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◻︎夫との話し合い
智之は、ひまわり食堂に預かってもらった。
あのあと夫から、話し合いの場所を指定された。
隣町にある、二階建てのアパートだった。
___愛人と2人で住んでいる部屋ということだろうか?
コインパーキングに車をとめ、教えられた部屋に向かう。
午後1時、約束した時間ぴったりに到着した。
ピンポン🎶
「はい」
ガチャガチャと音がしてドアが開いた。
目の前には夫が…じゃなくて、男の子が立っていた。
「え?あれ?部屋を間違えた?」
「香織か?入って」
奥の方から夫の声がした。
「靴を脱いで上がって」
言われるがまま、部屋へ入った。
「わざわざ来てもらって悪かったね」
「ま、まぁ、ね」
初めての部屋だとなんだか落ち着かない。
「麦茶ですけど」
ぎこちなくお茶を持ってきてくれたのは、さっきの男の子。
「大輝、ありがとう。香織、紹介するね、この子は大輝。9才になった、智之より一つ上だ」
「えっ!どういう?…」
「俺の息子だ」
「………!!」
頭を思い切り殴られたような衝撃を受けた。
___息子?俺の?9才?
突然のことに頭が整理できない。
息が苦しくなる。
「落ち着いて、香織、全部話すから」
私は出された麦茶を一気に飲んだ。
「どういうことなの?いつのまに?!」
パニックになって、暴れ出しそうになる感情をぐっと堪えた。
「単刀直入に言うよ。俺には結婚して間もない頃から付き合ってる女がいた、この子の母親だ。君は仕事ばかりでほとんど家にもいない時期で、俺は時間をもてあましていた。
やっと結婚したのにすれ違いばかりで、満たされなかった時、ふと入った店で働いていた女と親しくなった…名前は沙智という…」
夫の声がだんだん遠くに聞こえて、私にはまるで他人事にしか聞こえない。
「子どもも望めないかもしれない状況だったとき、沙智が妊娠した。沙智は子どもは諦めると言ったけれど、俺は子どもが欲しかったから、産んでくれと頼んだ…」
___誰が妊娠したって?子ども?なんのこと?
夫の突然の告白に、思考回路がまったくついていかなかった。
私は、ここに来るまでにいろんなことを考えていた。
おそらく愛人といるであろう夫、愛人と結婚したいから別れてくれと言われるだろう、そこまでは想像が簡単だった。
___奥さん、ご主人を私にくださいとか言われて、私がめちゃくちゃ怒って、夫は渡さないとか、慰謝料払え!とか、そんな修羅場になる…
そこまでは私の想定内だ。
そこで私は、[まだ夫のことが好きだと言い、智之も父親に帰ってきて欲しいと言っている]と夫にすがる。
みっともなくても、惨めでも、自分の気持ちのありったけを夫に伝える覚悟でここに来た。
それなのに…。
どれくらい沈黙していたのだろう。
麦茶の氷が、カランと音を立てたことで、ハッと我にかえる。
「…あなたは、どうしたいの?」
やっとの思いで出たセリフ。
私がどうしたいのか伝える前に、夫が考えていることを聞いてみたかった。
おそらく、理解はできないだろうけど。
「……俺は…」
ぴろろろろろろろろろ🎶
夫が何か話しかけたとき、夫のスマホに着信があった。
「ごめん、ちょっと出るわ」
一言のことわりをいれて、スマホに出る夫。
大事な話をしているのに、こんな時によく電話に出れるもんだと腹が立つ。
「はい、そうです、え?はい、わかりました。すぐ行きます」
「大輝、お母さんの容態が!早く車に乗って!」
「お母さん?!うん!」
「えっ、ちょっと、なに?なにがあったの?私はどうすればいいの!」
なんだか慌てている夫と大輝。
私はどうすればいいのかわからない。
「ごめん、あ!そうだ、一緒に病院へきてくれ」
「は?」
「わけはあとで話すから、とにかく!」
なんだかよくわからないまま、夫の車に乗り込んだ。
何年ぶりに夫の車に乗ったのだろうなんて、しみじみ思う。
___大輝のお母さん、ということは夫の不倫相手。入院してる?だから部屋にいなかったんだ…
そんなことを考えていた。
夫の運転する車は、15分ほどで総合病院に着いた。
事情が飲み込めないまま、私は2人の後に続いた。