2100年
レンガ造りのカフェで僕と優也は学ラン姿のまま、横に学校のリュックを置いて向かい合っていた。僕はチョコレートケーキとコーヒー、優也はコーラフロートと、粉砂糖が毎回かかりすぎではないかと思うモンブランを食べていた。
「もう俺らが卒業したんだって。はやいな。」
いきなり、優也が切り出す。そう、僕らは今さっき卒業式を終わったばかりである。
「そうだね。」
コーヒーを口に運びながら僕がうなずく。
「卒業式泣けなかったな」
「泣きなよ」
「泣ける思い出あったっけ?」
「あれよ」
僕はそう言いながらまたチョコレートケーキを一口食べて、すっかり冷めたコーヒーでごくりと流し込んだ。優也はモンブランを口に運び、結露でびちゃびちゃのコップを握り、コーラフロートを飲んだ。
「そういえば、もうそろそろ集会の時期だよな。」
優也が頬杖をつき、コーラフロートをかき混ぜながら言う。
「あぁ、明日の予定だよ」
「今日中にすべての型をつけますか。」
僕と優也は、大きなため息をついた。
「じゃぁ、行きますか。」
僕はそう言って立ち上がり、カフェのおばちゃんを呼んで、お金を支払い外に出る。
先に説明しておこうと思うが、僕らはG7の国々で構成される組織〈BIRDS〉に入っており、主には国ごとに行動するのだが、時には海外の組織の人達と共同で行うことがある組織である。本部はジュネーブにある秘密空間に存在するそうだが、行ったことなど一度もない。表向きにはこの組織は存在していない。やっていることは、『現首相などのスキャンダルなどを持つ人から情報の奪還』や『テロの際の敵の捕獲や殺傷』や『ヤンキーの抗争の鎮圧』などである。そのため多くの頭がおかしな人間が集まり、スパイなどをすることが多い仕事である。
「じゃぁ、仕事行きますか。」
大きな伸びをしながら優也が言った。
カバンからスマホを取り出し、萩野さんに連絡を入れておく。
それにより、監視カメラはハッキングされ、ダミーの画像が流れるようになっているらしい。ここから6㎞ほど南に行くと廃工場や廃ビルの立ったままのところに着く。そこが、ヤンキー抗争地区。その奥にヤクザのたまり場がある。ちなみに今までは、ヤクザとヤンキーの間での仲たがいを起こさせるように差し向けていたため、僕らがどんなに暴れようとも、その責任はヤクザか、仲の悪いヤンキーどもになるというわけである。時速30㎞の速度で走り、廃工場の裏に回った。
「「Let’s enjoy」」
そう言って僕と優也は廃工場にあった鉄パイプを2本ずつ持って乗り込んで2時間後には怪我一つなく帰ってきた。いくつかの場所に時限爆弾を仕掛けておいたので、明日の朝3時くらいに爆発するだろう。
血で汚れた鉄パイプをポイッと川に投げ入れるとボチャンと音がして鉄パイプは沈んでいった。近くでタクシーを捕まえてアパートまで帰るとポストに『藤田 芹奈より』と書かれた手紙が入っていた。僕は手紙の中を開くこともせずビリビリに破いてチラシ専用のゴミ箱に捨てた。
家に帰り、ほとんどのものがない部屋で優也と向かい合って、カップ麺を食べた。
そういえば、1年ほど前から我が家のベランダで、堕落している鴉がいる。何度追い出しても戻ってくるため、もうすでにあきらめの境地に至っている。そもそも、もうすぐこの家を出ていく予定なので、何かする気もなくなった。
それから、1冊の新書を読みきってから時計を見るともう11時を過ぎていた。
自室には、ほとんど物がないため、電気つけたまま学校のバッグを枕にして、床の上に大の字になって寝た。
次の日の土曜日、僕はいつも通り、正確すぎる体内時計で、午前6時に起きた。
そして、後から起きてきた優也作の不格好なオムライスを食べ、その日の昼頃、僕と優也は私服で、大きなアタッシュケースを連れて駅へ向かった。切符を買い、大きなあくびをしている駅員さんに見せるとやる気のなさそうな声で「はーい」と言ってガッチャンと切符を切った。
2時間程電車に揺れ、電車を降りて10分ほど歩いたところにある少々洋風な雰囲気を持つ一軒家に入る。そして、空のクローゼットを開け、カーテンを閉め、会員カードを赤と青の本の隙間に入れてガッコンと音がしたのを確認して引き抜く。奥に道が出たクローゼットの中に飛び込み、中で電子機器にカードをかざすと、バタンバタンとクローゼットの内側の扉ともう一枚の板が閉じる。カツカツカツカツと金属製の階段を降り重厚な金属でできた扉の前で真ん中にカードを挟むと機械的な声で『キョウノテンキハ』と問われ、「マルデトリノヨウ」というとガッチャンと音がして横に扉が開きカタリとカードが落ちた。床に落ちたカードを拾いポケットの中にしまった。
中に入ると、まだ4人しかおらず、持ってきた菓子類やジュースなどを開けているところであった。だが、準備している最中であるのにもかかわらず唯一無二の大人である藤田 芹奈という偽名を持つ萩野さんは茶色い髪をひとつ結びにして、スナック菓子を食べながら、背もたれに体を預けスマホをいじっている。『これが僕たちのリーダーである』という事実から目をそむけたくなる。
その日の夕方ごろにガチャリ音がしてドアが開くと、そこには久しぶりに見た雫がいた。その場にいた萩野さんと雫と優也を除く全員はつい反射的に引き出しに入っている改造ボーガンを雫の頭を向け、優也は戦う構えをとった。
「ねぇ、挨拶もせずにボーガンを向けるのをやめてくれない?」
「なんでお前がいるんだ?3年前に辞めただろ?」
僕の代わりに優也が聞いてくれる。
「アッハハハハハ、クックク、アッハハハハハ」
萩野さんが笑い出した瞬間に、僕らのボーガンの先は一瞬にして萩野さんの頭に向かった。
「ごめん、ごめん、言うの忘れてた。〈鴉〉、戻ってきたから」
雫と僕を含む16人にじとっとした目で見られながら萩野さんが言う。
「ちなみにいつ帰ってきたんだ?昨年の集会ではいなかったけど」
「半年くらい前かなー」
間延びした声で萩野さんが答える。
「よろしくね。〈百舌鳥〉〈梟〉」
雫が笑顔で手を差し出してくる。
「「はぁ?」」
僕らは二人ともまぬけな声を出してしまった。すると、雫はまたじとっとした目で萩野さんを見た。
「あぁ、ごめんまた言うの忘れてた、君たちに受けてもらった受験に〈鴉〉も参加させてたから、3人での共同任務だよ。」
じとっとした目で見ている僕らから目をそらしてフシューフシューと、まったくできてない口笛を吹いた。
「で、大体予想できますけれども3年前の事を引き続きやる形ですよね」
「うん、そうだね。3年前と同じように君たち3人任せたい。」
「「了解」」
「ふざけんなよって思っているけど‥‥了解」
優也がボソリと毒を吐く。
そのほかの人たちに任務を伝え終わった瞬間、会議からパーティーの雰囲気にガラリと変わった。
「いるか?」
優也が椅子の背もたれにもたれかかり、スナック菓子の袋を僕に向けて差し出してきた。そこから4枚ほどスッと抜き取って口に運んだ。
それから、机に置いておいたスマホを取り、スマホのメールの欄を見ると、優也と雫と僕のグループメールができていた。
ぐるりと周りを見渡すと、この組織の日本支部に2名いる魔術師の〈白梟〉と〈鳩〉がいた。これらはこの組織内ではめずらしく戦闘要員ではなく『転移魔術』のためだけにいるため、ずぼらなのである。だが、移動魔術は出発地点には魔法陣は必要ないが、着地点に魔法陣が書いていないところには、行くことができない、そして魔法陣は、魔力を込めて作るので作った本人以外の魔術師が使おうとしても使えない、魔術なのである。そのため我々は日々魔法陣の書かれた紙を所持して行動し、G7の国々のあらゆる場所に魔法陣が書かれた部屋などが準備されている。
もちろんであるが、彼らが許可をして、僕らが彼らに触れている場合、同時に転移できる仕組みである。
それから僕らは夜通し遊び、次の日の朝に持ってきたアタッシュケースとともに京都の新しい任務の場所に向かった。
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