テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「あの……ですね、白川さん」
「は、はい……」
黒沢君のお部屋へとお邪魔した結果、物凄くギクシャクしていた。
二人揃って、テーブルを挟んで座布団に座り、とてもとても固い感じでポツリポツリと会話している状態。
こんな筈では……むしろ私は、ここへ何する為にやって来たんだろう。
本当に考え無しに行動してしまった結果でしかない訳で、ホントもう多方面に申し訳ないって気持ちしか出てこないんだけど。
「ごめん……ね? 俺が変な事言ったから、来てくれたんだよね? ご迷惑、お掛けしました……」
「い、いえそんな! 私が勝手に来ただけですし! むしろこっちの方が申し訳ないというか!」
一応本題には入れたけど、結局お互い謝ってばかりという。
本当にもう、何しに来たんだ私。
もはや自己嫌悪を陥りそうになっていたんだが。
「でも、その。ありがとう」
「え?」
「白川さんが来てくれたって事に、びっくりするくらいホッとしてる。一人の時とかさ、ガンサバやってる時とか。何が何でもやらなくちゃって、全然駄目な俺のままじゃ、何も出来ないぞって。ずっと、自分の中で自分を責めてる気がする。けど白川さんと一緒に居る時だけは……なんて言うか。本当にもう、裏も表もなく……単純に、落ち着くって言うか。凄く嬉しいよ」
私には勿体ないくらいの言葉を、掛けてもらった。
そんな事を言われる資格とか、こんな風に思って貰える程凄い人間じゃないのに。
この人はいつだって、私の居場所を作ってくれるのだ。
「私は……黒沢君が思う程、凄くなんか無いです。今だって単純に、私の我儘で来ちゃっただけですし……」
「そ、そんな事――」
「あるんですよ。だって私も、黒沢君に会いたいってずっと思ってました。だから弱音を吐いてくれた時、今なら会いに行っても良いのかなって。ズルい事を、考えたんだと思います」
これも、私の我儘なのだ。
これまでずっと抑圧されて過ごして来て、お兄ちゃんの所に来て解放されたって思って。
けど、どうやって“自由”になったら良いのか分からなくて、結局何も出来なくて。
そんな時、兄が“娯楽”に触れさせてくれた。
これまでの人生に無かった興奮とか、感動がいっぺんに押し寄せた気がしたんだ。
その“楽しい”を、VRの中にしか無かった感情を。
黒沢君が、リアルの方でも教えてくれた。
普通にしている時だって、ゲーム内じゃなくたって。
私は今、凄く色んな感情に振り回されながら生活している。
でもそれは、驚きはするけど嫌じゃなくて、むしろ新鮮で。
これまで私は何を見て来たんだろうって思ってしまう程、リアルの世界に色をくれた気がするのだ。
「私の家は、ちょっと古い感じと言いますか。とにかく、“女に出来る事”といえば……みたいに、お母さんから徹底的に教え込まれました。遊ぶ事も殆ど許して貰えず、毎日学校と習い事の繰り返し。何をしても“完璧”になれなくて、“もっと頑張れ”って……ずっと、毎日の様に言われて育ちました」
「それは、何と言うか……俺が何か言って良いのかとか、わかんないけど……大変だったんだね」
こんな話をされても、相手を困らせると分かっているのに。
何となく、彼にだけは話してみようと思ってしまった。
「教えられた事をいつまで経っても“完璧”にこなせない私は、どうしたって不完全なんだって。どこまで行っても役に立たないんだって……小さな頃から、感じていて。だから誰も必要としてくれない、だから友達だって一人も出来ないんだって。ずっと諦めてました」
「そこだけは違うって否定するからね!? 白川さんは不完全でも、役に立たないなんて事も絶対に無い! 俺からしたら、どこまでも凄いって思うし、何より俺は白川さんを絶対的に必要としてるからね!?」
相手の言葉に、自然と表情が緩んでしまった。
彼を励ましに来たはずなのに、やっぱり私は駄目だなぁ……なんて思ったりもするけど。
この人は、いつだってこんな風に言ってくれる人だから。
「黒沢君、ちょっとだけこっちに来てくれませんか?」
「え、と? 白川さんの、隣って事で良いの……かな」
遠慮気味に彼が隣に座って来たので、此方からグイッと身体を近付けて肩をくっ付けた。
ちょっとだけ恥ずかしいけども……やっぱり、これが良いのかなって。
そのまま相手の頭まで手を伸ばして、こっちに引っ張り寄せて。
「し、白川さん!?」
「お兄ちゃんの所に逃げて来てから、暫くの間……結構、不安定だったんです。その時、我慢しきれなくて泣いちゃった時。お兄ちゃんがこうして慰めてくれたんです。偉いぞ、頑張ってるぞって、ちゃんと言葉にしてくれて。こうされると、凄く安心したので……」
彼の事を抱き寄せ、此方の肩に頭を乗せる様な形にして。
優しくポンポンッて、髪の毛に触れるみたいに軽く叩く。
これで安心するんだから、本当に子供っぽいって自分でも思うけど。
逃げた先でもろくな事が出来なくて、学校でも上手く馴染めなくて。
心が疲れちゃって、泣きそうになった時。
兄は、こうして“一人じゃない”って教えてくれたのだ。
「大丈夫、大丈夫です。黒沢君は、凄く頑張っています。とても凄いです、私なんかじゃ真似出来ないくらいに、凄い事をしているんです。でもそれは、きっといっぱい疲れます。だから疲れちゃった時は、いつでも私を頼ってくれたら……嬉しいです。こんな事しか出来ませんけど、それでも一緒に居たいので」
今思えば、ウチの親の教えも決して間違いじゃなかったのが分かる。
習った技術を他所で披露すれば、凄いって褒めてくれる事が多いから。
それだけ凄い技術を、小さな頃から教えてくれたのだと今なら理解出来る。
こういったモノがあれば、将来役に立つから。
大人になってから困らない様にって、いっぱい教えようとしてくれたのだろう。
こういった思考に気が付けなくて、限界が来てしまって。
逃げ出した先で、これは凄い事だったんだって改めて認識出来た。
そしてその技術を、この人の為に使いたいって思えたのが……黒沢君だったので。
「いっぱい頑張って、凄い成果を残して。それでもやっぱり、一人の人間ですから。いくら強くても、やっぱり疲れる時はあると思うんです。なのでそういう時は……私が隣に居たいなって、思ってしまいまして。やっぱり、私の我儘でご迷惑お掛けしちゃいましたね。すみません」
エヘヘ……と、ちょっとだけ困った様に笑ってみせれば。
彼は私の肩からゆっくりと顔を上げ、真正面から此方を覗き込んで来た。
物凄く近いというか、これまでには無かった距離感なので。
思わず顔に熱が籠っていくのが分かるが。
「やっぱり、白川さんは凄いよ。俺が欲しかったモノを全部くれるっていうか、こんなに貰っちゃって良いのかって思えるくらいに……幸せにしてくれる人だ」
「え、と……私は、そんな大した存在では……」
「俺にとっては、それぐらい大した存在って事。これも俺の我儘な意見なんだけど……否定、しないでね? 否定されても、俺が白川さんを十倍肯定するけど」
「それは、なんだか……物凄く恥ずかしいのですが」
などと話している内に、彼の手が此方の掌を握って来た。
ドキッとしてしまうというか、普通にビクッと反応しちゃったけど。
それでもやっぱり、逃げる気にはなれなくて。
「あ、の……」
「……うん」
お互い恥ずかしくなってしまい、視線を外してしまったりもするのだが。
でもどうしても気になってしまって、チラチラと相手の瞳を伺ってしまう。
しばらく無言のまま、そんな時間を過ごしつつ。
やがて、何でか。
本当に何故か、ゆっくりと顔を自分から近付けて行ったところで……。
「はい、お二人さんそこまで~。白川妹ー、お迎えが来たぞー?」
部屋の外から、ノックと共に9Kの声が聞こえ。
二人揃ってバッ! と音がする程の勢いでバックステップして距離を空けてしまった。
な、なぁぁぁ!? 今私、何しようとした!?
普通にあり得ないでしょ! 自分でも何考えているのか分からないんですけど!
ついでに言うと、正座の状態でどうやってバックステップしたんだ。
コレに関しては黒沢君も一緒だけど、どうやって一瞬で距離を空けた!?
とか何とか、脳内が忙しくこんがらがっていたのだが。
「え、えと……白川さん。今日の所は、一旦お帰り頂いて。今度、また……ゆっくりお話出来ればなって……思います」
「は、はぃ……こちらこそ。本日は、大変失礼いたしました……」
そんな訳でもう一度、お互いに深々と頭を下げてしまうのであった。
結局私は何しに来たんだ!?
くろぬか
3,408
柘榴とAI

441
柘榴とAI

391
コメント
1件
ああもう、最後の9Kさんのタイミング、憎らしいほどいいところで!笑 でもそのおかげで、白川さんが「自分は何しに来たんだ」って自問するところも含めて、すごくリアルで愛おしかったです。黒沢くんを励ましに行ったのに、逆に自分の過去を話して、そこから「行動で示す」温かさが伝わってくる場面が素敵でした。二人の距離が少しずつ縮まってる感じがじんわり沁みます…🌷