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いつものように患者に誠実に向き合い、疲労を感じつつも充実感も得ていたウーヴェは、今日はライブに行くと浮かれた様子で早々に帰宅したリアの様子を思い出して好意的な笑みを浮かべる。
今日のライブは最近頭角を現しているインディーズのバンドが初めて単独で行うものらしく、どんな風にワクワクさせてくれるのか楽しみと、まるで幼い子供を見守る親のような顔で–決して彼女に伝えることはできないが–で期待に満ちた顔で笑っていたことも思い出すと、そう言えばライブなど今までの人生で一度も行ったことがない事に気付き、己の青春を振り返って暗澹たる思いを感じてしまう。
学生の頃は勉強に励んでいてライブどころではなかったし、元々大音量やハレーションを起こしそうな照明の明滅も苦手だった。
せいぜい、アリーセ・エリザベスと一緒にクラシックコンサートに出かけるぐらいだった為、彼女の楽しみ方が正直羨ましかった。
ただ、彼女を羨んだところでどうしようもない為、楽しかったかどうかは明日出勤してきたら聞こうと苦笑した時、ドアが静かにノックされる。
「どうぞ」
「ハロ、オーヴェ! 迎えにきたぜー」
「ああ、お疲れ様、お帰り、リーオ」
いつもとは違って盛大なノック–と今だに言い張る–ものをせず、一般的にノックと認められるそれをした後、ウーヴェの声を受けてからドアを開けたのは、今日も一日頑張って来たぞーと顔中で物語っているリオンだった。
「うん、オーヴェもお疲れ。リアはもう帰ったのか?」
「ああ。今日はライブに行くと言っていたな」
お前の元同僚のダニエラと一緒に行くと言っていたことを伝えると、リオンが蒼い目を何度も瞬かせる。
「へー、ダニエラの彼氏ってそーいうの嫌いだって言ってたはずだけどなぁ」
「え?」
「……別れたのかな」
交友関係に割と厳しいというか色々制約があって中々一緒に飲みに行く事も許してもらえないと愚痴っていた事もあったと、初めて聞かされる情報にウーヴェが意外そうに目を見張るが、気にするな、もし別れたのだとしてもそれ以前に何かあっても彼女の問題だと、聞き様によっては冷徹に聞こえる言葉を肩を竦めつつ伝えたリオンにウーヴェも同じような笑みを微かに浮かべ、うんと小さく呟くとデスクを支えに立ち上がって回り込んでリオンの前に立つ。
「……リーオ」
「ん?」
労いのキスはまだしていないがと笑うウーヴェに再度目を瞬かせたりオンは、ウーヴェの腕が頭の後ろで交差して引き寄せられた事に気付いて内心の笑みを顔中に広げる。
「……ん」
積極的にキスをして来ることなど数える程しかないウーヴェなのに随分と積極的だと内心でほくそ笑んだリオンは、ウーヴェの腰に両手を回し、デスクと己の身体で痩躯を挟み込む。
「……どうした?」
「……別に」
「何でもないって言えばキス一つって約束だけどさ、ああ、今のキスは前払いか」
二人の間でのいくつかある取り決めの中、本心を伝えられずに何でもないとごまかした時にはキスをするというのがあったが、いまの積極的なキスはそれの前払いかと笑ったリオンの腹に拳を一つ押し当てたウーヴェは、ふんと笑ったものの表情を変えると、握った拳を開いてリオンの胸にそっとあてがう。
掌から伝わる規則正しい鼓動、それが不安を覚えた時や寂寥感を拭い去れない時にどれほどの助けになっているのかを伝えたいと思うものの、言葉では伝えきれない気がし、次の行動を待っている蒼い双眸に艶然と微笑みかける。
「……何なに、マジで今日のオーヴェ嬉しいんだけど」
「今日の俺が嬉しいってどういうことだ」
「ん? だってさ、いつもは照れてカップルだったら当たり前のことも控え目だろ?」
だからこれくらい積極的なのが嬉しいと己の素直な感想を衒うことなく口にする己の胸を撫でるウーヴェの手首をそっと掴んで今度は自ら己の頭の後ろに回させたリオンは、逆らうことなく身を寄せる背中をそっと抱きしめ、上を向くウーヴェの唇に小さな音を立ててキスをする。
「……こら」
「はいはい」
折角積極的になっているのに逃す手はないと背中から腰へと降ろされる手に気付き、うっとりした顔を少し赤らめてリオンを間近で睨んだウーヴェだったが、その言葉を当然ながら聞き入れるようなリオンではない為、尻を掴まれて肩がびくりと揺れる。
「……リオンっ!」
ここではダメだと最後の抵抗をするようにウーヴェがリオンの腕の中で身を捩るが、それを難なく抑え込んだリオンはじっとメガネの下の目を覗き込み、本当に嫌かと問いかける。
「……」
「な、オーヴェ、こうするのはイヤか?」
自分だけが出来るウーヴェの首筋へのキスを繰り返しながら問いかけたリオンは、ウーヴェの震える手が上がり、弱い力で尻尾と呼ばれる束ねた髪を引っ張った事に気付き、これ以上は無理強いになる事にも気付いて吐息交じりのキスをシャツの襟元の奥に残す。
「……って、から……」
「オーヴェ?」
そのキスを終えた直後に零された言葉が聞き取れずに名を呼んだリオンは、ピアスが嵌る耳朶に口を寄せられて目を細め、直接耳に吹き込まれる言葉に唇の端を持ち上げる。
「……了解、じゃあ早く帰ろうぜ」
このままだと車の中でヤりたくなってしまうと男というよりはオスの顔で笑うリオンの胸を悔しそうに一つ殴ったウーヴェは、早く家に連れて帰れと再度吐き捨てるように伝えると、気持ちを切り替えるようにリオンの腰に両腕を回してしがみつく。
「かしこまりました、陛下!」
今すぐ飛ぶように帰りましょうそうしましょうと己の胸に赤くなった頬を当ててクスクス笑うウーヴェの頭にキスをしたリオンは、自宅に戻ってベッドルームにたどり着く前にキスをしてそのまま己の部屋に連れ込もうと決め、それを期待している可能性を探るためにウーヴェの顔を覗き込むが、己の予想が間違っていないことに気付くと勢いよくウーヴェを抱き上げる。
「こらっ!」
「うるせぇ」
はいはい、文句なら後でいくらでも聞くから今は俺の思うようにさせてくれと吠えるリオンの髪を一つ引っ張る事で許可を与えたウーヴェは、今日は天国で抱き合おうとも囁き、リオンの気持ちを更に浮かび上がらせるのだった。
いつも以上に飛ばした車で帰宅した二人だったが、自宅のドアを開けた瞬間互いの顔をオスへと変化させ、玄関から最も近い部屋の一つであるリオンの部屋に文字通り転がり込む。
手を伸ばせばベッドに届くのに床に寝転がってキスをするリオンの背中を抱き、床の上は流石に嫌だと意地の悪い思いを込めて囁くと、さっきから文句が多い、そんな口は封じてやると蒼い瞳に見下ろされ、メガネも奪われて観念したように目を閉じる。
噛み付くようなものがくるのかそれとも鳥が啄ばむようなものかを暗転した世界で想像していると自然と唇の両端が持ち上がったようで、嬉しそうな吐息が頬に落とされて目を開ける。
開いた視界に飛び込んできたのは世界でただ一つのなににも代え難い宝のような一対の青い双眸で、ああ、この青に染まりたいと滅多に感じない抽象的な思いに囚われ、逃したくない思いから両手で頬を挟んで笑みを浮かべる顔を引き寄せる。
「……リーオ、蒼い目の、俺の天使」
「……天使は恥ずかしいな」
それに天使と言えばアーベルを思い出すから別の例えにしてくれと苦笑されるが、天使なんだから仕方がない、それに彼には申し訳ないがアーベルの事を天使とは思えないと少しだけ意地悪な笑みを浮かべたウーヴェだったが、やはりリオンにふさわしい言葉はこれしかないと気付き、頭を持ち上げて薄く開くリオンの唇に自らキスをする。
「俺の太陽」
「……やっぱそれが良い」
お前の太陽でいるつもりだがいつまでもそういさせてくれと笑うリオンに頷きベッドに連れて行けと命じると、嬉しそうな溜息が顔にこぼれ落ちた後、体重を感じさせないような気軽さで抱き上げられ、パイプベッドに丁重な手つきで降ろされる。
その後、ウーヴェが想像したものよりも激しく思いのこもったキスを何度も受けて熱を上げられ息も上がるが、自分だけではないことを時折リオンが耳元で囁く言葉や息づかいから感じ取り、妙な安心感を快感へと昇華させるのだった。
ギシギシと軋むベッドの音から快感に飲まれていたウーヴェの意識が一瞬の間、浮遊するクラゲのように波間に浮上する。
その意識の浮上に目聡く気付いたリオンが、太陽と月に足を乗せて尻尾を絡めたリザードが傷跡を覆ってくれている腰を掴んで引き寄せると、枕に頬を押し当てたウーヴェの口から短く息を飲む音が聞こえる。
その声にリオンの口に太い笑みが浮かび、伸び上がるようにしてウーヴェの耳に口を寄せると掴んで引き寄せた腰がふるりと震える。
「ん……ぁっ……」
「オーヴェ、ケツ上げろ」
そのままだとシーツと擦れて床でヤッてるのと同じになっちまう。どうせならば今銜え込んでいるものでイって欲しい、だから尻を上げろと再度囁くと快感の滲んだ双眸が肩越しに睨んでくる。
その気の強さに思わず口笛を吹いたリオンは、それだけ元気があるなら大丈夫だなと笑い、なかなか尻を上げないウーヴェの肩をきつく吸い上げた後、ベッドとウーヴェの腹の間に手を差し入れて腰を浮かせる。
「……ア……っ!」
「ほら」
床を使ったひとりエッチは基礎学校かギムナジウムで卒業しただろうと赤く染まる耳朶に口を寄せてニヤリと笑ったリオンだったが、のろのろと持ち上がった手が己の頭上に落ちたかと思うと、痛みを覚える強さで髪を握り締められて笑みを太く深くする。
「良い度胸だな」
「うるさ……っ……ィ……!」
リオンの髪を思わず予想外の強さで握ってしまい、大丈夫かと気遣うよりも突き上げられた快感に頭が仰け反り、視界の端にどんな時でも腹が立つほど見惚れてしまう蒼い瞳が入り込み、己でも意味がわからない嘆息が嬌声と一緒に零れ落ちる。
己の意思で動かすことの出来なくなった左脚を抱えられ、右足と咄嗟についた両手で体を支えたウーヴェは、脳裏に焼きつく蒼い双眸から意識を逸らすようにきつく目を閉じるが、さっきと同じ場所をまた吸われて枕に顔を押し付ける。
「……シーツも手も使うなよ、オーヴェ」
イキたくなればちゃんと言えと耳朶をねっとりと舐めながら囁くリオンに肩を震わせて何も言えなかったウーヴェだったが、そのまま黙ってしまうのも癪に触るため、小さく名を呼んで更に顔を寄せさせると、お前の手が良いと滅多に見せないリオンが言うところの可愛い顔でおねだりをしてみる。
「……反則だって、それ」
「手を使うな、と言ったのは、お前だ……」
自分の手は使えないのならばお前の手を使うしかないだろうと、リオンだけが見ることのできる艶然とした笑みを後ろの顔に見せつけると、最奥を埋めたものが大きく脈打った気がし、腰がびくりと揺れる。
「手を使わなくても中でイケば良いだろ?」
「……ンア!」
ほらとひときわ強く突き上げられて頭を仰け反らせた反動で肩から枕に落ちてしまったウーヴェを見下ろして満足そうな笑みを浮かべたリオンは、はいはーいと些か場違いなほど陽気な声を発してウーヴェの中から一度抜け出すと、肩で息をする痩躯を横臥させ、背後から頬にキスをしながらゆっくりと時間をかけてウーヴェの中に潜り込む。
「……ん、あ、あ……っ……」
半ば近くまで腰を進めて動きを止め、尻を掴んでいた手を今度はウーヴェの左脚に回して持ち上げると、一気に腰をぶつけて一際高い声を上げさせる。
ウーヴェの口から溢れる嬌声が快感を由来としているものだと気付いているリオンがもっとと己の欲求に従うように腰を振ってウーヴェの中をかき乱せば、途切れ途切れだったり高低があるが紛れもない嬌声が流れ出す。
「オーヴェ……気持ち良かったら指舐めて」
ウーヴェの頭の下に差し込んでいた腕を軽く曲げてウーヴェが握りやすいようにすると痛みを覚えるほど強く握られて口元に引き寄せられるが、程なくして猫がミルクを舐める時のような仕草で指先を舐められ、リオンの腰にダイレクトに快感としてそれが伝わっていく。
思わず堪えきれずに突き上げると同時にウーヴェの舌を抑え込むように指を曲げ、そのまま口の中を犯すように指を差し入れると、拒絶せずに受け入れたことを教えるように二本の指に舌を絡められ唾液まみれにされてしまう。
気持ち良いかと囁きながら指で舌を抑えて口を開けさせると抑えても仕方がないと察したらしいウーヴェの口から荒い息が溢れ、縋るように腕にしがみつかれる。
「……あ、あ……」
「手、貸せねぇから後ろでイって、ダーリン」
俺の左手はお前の左脚を抱えているし、右手はお前の口の中でロリポップのように舐められしがみつかれているから手を貸せないと囁き腰を押し付けると、ウーヴェの頬に赤みが増す。
「大丈夫だって」
恥ずかしいことでもないし俺だけだろうと尚も笑うと腹癒せのように爪に歯を立てられて一瞬だけ顔を顰めるが、この野郎と吼えて突き上げる動きを激しくする。
それに合わせて上がる嬌声に気を良くしたリオンは、このままイかせてしまおうとウーヴェの腰が震え体が跳ねる場所を突き上げては擦ると、ウーヴェの全身が一瞬で粟立つ。
そして、リオンの動きに合わせて口から溢れる途切れ途切れの声や中の様子から己の言葉通りに後ろだけで昇りつめたことに気付くと、良くできましたと褒める代わりに何度もキスをする。
「……あ……っア……」
「気持ち良かった?」
じゃあ今度は俺だから少しだけ我慢してくれとウーヴェの肩を軽く押してベッドに俯せにさせたリオンだったが、ウーヴェの手が顔のそばに放心したように投げ出されていることに気付き、その手を覆うように手を重ねると、のろのろと指が曲げられてシーツと一緒に握り込まれる。
伝わる気持ちに背中の傷跡を覆い隠す任務についているリザードの蒼い目に感謝のキスを何度も落としたリオンは、片手でウーヴェの尻を掴み、さっきよりも激しく中を掻き乱すとウーヴェの口からこぼれた悲鳴じみた嬌声がシーツに吸い込まれていく。
そして訪れた白熱の瞬間とその直後、ウーヴェの中にとどまっていたい思いを何とか断ち切って抜け出したリオンは、汗が滲む背中に胸を当てるように覆い被さる。
「……気持ち良かった」
「……そう、か」
自分もそうだと眠そうに返事をするウーヴェの頬にキスをするとウーヴェの右足がリオンの足に絡むように回される。
それが満足の証だと気づいたのは最近だったが、満足してもらえて良かったと戯けた風に囁いたリオンは、ウーヴェの手が頭に乗せられてそっと撫でた為、ウーヴェの痩躯からベッドに降り掛け声一つを放って抱き寄せる。
「……もう、無理だ、から……」
「うん、分かってる。……おやすみ、オーヴェ」
「おやすみ……」
第2ラウンドまでは付き合いきれないぞと忠告をされて素直に頷いたリオンだったが、不意に覚えた睡魔に負けかけている事を伝えるように大きな欠伸をし、ウーヴェの肩に顔を寄せる。
リオンの耳に届く微かな寝息に先ほどの言葉は本当だったのかと苦笑するが、己も睡魔に完敗一歩手前である事を認識するように再度欠伸をすると、ウーヴェを追いかけて眠りに落ちるのだった。