分かりました!いつでも声かけてくださいね」
そう言って、汚れのない真っ直ぐな瞳で微笑む彼。
なんだか、彼があまりにも、憎めないくらいに良い子で……。
僕は、さっき自分の嫉妬心から彼に皮肉をぶつけてしまったことが、急に猛烈に申し訳なくなった。
「あのさ……さっきはごめん。困らせちゃうようなこと言ってさ」
「え?……あ、全然ですよ!もうそういうの、慣れてますんで!へへっ」
慣れている。
その言葉の響きに、胸の奥が少しだけチクリとした。
これだけ綺麗な容姿をしていれば、これまでにも客からしつこく言い寄られたりしてきたのだろう。
それでも彼は、何でもないことのように笑っているのだ。
「仁人さんって呼んでもいいですか?」
「え?」
「佐野さんが呼んでたから…。だめですか?」
可愛らしく上目遣いで見つめてくる。
もう会うつもりはないけれど、僕は「別にいいよ」と小さく頷いた。
「やったぁ!嬉しいです!あ、僕、柔太朗って言います!好きに呼んでください!よかったら、またいつでもここ来てください!」
僕の卑屈な心を見透かすこともなく、彼は「柔太朗」としての等身大の笑顔を向けてくれた。
その眩しさに、思わず目を背けたくなる。
「そう、柔太朗ね。……うん、また来るわ」
僕がそう答えると、彼は嬉しそうに目を細めて、再び厨房へと戻っていった。
……あぁ、完敗だ。
悔しいけれど、ぐうの音も出ないほどに、すごく良い奴だった。
不器用で、だけど馬鹿なくらい真っ直ぐな勇斗には、これ以上ないほどお似合いの相手だ。
本当に、嫌になるくらいお似合いだった。
その後、トイレから戻ってきた勇斗は、さらにペースを上げてぐいぐいと酒を飲み、本当に幸せそうに笑っていた。
彼に嬉しそうにダル絡みをして、気づけば勝手に「じゅうたろー」って呼び捨てにして。
最後には、満足したようにテーブルに突っ伏して眠ってしまった。
「ちょっと、佐野さん!大丈夫ですか?
……あぁ、寝ちゃいましたね。でも珍しいですね、こんなに酔ってるの」
慌てて駆け寄ってきた柔太朗が、眠る勇斗の顔を心配そうに覗き込む。
「いやー、ごめんね。いつもはこんなんじゃないんだけどさ……」
なんで僕は、こんな時まで健気な親友を演じてフォローなんて入れているんだろう。
本当に、あほらしい。
「全然です!僕……佐野さんのこと、憧れなんです!!いつも笑顔で、周りの人を笑顔にしてて、かっこいいなってずっと見てて…」
……あぁ、そう。
その言葉、あいつが素面で聞いていたら、きっと飛び上がって喜んだろうな。
寝ててよかったよ、本当に。
……って、思ったのに。
「じゅうたろー……っ!!お前、ほんっと可愛いな!なんなの!?」
ガタッと勢いよく立ち上がって、柔太朗を赤面させている勇斗。
――起きてやがった、この男。
湯気を立てて慌てる柔太朗を前に、今日一番の幸せそうな顔をして、そのまま再び机に突っ伏して完全に意識を飛ばした勇斗。
今日はほーんと、どこまでも惨めだわ、僕は。
勇斗、お前さ。
さっきまで僕がどんな思いで笑って、どんな気持ちで隣にいたのか、1ミリも気づいてないだろ。
僕には逆立ちしたって見せてくれないその顔を、出会ったばかりの男の前で、そんな風に無防備に晒すなよ。
いくら心の中で叫んだところで、勇斗の恋愛対象にすら入れない僕の気持ちなんて、最初からあいつの世界には存在していないみたいだった。
その後、完全に限界を迎えて眠ってしまった勇斗を、僕は引きずるようにして車に乗せ、自分の部屋へと運ぶしかなかった。
to be continued……
コメント
4件
なんだか仁人さんみてるとだんだん切なくなってくる、、、😭柔さんはずっと健気で可愛いし、勇さんはずっと一途でかっこいいし、勇さんと仁人さんにもうまく行って欲しいし、勇さんの一途な恋も叶って欲しいしあああなんか複雑、、、、!! はるさん天才ですね⁉︎作品にこんなに感情移入したの初めてです‼︎これからも応援してます🥹
初コメ失礼します! やわしゅんの作品とこれを一気見させていただきました! めっちゃ好みです!ご馳走様でした(?)