テラーノベル
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スカイビルに辿り着き、ビル内のフロアマップで確認すると、ブックカフェは以前利用したホテルの上の階にあった。
エレベーターに乗り込み、静かな駆動音に耳を傾ける。中は私一人だけ。
上へと上がっていき、フロアを通り過ぎていくパネルの表示をなんとなく見つめる。
エレベーターがホテルのフロアを通り過ぎたとき、潤に熱烈に抱かれたことをぱっと思い出してしまった。
「もう、変なこと考えないの」
首を振って、さっき想像した潤との待ち合わせのイメージを強く思い描く。
体調も戻って、平穏な日常。
これを繰り返していけばいいだけのこと。
何度も頭の中で繰り返している『大丈夫だ』という気持ちを強く思い描いたところで、エレベーターが到着し、ポーンと軽い電子音がした。
扉が開いて、エレベーターを出る。
ブックカフェのあるフロアはデンタルクリニックや美容クリニックなども併設されており、照明のトーンも暖色系でとても落ち着いた雰囲気だった。
利用する人も仕事帰りの人の姿がちらほら。
そんな中を私はブックカフェへまっしぐらに目指すが──その手前。
フロアの隅。
オフィス街が映る大きな窓を前に、観葉植物が並べられているスペースに見知った影を見たような気がした。
あれ、と違和感を覚えて視線をそちらに向けると、スラリとしたスーツ姿の男性は……潤だった。
「え、潤?」
小さく呟く。
潤の視線の先には女性がいた。
潤の視線をたどるように、思わず女性を見つめてしまう。オフィスカジュアルの服を着たその女性は、どこかで見たことがあった。
「──あ。前に潤をランチに誘っていた人だ」
二人は向かい合って何かを話している。
女性はあの時と同じく、熱心に潤を見つめている気がする。潤は腕組みをしている。
二人の様子は分かっても、声はここまで聞こえない。
前に進めていた足をきゅっと立ち止まらせて、ゆっくりと様子をうかがうように、そのスペースへと足を向けた。
一歩ずつ静かに近づくにつれて、さっきまでイメージしていた待ち合わせのシーンがすっと、静かな館内に消えていくようだった。
二人がいるスペースの手前に、身を隠すにはちょうど良い柱があったので、そっとそちらに身を隠した。
潤が浮気をしたとか、密会していたとか微塵も思っていない。
多分、偶然にもここで仕事場の関係者と出会った一幕なのだろう。
それでも二人に引き寄せられてしまったのは、潤を見つめる女性の視線が気になってしまったからだった。
服の下にある指輪をきゅっと強く握りながら二人の様子を見つめると、女性がシアーレッドの唇を開いた。
「巴さん、その……こんなところで会うなんて奇遇ですね。嬉しい。私もここのブックカフェが好きでよく来るんです」
ニコニコと話しかける女性は、全身で潤への好意を示していた。それに気づかない潤ではないだろう。潤はどう対応するのかと思えば、その態度はどこか事務的に見えた。
「そう。ここのブックカフェは専門書も多いから助かる。俺も良い場所だとは思う。平時ならもう少し会話をしても良いんだが、今から人と会う約束をしている」
「えっ」
潤の言葉に、女性はわかりやすく笑顔を曇らせた。
「すまない。そういうわけで相手を待たせてしまうと悪いから、また会社で」
潤が視線を逸らした瞬間、女性が潤の腕を急に掴んだ。
同時に私の心臓もドクンと不穏な音を響かせる。
「ま、待ってくださいっ。約束って、それはお付き合いしている人がいて、今からその人と会うからですか?」
「相手のプライベートにも関わるから言えない」
淀みなく言い切る潤。
それは女性が尋ねた内容を肯定するものと同じだと感じた。
そして、これ以上の覗き見は良くない。
女性の喋り方や表情から、このままだとなんとなく──潤に告白しそうな気がした。
いくら恋愛経験の少ない私でも、この雰囲気は察知できる。
好きな人がたまたま自分の好きなスポットにいたら嬉しくなるだろう。窓から見えるオフィス街はロマンティックだ。それで女性はつい、話しかけたのかもしれない。
それでも、自分の好きな人が告白されているというシーンを見てしまうと、その後どんな気持ちや感情で潤に会えばいいかわからない。
ベストなのは今すぐに静かにここを去って、後で潤に合流することだ。
潤はきっとこの女性に会った出来事を私に話さないだろう。潤が上手くこの場をまとめる。
上原さんの時だって、潤が一人で全て解決したじゃないか。
だから私は何も知らないふりをして『待たせてごめんね』って言えばいい。
それが大人の嗜み。
変わらない日常を続けるためにはこうして、私が余計な行動を起こさず協力することだろう。
ぎちっと指輪を抱きしめて、もういい、早く去ろうと踵を返したとき。
背後から「待ってくださいっ」という女の人の声が耳に滑り込み──
「巴さんのことが……潤さんが好きなんですっ」
予想通りの言葉が鼓膜と胸を震わせた。
胸がドキドキする。
落ち着いて見えていた視界の照明が、どんどん暗くなっていくような気持ちになる。
次に耳にしたのは「それは」という、潤の戸惑いの声。
それだけでも潤が突然告白されて、困惑しているのが容易に想像できた。
#執着
猫とろ
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#初恋
金子りさ
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コメント
1件
みぅです🤍🥀 え、潤、他の女性に告白されてる…?! しかも主人公、それを見ちゃってるの、つらいよ…。指輪ぎゅっと握るシーンがもう胸にくる。自分は知らないふりして去ろうとする「大人の嗜み」ってところ、理解できるけど、それでもドキドキして視界が暗くなる感じ、すごくリアルで切なかったです。猫とろさんの心理描写、引き込まれます。次どうなるか気になって仕方ない…!