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重い瞼を持ち上げて、周りを見回した。
周りは墨が零れた様に斑に暗かったり明かった。
「―――ッ」
何処からか、叫ぶ声が聞こえる。それは自分を呼んでいるような…。
身に纏わりつく重い空気を鬱陶しく思いつつも身体に力を込めて振り向く。
遠くに自分と同じくらいの背丈の少年が居た。彼は此方に気が付くとフッと微笑み、此方へ手を差し伸べた。
「―――を」
僕は取り敢えず其の手を取る。少年の手には藍の刺青があった。とても繊細で、見た事も無いデザインから神々しさを感じてしまう。
「新たな門は此処に開かれる。其れは西の、遥かな西に所在する聖地へ光を導いて…」
僕はハッとし、少年の顔を見つめる。よく見れば少年の顔にも刺青は在った。
「厳格に行われた儀式の下、力は受け継がれる」
少年の視線を辿り、己の手を見る。
「ッ…!」
少年の刺青がヌルヌルと動き出し、僕の手へと移り出す。
少年から手を離そうとするが少年の握力が強いのか、それとも身に纏わりついている空気に体力を奪われているのか分からないが僕は無理だと悟る。
(嫌だ…!)
刺青は僕の手に乗り移った事が完了した事を示す様に微かに光を放った。
少年の握力が弱まり、僕は少年の手から勢い良く離れる。
「貴方は―――者。――――。――――――次第」
さっき迄は良く聞こえて居た筈なのにまた、聞こえ辛くなる。少年はまだ何かを話しているが気が遠くなり、雑音しか耳に入らなくなって居た。
「あ…」
視界がグラグラと揺れ、崩れ始める。
僕は何が何なのか解らないまま気を失った。
****
僕は、浜辺で波に打ち付けられながら目を覚ました。
こんなに蒼く透き通った海、名前も知らない紅い花が咲いて居る海岸、僕はこんな所を知らない。
「何故、こんな所に……」
(そもそも、事の発端はあの夢だ。謎の少年…そして刺青……)
ハッとして手を持ち上げる。夢なら、付いていない筈。然し…
「何で、何で付いているの」
夢で見た通り、手には付いていた。そう解った途端、身体が重たくなる。
此の儘家に帰ったら母に何と言われるだろうか…。
いや、まずは此処が何処なのか、把握することが必要だ。
「何処かに人は居るかな……」
然し周りを見回しても眼に映るのは豊かな自然のみ。
だったら辺りを散策して人家を探すしか無い。
「僕の家も海辺に在るが、こんな花を見た事が無いし、家が密集して居て自然が豊かな訳でも無い…不思議だな」
道は凸凹しており、様々な花や雑草が鬱蒼と咲いて居た。
(小さい頃、図鑑を見るのが好きで花も色々な種類や名を覚えたが…。どれも名を答えられ無いし、見た事も無い)
僕は昔から図や絵を見るのが好きで、覚えるのも速かったと自負して居る。
だから此の様に答えられ無いと気分が沈んでしまう。
「もう子供じゃ無いから…。知らない事が有っても平気な顔をして後で知れば良いのに」
そう解っていても悔しがる己が憎い。
(いや、今はそんな事より帰る事が優先。人家を探さなければ……)
そう思い、東の海から顔を出して居る蒼い月を見つめる。蒼い月はとても神秘的で、己の心に隠れる闇を覆う様だった。
****
足を棒にして人家を探していたが、見つから無い。月はもう南へと昇り詰めて居た。
いやそもそもの話、光が見当たらない。月光だけが頼りであり、葉が生い茂って居る道は一段と暗く、進んでいる方向が正しいいのかも分からない。
(親が心配している…早く帰らないと……)
此の道はずっと海岸沿いの様だ。内陸へと入る道は無いのだろうか。
「あッ……」
小石に躓き、転んでしまう。
「痛い……」
足は疲れて居てもう動かない。せめて、邪魔にならない様浜辺に移動しよう……。
動かない足を引き摺りつつ、草を搔き分け浜辺に出る。
背中をゆっくり下ろし、眼を閉じる。
(また明日再開しよう…親には悪いけど……)
そう思いつつ、何時の間にか眠りに落ちていた。
****
眩しい光が眼に差し込み、瞼を開ける。
(朝だ……)
気怠く重い身体を起こし、眼を擦る。
ぼんやりしていた景色は段々と鮮明になり、太陽の陽気に照らされた海はオレンジに染まっていた。
ふと、岩の方へ視線を向ける。其処には…
(少年。夢で見た、謎の……)
僕はフラフラと歩きつつ少年に話し掛ける。
「ねぇ、君は…僕の事、知ってる?」
少年は海を眺めており、此方に気が付いていないかな?と思いもう一度声を掛けようとした。
「知ってるよ」
少年は此方に微笑んだ。己とは正反対の明るさに、立ち眩みそうだったが眼を海に逸らす。
「そっか。君は、此処の事も知ってる?」
「勿論。…お兄さんの名前は藤原透でしょ?」
吃驚し、僕は思わず尻餅をついてしまう。
「はは、そんな大層な事僕は言ってないよ」
「夢で会った人…だよね?というか同年代に見えるけど」
「それは僕の背丈が長いだけ。…そうだよ、僕ら夢の中で会ってるよ」
今一度、はっきりと少年の顔を見たが、刺青が入っていた。
「…僕は、何で此処に」
そう、疑問を投げ掛ける。
「其れは何時か解るさ!そうだ、お兄さん来てよ」
少年に手を引っ張られ、何処かに連れていかれる。
「そうそう、僕の名前は亜月だから」
少年はニッコリ満足そうに笑った。