――他人のオンナのお前を
このまま 縛って
誰にも触れさせないように
できりゃいいのに
二番の歌詞がまるで私のことを歌っているかのような錯覚を起こし、胸が高鳴った。彼の声を聴くだけで、私はいつでも妄想の世界にトリップできる。
――お前を 奪いたい
抱きしめて 愛 カタル
臆病な俺 わかって
ウソでも 好きと言え
Liar ウソを重ねた事 後悔してる
Liar お前に背を向け 手放したこと
Liar 優しく震える唇 今も思い出す
Liar 今も変わらない お前が好きだ、と
あぁー、本当にめっちゃいい歌! 上から目線で物を言う所がたまらない!
解散してしまってRBのライブに行けないのが地獄。
私はたとえおばあちゃんになったとしても、RBの白斗のことは追いかけるつもりだったのに。
でも……白斗が歌うみたいなドラマみたいなシチュエーションで、一度でいいから愛されてみたい。光貴にそれを望むのは絶対に無理だから。
ツンデレ溺愛みたい。乙女ゲームみたいで憧れるー。奪われてみたいー。なーんてね。
バンドだけには留まらず、私は漫画もアニメもゲームも全部すごく好きだからどうしても憧れてしまう。誰にも邪魔されずに、白斗のポスターを壁一面に貼った部屋でRBの曲を聴きながら、読書したりゲームをしたい――と、完全な引きこもりのオタクみたいなことを思ってしまった。
しかし生きていくには仕事をしなくちゃならない。
本好きが高じて私は翻訳の仕事をしている。休みの調整もやりやすい上にお給料も高めなので、自由気ままにバンド活動をやってた割には貯金もある。
まあそう考えると、私をもらってくれるというだけでも有難いと思って光貴に感謝しないといけないかな!
自分の中の乙女部分は仕方なく捨てる事にした。これが大人になるということだ。夢見る少女ではいられない。
甘いプロポーズをくれるような男はきっと浮気性。光貴はそういう男性じゃないから安心して結婚できる。
所詮、夢は夢――
だから現実を見つめた時に適当な所で手を打ち、安全に生きて行くのだろう。
年齢も年齢。新しく恋して人生の伴侶を選ぼうと思った時、失敗したから元に戻るなんて現実社会では不可能。ゲームみたいに人生の分岐点にセーブポイントがあればいいのにと、オタクの私はつい考えてしまう。
だって今がその人生の分岐点だから。
人生に波風立てず、このまま光貴と結婚して、平凡で幸せな人生を歩めて良かったと思うのか、光貴と別れて新しい誰かを探して結婚し、波乱万丈な人生を歩んでしまったと思うか、色々選択肢はあると思う。光貴を逃したらおひとり様で一生終えるかもしれない。
思っていたのと違うと思えばセーブポイントまで戻り、もう一度やり直しができればいいけれど。この選択肢が正しいかどうか確かめたい。
冗談半分で考えた人生の分岐点。本当にこの日に戻れるなら、戻りたいと何度思っただろう。
ううん、ここじゃない。
光貴が私をバンドに誘ってくれた時、もっとそれ以上の時を遡り、光貴の人生に私が関わったその瞬間に戻れるなら、どんなことをしてでも戻りたいと思う。
戻れるなら、絶対に光貴と一緒にバンドをやるって言わない。光貴には関わらない。
もしも交錯する事があって彼に好きだと言われても、絶対に、絶対に男女関係にはならないように断るから。結婚もしない。
彼の人生から私を消し去った時、彼にどんな幸せな未来があったのだろうかと思うと胸が酷く痛む。
私が胸を痛める資格なんか、いのに。
でも、それを考えた時でさえこれ以上にない程のいい歌詞と曲が出来そうだと
そんな思考になる私は本当に最低な女――
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