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キム・ミンジュは、この学園の生徒会長。誰からも認められる完璧な存在だった。容姿はもちろん、品格、知性、行動力、すべてが整っている。彼女は誰に対しても公平で優しく、学園中の人気者だ。生徒会の仕事も完璧にこなし、信頼は絶大だった。
BTSの7人もこの生徒会に所属しているが、彼らは特にミンジュに対して感情を持っていない。彼らにとって生徒会は単なる役割であり、目の前の仕事を効率的にこなす場所でしかなかった。
ミンジュもまた、BTSに特別な関心は持っていない。ただ、彼らが生徒会のメンバーとして責任を果たすことを期待しているだけだ。
生徒会の会議室で、ミンジュは冷静に議事を進め、メンバーに指示を出す。BTSのメンバーは淡々と作業をこなし、感情は見えない。
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第1章 完璧な生徒会長と無関心なメンバーたち
夏休み明けの初登校日、校舎のあちこちから学生たちの話し声が響いていた。新学期の始まりに胸を弾ませる者もいれば、まだ休み気分が抜けずにいる者もいる。
生徒会室のドアが静かに開き、中からキム・ミンジュが姿を現した。彼女の歩く廊下にはいつもと変わらぬ清廉な空気が漂い、その一歩一歩が周囲の目を奪う。
「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
生徒会室に集まったメンバーに向けて、彼女は柔らかくもきちんとした声で挨拶した。そこにいる7人のBTSメンバーも、それぞれ静かに頷き、返事をする。
だが、その目に特別な感情はなかった。彼らにとって生徒会の活動は、単なる義務。与えられた仕事を効率的に、ミスなくこなすためだけの時間だ。
ミンジュもまた、彼らを特別に見ることはなかった。ただ、全員がきちんと役割を果たすことだけを望んでいた。
会議が始まり、議題が淡々と進んでいく。誰も熱くなることなく、感情は交わらない。ただ純粋に、業務としての連携がそこにあるだけだった。
ミンジュの声は明瞭で、簡潔。生徒会をまとめるリーダーとしての風格があり、誰もが自然と彼女のペースに従った。
「次の文化祭の準備については、各自が責任を持って進めてください。質問があれば、後で個別に受けます」
そう告げて、彼女は会議を終えた。誰もが静かにそれぞれの仕事に向かい、再び無関心な日常が戻っていく。
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第2章 優しさは誰にでも平等に
昼休み、生徒会室には書類を持った生徒たちが次々と訪れていた。
「ミンジュ先輩、演劇部の公演申請書、提出に来ました!」
そう言って駆け込んできたのは、1年の女子生徒。手には緊張した様子で何枚かの紙を握っていた。
「ありがとう。確認するから、少し待っててね」
ミンジュは微笑みを浮かべて書類を受け取り、すぐにその場で確認を始めた。視線は真剣で、ページをめくる指先にも迷いがない。
「うん、内容に問題はないみたい。あとは使用教室の許可を取り次第、正式に受理できるわ。頑張ってね」
「……! ありがとうございます!」
満面の笑みでお礼を言う後輩を見送ったあと、ミンジュはすぐに次の処理へと手を伸ばす。生徒がいれば、どれだけ忙しくても手を止めて丁寧に対応する。彼女のその姿勢は、多くの生徒から信頼を集めていた。
そんな中──
「……生徒会長、今の申請書、教室番号が間違ってました。305は文化部共用室で、使用許可が出ないはずです」
声をかけたのは、書記担当のナムジュンだった。冷静で淡々とした口調。その眼差しは事実だけを見つめている。
ミンジュは一瞬手を止め、すぐに頷いた。
「そうね。確認不足だったわ。ありがとう、ナムジュンくん。申請者には私から連絡を入れておく」
「了解です」
それだけ言って、ナムジュンはまた静かに書類整理へと戻っていった。
ミンジュもその背中を一瞥しただけで、何も言わずに対応へと移る。
──こういった無機質なやりとりが、生徒会では日常だった。
BTSのメンバーはそれぞれ役割を持っていて、有能であることに変わりはない。だが、彼らに感情の起伏はほとんど見えない。笑い合うことも、くだらない冗談もない。ただ、的確に、黙々と。
けれどそれでも、生徒会としての仕事は完璧だった。
放課後、ミンジュは職員室へ向かう途中、バレー部の部長に呼び止められた。
「会長、時間ある? 今週末の体育館、バスケ部とバッティングしててさ……もし間に入ってもらえたら……」
ミンジュは立ち止まり、軽く頷く。
「わかったわ。双方の予定をもう一度確認して、調整する。できれば今日中に結論出すようにするから、少し待ってて」
「ほんと助かる! やっぱ会長、頼りになるわ〜」
「当然のことをしてるだけよ」
静かに答えながら、ミンジュは職員室へと歩き出した。
完璧な美しさだけじゃない。
対応の速さ、冷静な判断力、そして決して態度を崩さない誠実さ。
誰にでも平等に、感情を持ち込まない姿勢は、時に冷たく見えるかもしれないが──
それでも彼女の周りには、自然と人が集まっていた。
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第3章 静かに交差する視線
放課後。生徒会室にはまだ灯りがともっていた。
外では部活動の掛け声が響いているが、ここにはそれらの熱気が届かない。書類の山と時計の針の音だけが、静かに時間を刻んでいた。
「……会長、これ、確認終わりました」
そう言ってファイルを差し出してきたのは、庶務担当のジョングクだった。無表情で、いつも通りの手際の良さ。必要な分だけ話し、余計な言葉は交わさない。
「ありがとう。助かったわ」
ミンジュも同じように、冷静に応じる。
この短いやりとりは毎日のように繰り返されていた。お互いに感情を挟まない、ただ正確に業務を遂行するだけの関係。
ふと、ジョングクが机に置かれたままの文化祭用ポスターのデザイン案に目をとめた。
「……これ、図面バランス、若干右に偏ってます」
「……そうね。気づかなかった。指摘してくれてありがとう」
ミンジュはすぐに修正メモを書き始めた。ジョングクはそれ以上何も言わず、静かに席に戻った。
ミンジュはその横顔を一瞥するだけで、再び手元の作業に集中した。
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その夜、職員室から戻ったミンジュは、昇降口近くのベンチで座り込む1年生の女子を見つける。
「……どうしたの?」
優しい声で問いかけると、少女ははっと顔を上げた。
「あっ、ミンジュ先輩……すみません、体育館の鍵が見つからなくて……怒られるの、怖くて……」
涙をこらえている様子の後輩に、ミンジュはしゃがんで目線を合わせる。
「大丈夫。鍵は職員室で預かってたって、さっき聞いたわ。あなたのせいじゃない。届けてくるから、もう心配しないで」
「……っ、ありがとうございます……!」
泣きそうな笑顔を浮かべる後輩に、ミンジュは少しだけ柔らかい笑みを返し、再び静かに立ち上がった。
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その様子を、少し離れた場所でグクは見ていた。
だが、そこに特別な感情はない。
“彼女はそういう人間だ”――それだけだった。
ジョングクは何も言わず、生徒会室へと戻っていった。
感情は、まだどこにもない。
ただ、完璧な人間同士が、それぞれの役割を果たす日々が続いていくだけだった
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第4章 文化祭準備、動き始める歯車
9月の終わり。文化祭を控え、学園全体がそわそわとした空気に包まれ始めていた。
いつも静かな生徒会室にも、生徒たちの出入りが増え、申請書、許可証、スケジュール管理と処理すべき仕事が山のように積まれていた。
それでも、ミンジュの手は一度も止まらない。
「演劇部、装飾班、広報委員……あと三件。今日中に確認を終わらせて、明日には掲示手配に入る必要があるわね」
「時間が足りないですね」
静かに応じたのはテヒョン(V)。文化祭関連の調整を任されていた彼は、今も無駄のない動きでスケジュール表を更新している。
ミンジュは彼の方を一瞥し、小さく頷いた。
「優先順位を見直す必要があるわ。明日の会議までに、下書きしておいてくれる?」
「はい。可能です」
二人の会話はそれで終わった。
ただ必要な情報を交換し、次の作業へと移る。そこに雑談はなく、相手の気分を伺うような視線もない。あまりに自然で、あまりに無感情。それでも、仕事としては完璧に成立していた。
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「会長、放送部から文化祭当日のタイムテーブル案が来てます! あとで確認お願いします!」
昼休み、生徒が駆け込んできて書類を差し出す。ミンジュは食事の手を止め、すぐにそれを受け取る。
「ありがとう。少しだけ時間をもらえる? 午後の会議前には目を通すから」
「はいっ!」
緊張しながらも嬉しそうに頷いたその後輩は、何度も礼を言いながら走って戻っていった。
ミンジュの“完璧な対応”は、こうした生徒たちとの信頼関係を自然に築いていた。けれど――
テヒョンをはじめとする生徒会の7人は、そのやりとりを見ても何も思わない。彼らにとっては、会長が誰であろうと、誰とどう接していようと、業務に支障がなければ関係ない。
誰かの笑顔も、誰かの感謝も、仕事の進行に影響しない。
ただ、その合理性にだけ基づいて、この“生徒会”は静かに機能していた。
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同日・放課後
「テヒョンくん、この配置図なんだけど、机の並びが保健室と重なってるわ。ここ、通路になるよう調整してくれる?」
「了解です。三列目を西側に1メートルずらせば、問題ないと思います」
「判断が早くて助かるわ」
それだけを交わし、ふたりは再び作業に戻る。
その間、言葉はなくても、手は止まらない。数値の確認、時間の調整、関係部署との連絡。次から次へと処理されていく仕事を前に、誰も立ち止まろうとはしなかった。
ミンジュも、テヒョンも。
そして他の6人のBTSメンバーたちも。
誰も、ここでの関係に意味を求めていない。
それでも、確かにこの生徒会は「機能している」。
完璧に。
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第5章 誰も知らない生徒会長の本音
文化祭まで、あと一週間。
毎日が戦場のようだった。
全校のクラス展示・部活動のステージ調整・広報・施設管理・緊急対応・人員不足――そしてそのすべてが、生徒会に押し寄せてきた。
本来なら教員が間に入るべきところも、担任たちは「生徒会がやってくれるから」と目を逸らしていた。
「本当に……もう、限界よね」
生徒会室にひとり。
時計の針はすでに19時を回っていた。窓の外はすっかり暗く、校舎内もほとんど人気がなかった。
ミンジュは制服の上着を椅子に掛け、シャープペンを片手に提出資料を整理していた。目元には疲労が色濃くにじんでいるが、手は止まらない。
そのとき、スマホが震えた。
画面には懐かしい名前――中学時代の親友、「スヨン」。
ほんの少し、肩の力が抜けたミンジュは、スマホを机に置いてスピーカーに切り替えた。
「……もしもし」
『ちょ、アンタ!?ほんまにミンジュ!?まーたおしとやかに“もしもし”とか言っちゃって!きっっしょ!』
「うっさいわ……誰がきっしょいやねん」
ミンジュの声色が変わった。完璧な生徒会長の仮面が、スイッチを切ったように剥がれ落ちる。
『うわ〜〜〜出た、本性。なに?声死んでるけど大丈夫?』
「大丈夫ちゃうわ、死ぬほど忙しいっちゅーねん。文化祭の資料、全部ウチらが仕切ってんのに、クソ教員共が何もせんねんで?“それ生徒会で”って魔法の呪文かよって。まじで一回ぶっ飛ばしたいわ、あの教務主任」
『ああ、いたなクソみたいなハゲ』
「そのハゲがさ、昨日ウチの肩に手置いて“最近頑張ってるねぇ”とか言うてきて、ゾッとしたし。しかも耳元で“文化祭の日、個人的に写真撮らせてね”やで?あいつ頭おかしいんちゃうかマジで」
『うわ、それ完全にアウトやん。訴えろ訴えろ』
「訴えたいわ、時間があれば。けどこっちはこっちで、生徒の対応も部活もポスターも校内放送の進行表も、ぜーんぶウチが仕切ってんの。もうほんま……寝る時間3時間よ?人間の生活ちゃうて」
ミンジュは額を押さえながら大きくため息をついた。声はだんだん荒れていた。
『あんた相変わらず責任感だけは異常やな。でも、手伝ってくれる奴おらんの?』
「……おるにはおるんやけどな。あのBTSの7人。あいつら無駄口一つ叩かんと淡々と仕事こなしてくれるから、正直あいつらおらんかったら今ごろ焼け野原やで。報連相は的確やし、判断も早いし、誰より仕事できる。……まじで機械かって思うくらいには感情ゼロ。でも、力にはなってくれてる。だから文句はない」
『お〜めっちゃ褒めてるやん!どした、風邪?』
「いや、ほんまに。唯一信用できるわ。感情ないから逆に信用できるって感じ」
そしてそのとき。
ガチャ。
生徒会室のドアが開いた。
ミンジュは、はっと顔を上げた。
そこには──
ジョングク、ナムジュン、テヒョン、ジン、ホソク、ユンギ、ジミン。BTSの7人が、手に各自の資料を持ったまま、無言で立っていた。
完全に、聞かれていた。
スピーカー越しの、普段の“キム・ミンジュ”とは全く異なるその毒舌を。
数秒の沈黙。
何も言わない7人。
何も言えないミンジュ。
『……え、何?今誰か入ってきた?』
ミンジュはスマホを無言で切り、眉一つ動かさず、スッと立ち上がる。
「……今のは、聞かなかったことにしてください。報告事項、こちらで処理済みです。問題ありません」
それだけ告げて、再び席についた。
7人もまた、無言のままそれぞれの席へと戻る。
ミンジュの口は、再び閉じられた。
完璧な仮面は、わずか数秒のうちにまた元通りに戻っていた。
しかし──
BTSの7人だけが、初めて知ったのだった。
キム・ミンジュという“完璧な生徒会長”の、
誰も知らなかった“本音”と“人間らしさ”を。