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Fortress の閉店時間。入り口のシャッターが閉まり、裏口からチバラキVの面々がそれぞれ出ていく。
歩いていく瑠美の後ろから、玲奈が走って追いつく。
玲奈「瑠美さん、ちょっといいですか?」
瑠美「何だよ?」
玲奈「さっきの話、もう一度考えてくれませんか?」
瑠美「しつけえな! 嫌なもんは嫌なんだよ」
玲奈「だって、瑠美さんはあたしとは違うじゃないですか」
瑠美「はあ? どういう意味だ?」
玲奈「あたしは足を怪我して選手生命終わったから、もうバレーは競技レベルではできないんです。でも瑠美さんは今でもギター弾けるでしょ? それもあんなすごいレベルで」
瑠美「チッ! 面倒くさい奴だな、あんた。じゃあ、河川敷まで付き合え。あんまり他人に聞かれたい話じゃねえから」
場面転換。
河川敷の運動公園の端のベンチ。玲奈と瑠美が並んで腰を下ろす。
瑠美「あたしは東京でフリーのギタリストやってた。それは知ってんだな?」
玲奈「はい。すごいですよね。プロのミュージシャンとお知り合いになったの、あたし生まれて初めてです」
瑠美「フリーのプロって言や聞こえはいいけどな。実際には仕事があるかどうか分からねえ、その日暮らしの貧乏人だ。それでも一応自分のバンドも持って、あたしも夢追いかけてた頃はあった」
玲奈「何か、夢をあきらめなきゃいけない事でもあったんですか?」
瑠美「インディーズでそこそこ実績は積んだけど、いつまで経っても音楽じゃ食べていけない。だから、賭けに出た」
以下、瑠美の回想シーン。
小さな音楽事務所の中。瑠美がプロデューサーの男性と話している。
瑠美「今度のコンペ、うちのバンドも出場させて下さいよ」
プロデューサー「やめとけ。今度のコンペでクライアントが欲しがってんのはギタリストじゃない。ギター『も』弾けるアイドル候補だ」
瑠美「でも、他から声がかかるチャンスもあるでしょ? うちのバンドの腕前はみんな認めてるじゃないですか」
プロデューサー「メジャーになれるのは演奏の腕じゃない、ルックスだ。それが今の、この業界の現実なんだよ」
瑠美「そんな事やってみなきゃ分かんないでしょ? やらずに後悔するより、やって後悔したいんすよ!」
プロデューサー「そこまで言うなら、やってみろ。だけど、俺の予想通りの結果なら当分仕事は来なくなるぞ」
瑠美の回想シーン、場面転換。
中規模の演奏ステージ。客席に音楽関係者が十数人。
ステージで瑠美のバンドが渾身の演奏をする。瑠美がエレキギター、他にベース、キーボード、ドラムスの男性3人。
演奏が終わって舞台の袖に引っ込む瑠美のバンド。入れ替わりに可愛い女性アイドル候補がボーカル兼エレキギターの、5人組のバンドが登場。
そのバンドの演奏を聴きながら瑠美がガッツポーズをする。
瑠美「なんだありゃ? まるっきり素人のギターじゃねえか。勝ったぜ!」
選考の結果発表。ステージの後ろの壁にプロジェクターで審査結果の棒グラフが映し出される。12票の全てが、アイドル候補のバンドに入っている。
歓声を上げるアイドル候補と彼女のバンドメンバー。呆然とする瑠美。
場面転換。河川敷公園のベンチの玲奈と瑠美。
瑠美「満場一致だからな。あたしらにとっちゃ公開処刑だ。ただでさえ狭い業界で恥さらしな評判になって、仕事も来なくなった。他のメンバーがもうバンドやめるって言いだして、あたしもなんか、もう何もかも馬鹿馬鹿しくなってな」
玲奈「それっておかしいじゃないですか! 瑠美さんのバンドの方が絶対上だったんでしょ?」
瑠美「コンペ自体が最初から出来レースだったんだろうさ。どんなに腕が良くても、見てくれのいい女が勝ちなんだ。それが世間の現実なんだよ」
瑠美がベンチから立ち上がる。
瑠美「これで気が済んだろ? あんなイケメンとは程遠い高校生が夢見たって、現実に打ちのめされるのがオチなんだよ」
そのまま歩き去って行く瑠美。ベンチに座ったまま、うつむいている玲奈。