※初心者なのでアプリの使い方良くわかってません。あと、伊武の兄貴×阿蒜君書いてほしい人が多いみたいなので書いてみました。お気に召さないようでしたらすみません。
「…はぁ」
山積みの書類を手に、阿蒜は小さくため息をついた。この組織―河内組に入ってから、もう数ヶ月が経とうとしている。それでも、阿蒜はまだこの組織に馴染めていなかった。いや、馴染めるわけがなかった。
毎日のように死んでいく人。
新人に無茶な指示を出す、鬼のような兄貴分達。
更には、組の内部で起こっている凄惨な跡目争い。
常識では図りきれないほどに無茶苦茶な組織だが、阿蒜のため息の理由は、どれにも当てはまらなかった。
極道というのは、何があっても組のことを考えて行動しなくてはならない。故に、恋愛や惚気に振り回されているようでは組員として示しがつかないのだ。それなのに…
「…伊武の兄貴」
かつてゴロツキだった自分を拾い、この組に入れてくれた人。それが、阿蒜にため息をつかせた要因だった。
伊武の兄貴こと、伊武隼人ははっきり言って狂人である。人を「羨ましい」か「羨ましくない」かで判断し、「羨ましくない」と思われてしまえば「死」あるのみ―。阿蒜も例に漏れず交通事故のような蹴りを喰らい、この組織に入った。初めての出会いは文字通り衝撃だったが、組に入ってから幾つか気付くこともあった。
圧倒的な強さ故に、頼りがいがあること。
声色がミステリアスな色気を含んでいて、よく聞いていると胸が高鳴ってくること。
そして、価値基準が歪んではいるものの、極道にあるべき仁義や任侠の心、そしてカタギの人間や仲間を大事にする気持ちがあること。
そんな様子を見ている内に、阿蒜は自分がこの男をどういう目で見ているのかを少しずつ自覚していくようになっていった。
「…どうしよう。俺、やっぱり」
―あの人が…伊武の兄貴が好きなんだ―。
「…蒜。阿蒜」
声が聞こえて、阿蒜は我に返った。物静かな声の方を向くと、愛しの相手の顔がそこにある。
「仕事中にぼーっとするなんて、羨ましくねぇなぁ?」
「…すみません」
この人に言い訳はご法度だ。阿蒜は力なく謝罪する。そんな阿蒜の心情を知ってか知らずか、伊武は珍しく怒りも叱りもせずに阿蒜の横に座った。
「最近お前、ずっとそうだなぁ」
「な、何がですか?」
「この頃のお前は、とにかく元気どころか生気もない。何か悩みでもあんのか」
やっぱりバレるもんなのか。阿蒜は項垂れるように首を縦に振った。
「…組に馴染めていない、とかじゃなさそうだなぁ。その顔は。人間関係で困ってる感じか」
阿蒜は心臓を鷲掴みにされたような気分になった。何でそんなことまで分かるんだよ。
「…でも、他の奴等といるときは普通だよなぁ。俺と一緒のときだけそうなんのか」
やべぇ、全部図星じゃねぇか。阿蒜は目の前の想い人が少し怖いような気もしてきた。ここまでバレているなら、俺の気持ちにももうすぐ気付くだろう。なら、いっそ―。
「…俺、伊武の兄貴が好きなんです。気付いているのかもしれませんけど…俺を組に入れてくれて、厳しいけど面倒見も良いし、強いし…でも、単純すぎますよね。俺だけにやってるわけじゃないのに」
話しながら、阿蒜は伊武を盗み見る。伏せがちでありながらも美しい目は少し驚いたように開いていた。
「…そうだな。」
「えっ?」
何に対する肯定なのかが分からず、阿蒜は困惑した。
「確かに俺はお前だけに…お前の言う『面倒見良く』接してるわけじゃねぇし、そもそも恋愛やってるほど暇じゃねぇ」
あぁ、やっぱりそうだよな。分かっていながらも、阿蒜は泣きそうになった。
「でも、…見た目は愛くるしいペーペーの癖に度胸はある。しまいには、自分より上の立場の奴から圧力かけられても『世話になった人を裏切ることはできない』って言い返す。…ひでぇ奴だなぁ。これじゃあ、俺の方が単純じゃねぇか」
伊武は少し困ったように笑った。
「阿蒜が言ってくれたんだから、俺も言わねぇとなぁ」
阿蒜の手を取り、まっすぐに見つめてくる。
「俺も、お前が好きだ。まだまだ未熟だが、根は誠実で、素直で、可愛い俺の舎弟。…どうか、俺のそばにいてほしい。お前だけを、ずっと、見つめていたい」
阿蒜の頬が紅潮する。鼓動がだんだん速くなっていくのが分かった。
「俺でよければ、ずっと兄貴のそばにいます」
震える声でそう返した。その瞬間、阿蒜の腕が引っ張られる。あっ、と思ったときには、大きく優しい何かに体を包まれていた。
…阿蒜が「自分が抱き締められている」ことに気付いたのは五秒ほど経ってから。上品な黒い服からは恋するような、甘い香りがした。伊武は阿蒜の髪を少し掻き上げると、耳に口を近づけ、色気のある声で囁く。
「お前の、全てが『羨ましい』なぁ…」
その言葉に、阿蒜は背筋がゾクリと熱くなるのを感じた。頬を更に紅潮させ、ようやく離れた伊武の顔を見上げる。
「…本当」
―お前の、そういうとこが好きなんだよ、阿蒜―。
コメント
4件
良かった~~!!ありがとうございます!
最高すぎや🥹
ありがとうございます!頑張ります!