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西王母の屋敷では仙人と道士達がパタパタと忙しそうに動き回っている。蟠桃会と言う宴の為に、西王母の弟子やその孫弟子達が集められて、ひと月以上に渡って準備をするのだそうだ。
私は西王母の弟子では無いのだけれど、颯懔に「何でも経験だ。手伝いに行ってこい」と言われて放り出されたので、こうして御屋敷にやって来たという訳。
考えようによっては仙人の顔見知りを増やせるし、良い機会かもしれない。実はちょっとワクワクしている。
手伝いをさせて貰えれば宴の雰囲気だって味わえるしね。
蟠桃会には上級階級である神僊から、西王母の目に止まれば天仙や地仙も招待されるらしい。とは言え私は道士なので、さすがに招待はして貰えない。本番で給仕や案内係にでもなれれば、披露される舞や音楽をチラッとでも楽しめるんじゃないかと期待している。
着いて早々に可馨に会った。御屋敷の建物その物の整備を取り仕切っているらしく、多くの仙や道士達に指示を出している。タイミングを見計らって声をかけた。
「可馨様にご挨拶申し上げます」
「あら、明明! お手伝いに来てくれると聞いて待っていたわ。みんなもう、猫の手も借りたいほどに忙しくって。貴女は働き者だから来てくれて嬉しいわ」
「可馨様は働かせ上手ですね。そんな風に言われたら、頑張らない訳にはいかないです」
ムキッと力こぶをつくってみせると、「相変わらずね」とクスクス笑った。
「早速で悪いのだけれど、あちらに少しだけ屋根が見えるのが分かるかしら。あそこにある亭の整備を手伝ってきてちょうだい」
「分かりました」
庭園の中を歩いている間にも、雑草を抜いたり剪定をしたりと、多くの仙達とすれ違った。
言われた場所まで辿り着くと、嫌そうな顔がお出迎えしてくれた。
「俊豪! もしかしてここの整備任されてるの? 可馨様に手伝って来るように言われて来たんだ」
「うわぁ、またあんたと仕事すんのか」
「失礼ね! ブー垂れてないで、早く何をすればいいのか教えて」
「この亭の柱の塗り替え。まず古いのを綺麗に引き剥がしてくれ」
「了解!」
2人で作業に取り掛かる。
塗料を引き剥がしてから、何度か塗り重ねなければならない。となると結構な時間がかかるわけで。無駄話なんてしていられないので、黙々と作業を続ける。
いい加減に手が疲れてきたし、お腹も空いてきた。痛くなった手をブラブラとして休ませていると、俊豪が話し掛けてきた。
「あれから仙術の方はどうだ?」
「うん、いい感じだよ。時々兄さんや師匠に稽古つけてもらってる」
俊豪と練習試合みたいなのをしたいと思っていたんだけど、それを言うと何故か颯懔の機嫌がすこぶる悪くなるので諦めている。道士同士でやるからいいのに。
「あっ、鐘の音」
「昼を食べに行くか」
正午を報せる鐘の音が聞こえてきた。食堂に行けば昼食が用意されているらしい。場所が分からないので俊豪の後ろを歩いてついていく。
池沿いには、さっき塗り替え作業をしていたのとはまた別の亭があったり、回廊があったりと華やかで美しい。樹木もきっと、四季折々の花が楽しめるようにと植えられているのだろう。ちらほらと梅の花が咲いているのが見える。
途中、宴の会場となる桃園の前を通りかかった。
門で仕切られているところからして、相当大事に管理されていることが分かる。
「立派な桃園だね。百年に一度しか咲かないんでしょ?」
「ああ。俺も見るのは今度で初めてだ」
「あそこの門も塗り替えしてるんだね……って、あれって」
門に塗料を塗っている女性。
淡い黄褐色の髪色が特徴的なあの人は……
「紅花さーん!!」
大きな声で呼び掛けながら走っていくと、手を止めて振り向いた。
「あ、泰然ちゃん! 久しぶり」
「泰然?」
俊豪が眉をひそめた。
そうだった。紅花には男のフリをして会っていたから、弟の名前を名乗ったんだった!
「なんてね。明明ちゃんよね」
「あはは、名前知ってたんですね」
「そっ。颯懔に聞いたから」
「何だよ明明。こいつと知り合いなのか」
「うん。前に会ったことがあるの。俊豪も友達なの?」
「冗談抜かせ。どこに妖狐なんかと友達になる奴がいるんだ……ん? 『も』って言うのは、お前が前に言っていた道士の友達って言うのはこいつの事かよ」
「そうだよ。私が友達だと思ってるだけだけど」
「やーん、明明ちゃんったら。あたしだって友達だって思ってるってばー。秘密を共有する仲だもんね」
すーりすーりと頬っぺを寄せられた。なんかいい匂いする。
「俊豪は紅花さんとはどういう仲なの?」
「あたしね、今試用期間って言うのかな? この前颯懔に会った後に太上老君に言ってくれたみたいでさ。あたしがそろそろ仙籍に入れるんじゃないかって。そしたら西王母が、桃源郷で50年問題を起こさず暮らせたら仙籍に入れてやるって言うのよ。酷くない?」
「あったり前だ。妖なんて何しでかすか分からない奴を、そう簡単に仙籍になんか入れるわけないだろ」
「うわぁ、怖い。力だけあって善行が足りないやつに言われたくないね」
小馬鹿にした笑いを浮かべて見てくる紅花に、俊豪が剣を錬成して刃先を向けた。