テラーノベル
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これは僕がここに越してくる少し前のお話し
僕は新しく資格を取った
その職種に就くために新しい職場も決まった
ここからは少し遠く、少し前に新しい家も決めている
この病院とも明日でお別れだ
だからと言って今日の仕事も昨日までとは変わらない
あるとすれば引き継ぎの人に仕事を託し、時間を見て残した仕事を終わらせるだけ
昼食も済ませ、自分の仕事を終えると僕が所属している科の看護師さんに声をかけられた
「甲斐田さん、私これから患者さんの受け入れの準備しなきゃいけなくなって、もし時間があったら入院患者さん達に渡すもの先にやっておいてもらえると助かるんだけど。終わったらすぐに戻るから」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
僕は言われるとすぐにカートを手に取り、中身の確認をする
医薬品とは別に体を拭くタオルやその他の備品の在庫を確かめて、いつものように部屋を巡回し始めた
患者の皆さんと雑談しながら部屋を一つ一つ周る
そうこうしているとエレベーターの扉が開き、ベッドに人を乗せたまま運ばれて来た
これが看護師さんが言ってた方なのだろう
患者さんは1つ空いていた個室の病室へと運ばれていった
一緒に移動している点滴の袋に目が止まる
確かあの袋は‥‥‥‥
かなり具合がよろしくないのが分かった
強い痛み止め
それを目で追っていると看護師さんに声をかけられる
「甲斐田さん?今きた患者さんは私がやるから大丈夫よ」
「分かりました。あと三部屋で僕も終わりなので」
そう言って残りの部屋を回り、最後の部屋を終えて廊下に出た
隣にある個室の部屋は扉が開け放たれている
ちょっとだけ気になって少しだけ覗き込んだ
まだ若い男の人‥‥
「‥‥‥‥あの」
「っはい!」
まさか呼び止められるとは思わずに僕は大きな声で返事を返してしまった
「すいません‥‥大声出しちゃって」
「いえ‥‥大丈夫ですよ。あのお願いがあるんですけど‥‥」
「なんでしょうか?」
「俺のスマホって近くにありますか?」
「スマホですか?」
辺りを見てもそれらしいものはない
きっと貴重品として鍵のついた引き出しの中にしまわれているんだろう
「引き出しの中かもしれないですね」
「出して‥‥もらえますか?」
「じゃあ鍵預かって開けますね?」
力無く頷く彼の腕につけられた鍵をそっと外した
細い手首‥‥
相当な痛みと闘って来たんだろう
鍵を開け、引き出しの中からスマホを取り出す
「すいません‥‥もうスマホも重くて‥‥ただ待ち受けの画面が見たくて」
「画面?分かりました」
誰か大切な人でも待ち受けにしてるのかな?
だが、電源を押してもスマホは付くことはなかった
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