放送から数週間が経った。
街は、前とは少し違っていた。
魔導士を蔑むような空気は、いつの間にか消え始め、
結晶の光は穏やかで、柔らかい。
僕の中の魔力も安定して、やっと人並みに眠れるようになった。
けれど――まだ、心に引っかかっていることがあった。
兄、アオニスのことだ。
あの放送の日、僕たちはほとんど話していなかった。
兄は国の決まりを誰よりも大切にしていて、
僕が魔導士だった頃、何度も「規律を乱すな」と言われた。
それは家族だからじゃなく、ただの“国民”としての忠告だった。
だけど、あの法律が改正された日、
兄は僕を見ようともしなかった。
……本当は、僕が一番それを気にしていた。
夕暮れ。
外に出ると、オレンジ色の光が街を包んでいた。
空気は冷たいけれど、痛くはない。
坂の上に、見慣れた背中が見えた。
「……兄さん。」
アオニスは、ゆっくりと振り返った。
冷たい表情のはずなのに、その瞳はどこか柔らかかった。
「聞いたぞ。最高魔法使いになったそうだな。」
「うん……偶然、みたいなものだよ。」
「偶然じゃない。」
短く、けれどはっきりとした声。
「昔から、誰かのために動く時のお前は、誰よりも強かった。 あの時、俺が間違っていた。」
そう言って、兄は一歩、近づいた。
風が静かに吹き、彼のマントが揺れる。
「俺は法律を信じすぎて、人を見なくなっていた。 お前を責めたのも、守るつもりだった。……でも、間違いだった。」
僕は、胸の奥が熱くなるのを感じた。
言葉にしようとすると、喉が震えた。
「兄さんが間違ってたなんて思ってない。
僕、兄さんが守りたかった“国”を、今度は僕が守るから。」
アオニスは静かに笑った。
あの厳しかった表情のまま、けれど確かに優しい笑みだった。
「なら――頼んだぞ、弟よ。」
その言葉を最後に、兄は背を向け、去っていった。
夕日が完全に沈む頃、空には星が一つだけ光っていた。
それを見上げながら、僕は思った。
この世界はまだ、不完全だ。
でも、光を継ぐ人がいる限り、
きっと、何度でもやり直せる。
だから、今度こそ胸を張って言おう。
――僕は、“魔導士”として生まれ、“最高魔法使い”として生きる。
そして、“弟”として、兄に誇れる自分でありたい。







