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「_______なと、」
「__奏斗」
「奏斗ッ!!!」
うるさいなあ。…誰の声だ
ガンガン頭が痛む
うっすらと目を開けると、見たことない天井が視界に広がった
『……ぁ、れ』
そう声を溢す。
「!奏斗!起きたんですね!」
その瞬間、アキラが僕の顔を覗き込んだ。
安心したようにため息をつき、神妙な面持ちになった。
なんでアキラがここに?というかここは何処だ?
…あーダメだ。頭が混乱しすぎて何も理解できない。
『…ぇーっと、……ここってどこ?』
一番最初に気になったことをアキラに聞くと、「はぁ…」と言葉を溢した
まるで、覚えてないのか。とでも言いたげな表情をしている
「…ここは病院です。奏斗が『助けて』と電話してきたんでしょう?」
まあ、覚えてなさそうですけどね。とアキラはため息混じりに言った
その額はうっすら汗を掻いており、よほど心配 していたのだろう
申し訳なさを覚え、謝るとアキラはゆっくりと微笑み、次の瞬間真剣な表情になった
「…奏斗。…医者に話を聞いたんですが、貴方……」
「…αになりかけてますよ。」
『、え』
アキラの言葉に、心臓が止まりそうなほどの衝撃を受けた。”αになりかけている”
たった9文字の言葉が上手く飲み込めない
『突然変異』僕はそういう状況らしい
ごく稀に、突然第二性が変わるという症状だ。
聞いたことはあった。けど信じてはいなかった、…本当に、実現するなんて。
しかも、自分自身がなるなんて天地がひっくり返っても有り得ないと、そう思っていた
『…まじ、か…』
「それと、あと一つ。…」
「奏斗の中で、βの細胞がαの細胞を追い出そうとしていて、 血管などを傷つけています。
…そのせいで身体の負担が凄く、危険な状況です」
「…このままαの細胞とβの細胞が反乱を起こし続けたら、…強制的にαの細胞が取り除かれます」
『……そ、か…』
アキラはそう俺に告げた。
最悪の場合、βに変わる
そう俺に言ったのだ
飲み込めない頭の中でアキラの言葉を何回も何回もリプレイする
「今日は、ゆっくりしていてください。私はたらいとセラ夫に伝えてきます」
『待って!!!』
立ち上がろうとしたアキラの腕を掴む
びくりと肩を震わせ、目をまんまるにしながら僕を見た
『…雲雀には、言わないで。お願い』
「…………………分かりましたよ。」
何か言いたげな顔をしたあと、神妙な面持ちでそう言った
病室を去っていくアキラの後ろ姿を見つめる
『、ごめんねアキラ』
雲雀に言わない理由。
そんなの単純でくだらないことだ
こんな情けない姿を見せたくないだけ。
“α”になるということは雲雀と番になる事ができるけど、雲雀は他に好きなαがいるわけだし、変に気を遣わせたくない
ただそれだけ
1日経ったら体もいつも通りになり、学校に行けることになった。
病院には1週間ごとに行かないといけないらしい。『突然変異』は希少な症状でもあり危険らしく、医者も”絶対に来てください。”と後押ししてきた
『……めんどいな…』
そんなことを呟きながら、家を出る準備をする
…確か、雲雀は今日も先輩と行くって言ってたなぁ
_______早川先輩
多分、雲雀の好きな人
今頃仲良く通学路を歩いているのだろう
僕にも見せない笑顔でキラキラと笑いながら幸せそうに話しているのだろう
『あ”ーーーー!!早く行こ!』
むしゃくしゃする頭を無理やり通常に戻し、玄関の扉を開けた
「…あ、奏斗!」
「あれ、奏斗くんじゃん。おはよう」
『雲雀、と…早川先輩……』
ドアを開けた先には、仲良さそうに登校していた二人がいた。
前言撤回。今すぐ家に戻りたい
『あーーーっと、ご、ごゆっくり〜』
「まあまあ!奏斗も一緒にいこーぜ!」
先に行こうとした僕を、雲雀は半ば無理矢理早川先輩の隣に連れて行った。
馬鹿なのか雲雀は?
……そういえば馬鹿だった、
「雲雀と奏斗くんは本当に仲良いね。いつも一緒に登校してるの?」
早川先輩が僕と雲雀にそう言う
その声色は心なしかいつもより低い。
謎の圧に堪えながら、笑みを作る
『前まではよく一緒に行ってましたよ』
「へぇーそうなんだね!…雲雀くんは奏斗くんの相棒なんだっけ?」
早川先輩はいつもの笑顔でそう言った。
さっきの違和感は気のせいだったのだろうか
「はい!そうっすね!…んへ、なんか早川先輩と奏斗が一緒に話してるの珍しい。めっちゃ新鮮!」
「そうかな?雲雀は面白いこと言うね、ほんと可愛い。」
「…っへ、!?ちょ、早川先輩!?」
『は、』
そう言って優しく雲雀の頭を撫で、肩を抱き寄せる
雲雀は分かりやすく頬を赤らめていた。
番がいるαがΩにこんなことをして良いのか?
無意識に手に力が入るのを感じる
早川先輩は俺を見て、薄く口を開いた
「お・れ・の・だ・か・ら」
そう口を動かし、ニヤリと笑った
『……ごめん、僕ちょっと』
「え?奏斗?」
雲雀の声を無視して、通学路を走る
二人の姿が見えなくなる場所まで走り
息を整える
『……っ、くそッ!!』
居ても立っても居られなくて壁を殴る
_______ゴンッと、鈍い音が鳴り
自分の手に血が滲んだ
俺は完全にαになってる訳ではないし、今からβに戻るかもしれない。
雲雀の番には確実になれないし
早川先輩のスペックに僕は追いつけない
_______でも、でもさ
『……イラつく、ッ』
あれは、僕が雲雀に好意を持っていることを知った上での行動だろう
_______…あんな人と雲雀か番になるなんて、俺は納得できない。
でも僕には止める権利もないし
『…っくそ、ぉ…』
自分の惨めさに、少しだけ涙が滲んだ
教室に入り、席に着く
少し早かったのだろう、教室には数人しか人がいなく静かな雰囲気が漂っている
が、クラスメイトが自分をチラチラ見ていることに気づいた。一人はビックリしたような顔をし、もう一人は心配そうな顔をしている
『(え、なに?)』
クラスメイトの視線を辿り、自分の手元に視線を移す。…そうだ、手、怪我してるんだった。
壁を殴った後、半分記憶がない状態で学校に来ていたから気づかなかった。
_保健室、行かないと
生徒玄関のすぐ隣にある保健室
静かに扉をあけ、『…失礼しまーす』と声をかける
電気はついているが、先生の影がない。
朝の点検だろう、待ってたら来るかな
椅子に座り、保健室を見渡す
_マリさんを連れてきた時以来か、
そんな事を考えていたら、保健室の扉が開いた
「…失礼しまーす、……あれっ、奏斗くん!?」
『え、マリさん!?』
急な出会いに思わず声を荒げてしまった。
マリさんも同じらしく、僕を見て目をまん丸にしていた
そのまんまるな瞳が僕の手をとらえた瞬間、もっと瞳を見開いた
「手っ…大丈夫、!?消毒しなきゃ!」
『え、大丈夫だよ、こんくらい_______』
「ダメだよ!…はい、手貸して?消毒します!」
目の前の彼女は見たこともない焦り具合で、僕の手を優しく掴み消毒液を持ってきた。
真剣な顔ぶりを見ていると、断れる雰囲気でもなく されるがままに手を差し出す
「消毒するね、」
『……ッ、』
_ビリッ、と傷口に消毒液が染みる
それをポンポンと優しく拭き取り、上から湿布を貼られる
手際の良さに感心していると、すぐに怪我の処置が終わった
『ありがとうマリさん。助かったぁ…!』
そう感謝を伝えると、マリさんは優しく微笑んで僕を見た
「ううん!全然いいよ!…奏斗くんの傷が治って良かった!」
『…本当にありがと_______』
「すみません!奏斗いますか_」
マリさんに感謝を伝えようとした瞬間
保健室の扉がガラガラと開いた
二人同時に視線を向ける
『え、ひば…?』
「渡会…さん?」
そう、…そこには雲雀がいたのだ。
マリさんも呆気に取られたような顔をして雲雀を見つめていた。
「あ、えっと、こんにちは!…奏斗の怪我を見に来たんすけど、…大丈夫そう?」
雲雀はマリさんに挨拶をすると、僕に視線を戻した。心配そうな顔をしている彼も可愛い
『うん、大丈夫。マリさんが手当してくれたから』
「…ふふ、こちらこそありがとう。奏斗くん」
マキさんはそう言って、また愛らしい笑顔で笑った。”こちらこそありがとう”…どういう意味だ?僕は、何もしていないのに
僕がそんなに分かりやすい表情をしていたのだろうか、マリさんは立ち上がり、僕を見た
「奏斗くん。…私は諦めないよ。」
『え……、?』
マリさんはそう言い、雲雀に近づいた。
耳元で何かを囁いているように見えた。が、すぐ離れてしまった
雲雀の顔も前髪で隠れてよく見えない
「じゃあまたね!奏斗くん!」
そう言ってマリさんは保健室から出て行った
_______
『ひば?大丈夫?』
マリさんから何かを言われていたのは確認したが、内容は聞こえなかった。
雲雀に声をかけるも無反応
どこか一点を見つめ、何か考え事をしている
『雲雀ー?ほんとに大丈夫?』
肩を軽く叩くと、雲雀の瞳に生気が宿った。
瞬間、ビックリしたように声を上げた
「えっ!?…あ、おう!…ちょっと考え事してた!」
そう言ってニパリと笑う
その笑顔は、どこか嘘くさかった
『考え事ってなに?好きな人の話?』
「え、…や、それは…」
分かりやすく動揺している雲雀を見つめる
『…もしかして、早川先輩の話?』
_______hbr side
「…邪魔しないで。奏斗君のこと好きでもないくせに」
そう、言われた。
その言葉に嫌なほど胸がドクンと鳴る
手に汗が滲み、喉が異様な程にカラカラになっていく
焦燥感、悪寒、図星
どの感情も今の感情に当てはまってるように見え、何も当てはまってない
自分の感情すら分からなくなってしまったのだろうか
「_______雲雀ー?ほんとに大丈夫?」
ポンと、肩を叩かれる
奏斗の顔が目の前にあって、なぜか後ろめたい気持ちになった。
『えっ!?…あ、おう!…ちょっと考え事してた!』
いつものように笑う。が、奏斗には通用しなかったのだろうか
真顔になり俺の顔を見つめた
「考え事ってなに?好きな人の話?」
_______好きな人。
『え、…や、それは…』
…奏斗の話だ。なんて何故か言える気にもならなかった
「…もしかして、早川先輩の話?」
『は、』
奏斗の言葉に冷や汗がぶわりと吹き出した。
_______なんで今、早川先輩が?
「雲雀の好きな人、早川先輩だよね?」
核心を突くような言葉
奏斗の突き刺すような視線に無性に泣きたくなった。
よりによって、番がいるαが好きだとバレてしまったのだ
『な、んで、…俺、お前に言ってない、よな?』
「言わなくてもわかるよ。雲雀。分かりやすいから」
_______いつから、?なんで?
頭の中がごちゃごちゃで、真っ白で
何を言えばいいか分からない。
いや、でも奏斗なら、
…奏斗なら分かってくれる。
優しいからきっと肯定してくれる
『か、奏斗は_______』
「…ひば、早川先輩はダメ。やめた方がいい」
『………。は?』
奏斗は、俺に向かってまっすぐそう言った
_______ジクジクと、怒りに似た感情が俺の体を蝕んでいく
なんで、お前にそんな事言われなきゃいけないんだ
「あの先輩は、番がいる!、絶対やめた方がい…ッ、!?」
『なんでッ、!なんで奏斗に、俺の気持ちを否定されなきゃいけないんッ!?』
衝動に駆られ、奏斗の胸ぐらを掴んだ
奏斗は俺の顔を見て、目を見開いた
きっと俺が泣いているのに気づいたのだろう
でも、今はそんなことどうでもいい
今の自分は、好きな人を侮辱された悔しさでいっぱいだった
『お前に、俺の気持ちを否定される筋合いはない!!ッ…勝手に決めつけんなッ!!!!』
「ごめ…っひば」
『もういい。…もう、早川先輩に近づくな。』
奏斗の胸ぐらから手を離す
奏斗の謝罪も聞かず、保健室から逃げるように出た
『……っ、』
ポロポロと、自分の目から涙が落ちていく
_______やめた方がいいって、なんだよそれ
『…俺のこと、好きでもねえくせに…っ、』
なんて、何も関係ない言葉が自分の口から飛び出た
___いや、奏斗は俺のこと、好きじゃないし俺も奏斗のこと好きじゃない。
俺は早川先輩の事が好きだし
奏斗は、マリさんのことが_______
_ツキリ
『…っ、あぁ、…もうっ…、!!』
『なんでこんな、…痛いんだよっ…』
_______ドクン
『…っへ、ぁ…?』
_ドクン、ドクン
『っぅ”…ふ、…?…ぇ、ま、…ッ!』
これ、…っ、もしかして、
_______ヒート、ッ
コメント
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登場人物がこういう関係になる作品大好きです💞! 続き楽しみにしてます!
セリフより心情が多い書き方なの他の人になくて大好きです!2人の感情が切なすぎてめっちゃ泣いちゃいました...これからも頑張ってください!
好きすぎます!!こんなの無料で読んでいいんでしょうか!?続き待ってます!