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鬱瀬 冬鵺
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私には愛しい人がいる。 その人はよく笑い、よく怒り、よく泣く、豊かな人だ。しかし、民衆や王の前では澄ました様子で立っている。
彼女と私は昔からよく共に居た。彼女はお転婆で、よく衣服を泥だらけにしては共に怒られていたものだ。しかし、成長するにつれ段々と庭で走り回ることもなくなってしまった。一緒につまみ食いすることも、蝶を追いかけることも、花冠を作ることも、授業から逃げ出すことも無くなり、次第に彼女は周りから理想の王女と噂されるようになった。
そんな彼女が隠れて深夜まで勉学に勤しんでいることも、実は本を読むより馬に乗って走る方が好きなことも、朝の寝起きが悪いのも、私しか知らない。
社交界でそんな彼女は高嶺の花のような扱いを受けた。言いよる男性はみな、美しい宝石や美しい花、美しいドレスを差し出してくる。彼女がそんなものに興味が無いなんて知らず、馬鹿みたいに胡散臭い笑顔で言いよってくる。
――ある日、国で反乱が起きた。ここ数年の飢饉により困窮した民や労働者が牙を剥いてきたのだ。王も彼女も、必死に財政を立て直そうとしていたことも知らず。
あたりに喧騒が満ちている。人々が叫んでいる声、武器同士がぶつかる音、沢山の足音。そんな中、私は迷わず彼女の元へ走っていた。こんな服邪魔だ。エプロンを脱ぎスカートを破り捨てる。彼女が密かにしていた乗馬に付き合っていて良かった。彼女の部屋の扉を開ける。
「ダリア様!」
名前を呼ぶと、彼女が振り返る。こんな状況だと言うのに扇を口元に添え、美しく気品溢れる姿で立っていた。そんなの貴方の本当とは真逆だと言うのに。
「アリイ、その格好はなんなのですか?」
ダリアは静かに私をたしなめる。昔は私の方がたしなめる側だったというのに。私は彼女の手を握った。
「逃げよう!」
その言葉に、ダリアは一瞬驚いたように目を開ける。そして私の手を振り払おうとした。しかし絶対に離さない。さらに強く握る。
「民がこうなってしまったのは私達王家の責任です。私は責任を「そんなのどうでもいいから!」
またもや戸惑った顔をする。そんな彼女の手から扇を落とし、素顔を見た。
「あなたは王女である前にダリアだよ。泥塗れで遊んでたダリアだよ。」
私は彼女の肩を縋り付くように掴んで言う。それでもダリアはまだ迷ったような表情でいた。
「ここを出て自由に暮らさそう。宝石やドレスとは無縁な場所で、昔みたいに草むらに寝転がろうよ」
私はそっと肩から手を外し、少し下がって手を差し伸べた。
「逃げよう、ダリア」
それを聞き、彼女は少し迷った後に私の手を取ってくれた。そして昔よりも成長した顔で、昔のような笑顔を浮かべる。
「ありがとう、アリイ」
王女とメイドの駆け落ちなんて、許されないことはわかっている。けれど、私たちは王城の裏門から逃げ出し馬を走らせた。