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今日は私――、中村恵の誕生日だ。
二十七歳になって、三十歳まであと三年になったわけだけれど、全然実感が湧かない。
自分としては、学生時代から考え方も何もかも変わってない気がする。
子供の頃は『大人になったら色々変わるんだろうな』と思っていたけれど、全然だ。
相変わらず恋愛や女性っぽい事よりは、運動やアウトドア活動が好きだし、何かと考える時に一番に思い浮かぶのは朱里だ。
でも確実に変わった事はあって、自分が三日月グループの御曹司に見初められるとは夢にも思わなかった。
だから誕生日の朝、起きたら目の前に超絶美形がいるのも、生まれて初めてだ。
「おはよう」
涼さんは語尾にハートマークでもついていそうな甘い声で挨拶をしてきて、私はボーッとしたまま目を擦り、
「…………ざっす」と挨拶をする。
あまりに眠たい上に、寝起きで声が掠れているとはいえ、やる気のない店員みたいな挨拶をしてしまった。
「あぁー……、良かった。『誕生日の日に、恵ちゃんが初めて見たのが俺』作戦、成功」
「成功しても何も刷り込まれませんよ。あとを付いて歩いたりしませんからね」
私は思いきり伸びて大きな欠伸をしてから、ムニャムニャしつつ突っ込みを入れる。
「誕生日おめでとう、恵ちゃん」
「……ありがとうございます。……でも午前零時になった瞬間も聞きましたけど」
「今日一日、何回も言うと思うよ。言われて減る言葉じゃないでしょ」
「……まぁ……、そうですけど……」
私は頷き、また欠伸をする。
すると、涼さんはベッドの脇からでっかいプレゼントの箱を出して来た。
「ええー……」
「なんで嫌そうな顔するの」
「寝起きにきついっす。起きてすぐ、生クリームメガ盛りパンケーキ食べるようなもんです。もうちょっと目が覚めて、本調子になってからにしてもらえたら……」
「いや、でも別のプレゼントを渡すタイムスケジュールがあるからね? 一つでも停滞したら、あとがつかえるし」
「…………何言ってるんですか?」
私は彼の言っている事が分からず、不審げな顔になる。
というか、眠たくて彼のテンションについていけない。……いや、いつもの事か。
「とにかく、開けてみてくれる?」
「…………うっす」
私は起き上がって胡座をかくと、グレーのリボンを解き、白地に金箔で〝マックスマラ〟と描かれてある箱を開ける。
薄葉紙をカサカサと広げると、中には服が入っている。
一瞬「服かー……」と思ったけれど、広げてみるとシンプルなライトブルーのシャツに黒のワイドパンツだ。
(あ、これなら……)
ホッとした私は「ありがとうございます」とお礼を言う。
「今日、それを着て出勤してほしいな」
涼さんはニコニコ顔で言う。
「あぁ……、はい。ありがたく着させてもらいますが……。パンツの丈大丈夫かな?」
「それなら以前に外商に着てもらった時、股下とか色々測ったから、問題ないと思う」
「…………うぃっす」
そうだ。涼さんに抜かりがあるわけがない。
「朝ラン行く?」
言われて時計を確認したら、五時すぎだ。
「そうですね。ひとっ走りしてシャワー浴びて、それから出勤しようと思います」
「じゃあ、準備しておく」
「はい」
そのあと私はお手洗いに行ってからガシガシと髪を梳かして、ちょびっとした一本縛りにするとサイドをヘアピンで留め、日焼け止めを塗りたくる。
ウエアを着てから水を飲み、玄関に向かうと、すでに支度を終えた涼さんが待っていた。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
私はキャップを被り直し、朝ランに向かった。
帰宅してシャワーを浴びると、別のバスルームでサッとシャワーを浴びた涼さんが、朝食の用意をしてくれていた。
「なんすか、これ」
私の席にもご飯の用意がされてあるんだけど、その横にまたプレゼントの箱がある。