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自分らしく生きてる彼らが羨ましいぐらいだ。
彼らは自分にないものをたくさん持ってる。
「大丈夫だと思いますよ。霧山は女性だから遠慮してる可能性もあるけど、創はなにかあれば必ず話してくれるし」
「……そうだね。あくまで噂だし……鵜呑みにしちゃって悪かったね。創君は君の従兄弟なのに」
加東はふう、と息をついて瞼を伏せる。まるでずっと昔のことを思い出すように。
「創君も君と同じで、入社した時から見てたから心配になっちゃって……でも訊いて良かったよ。とりあえず見守ってあげないとね」
「えぇ。何だかんだ上手くやってけると思いますよ、あいつらなら」
准の言葉に加東は適当だなーと笑う。それから徐ろに席を立った。
「話、聴いてくれてありがとう。そろそろおいとまするよ」
「もういいんですか」
「うん、今日は無理言ってごめんね。明日も仕事なんだし、ゆっくり休みな?」
玄関の手前で、静かな会話が交わされる。
「加東さん、あの……」
「うん?」
「創達のこと、気にかけてくれてありがとうございます」
素直に感謝を込めて伝えると、加東は照れくさそうに笑った。二人はもはや身内同然で、知らないふりなどできない関係だから。
「心配することしかできないんだよ。それじゃあ、おやすみ」
廊下まで出て、呆然と彼の後ろ姿を見つめる。そこまでは本当にあっという間だった。
……涼のやつ、まだ帰って来ない。
思わずため息をついた。
加東さんはいつもヘラヘラしてるせいで油断しがちだけど、実際は細かいところまで気を回している。だからこそあの歳で能力を認められ、役職にもついてる。
創と玲那のこと……信じてるけど、一応ふたりに確認してみるか。
加東さんにはああ言ったけど、彼らが何を抱えるのか俺にも分からない。現状、知らないことがあり過ぎる。気にはなるが、ひとり悶々と考えていても仕方ない。
みんな変わっていくのは当たり前だ。
子どもの頃とは違う。良くも悪くも変わるはず。
でも俺はどうだろう。他人から見てなにか変わっただろうか。そういうところがあやふやで、自信が無い。
直後、近付く足音。
「准さん、スキあり!」
「うわあぁぁ冷たあぁぁっ!」
突如首筋に氷のような冷たさを感じ、その場で絶叫してしまった。
振り返ると、非常に驚いた顔の涼が立っていた。いや、そのリアクションは逆だと思う。
彼は缶ビールを手に持ってるから、こいつを首に当てられたのだとすぐに分かった。