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――これは副社長として、立場を示さなければならない。
俺が出張ったらエミリへの攻撃が余計に悪くなるとかではなく、会社の役員として、学生気分の抜けていない社員に現実を教えるべきだ。
諸岡さんから事情を聞いた翌日、俺は秘書課へ赴いた。
誰が主犯でやっているかというより、課長もいるのに部下のやっている事を制御できず、他の者も人事などに相談せず放置している。
くだらない私怨で副社長のスケジュールを狂わせ、損失をもたらした事は大きな問題だ。
朝一番に秘書課を訪れた俺は、後ろに諸岡さんとエミリを従え、全員を睥睨する。
『この中に、意図的に丸木さんを陥れ、私の業務を滞らせた者がいる』
そう言った瞬間、何名かの女性が表情を強張らせた。
加わっていないだろう者も、チラッと視線を走らせたので、大体誰が主犯かは分かった。
『気に食わない相手にミスをさせる? それが会社全体の損失に繋がると考えないのか。二度は言わない。次に同様の事が起こったら、誰がやったかを調査して処分する』
最後に全員を一人ずつ見つめ、課長に『部下の教育はしっかりする事』と注意した。
それ以降エミリの〝ミス〟はなくなったが、秘書課の人々との関係は最悪らしい。
『仕事だし、仲良しごっこをしに会社に行っている訳じゃないから』と強がっているが、メンタルが削られているのは明らかだった。
その頃、尊には同僚の恋人ができたらしいが、ほどなくして相手が失踪し、酷く荒れていると聞いた。
家族で食事をした機会に、母が裏で手を回して尊と恋人を引き離したと知ったが、俺にはどうしてやる事もできなかった。
エミリが俺の家に遊びに来た事はあったが、原宿駅のすぐ近くにあるからか、『規格外。落ち着かない』と言っていた。
彼女の家は板橋区赤塚にある1DKで、防犯も考えて最上階の五階に住んでいる。
それでもエミリが一人暮らししていると思うと、不安でならない。
『空き部屋があるから、そこに住まない?』と誘ってみたが、『そういう問題じゃない』らしい。
エミリいわく、『働いて稼いで、家賃を払って自分の城を手に入れた』らしく、やはり愛着があるみたいだ。
だからおうちデートをする時はエミリの部屋に入り浸っていたが、――ある日事件が起こった。
それは、会社での仕事を終えて二人で食事をし、エミリの家まで行った日の事だ。
『なんで……』
エミリはマンションの前で立ち止まり、凍り付く。
エントランスの横には低い塀があり、そこに母親らしき女性が座っていた。
『エミリ! こんな時間までほっつき歩いていたの!?』
凄い剣幕で怒鳴った女性を見た瞬間、母を思いだした。
容姿も何もかも違うのに、本能的に『属性が同じだ』と感じたのだ。
俺はとっさにエミリの前に立ち、盾になる。
『なんなのあなたは! うちの娘に纏わり付かないで!』
臣桜
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#短編
五來 小真
29
チラッとエミリを振り返ると、彼女はいつもの様子が嘘のように、萎縮しきって背中を丸め、震えていた。
――守らないと。
俺も母の前では同じようになって、何も言えなくなる。
でもエミリの母親相手なら問題ない。
『初めまして。篠宮ホールディングスの副社長、篠宮風磨と申します。エミリさんは私の秘書で、清いお付き合いをさせていただいています』
穏やかな笑みを浮かべて挨拶すると、彼女の母は態度を豹変させる。
『まぁ……! 副社長さんなんですか? 娘がお世話になっています。この子、何をやらせても駄目なんですが、ご迷惑をお掛けしていませんか?』
『エミリさんはとても優秀な女性ですよ。むしろ私がお世話になっています』
だが、その言葉が駄目だったようだ。
彼女の母親は瞬時にしていやらしい笑みを浮かべ、納得したという表情で頷く。
『〝そういう意味〟だったんですね。やっぱりこの子は何もできないから、〝そういう事〟でしか価値を示せませんもんねぇ。秘書としては無能かもしれませんが、愛人でもいいので役立ててください』
――不愉快だ。
苛立った俺は、スッと真顔になって言う。
『今の言葉を訂正してください。私とエミリさんは性的な関係にはなっていません。娘をそんな目で見て恥ずかしくないんですか?』
すると母親はカァッと赤面し、ヒステリックに喚いた。
『私が間違えているとでも言うの!? その子は誰とでも付き合う尻軽だし、父親の事も誘惑したわ!』
『やめて!』
瞬間、それまで黙っていたエミリが悲鳴を上げた。
コメント
1件
うわ、この話、めちゃくちゃ重かった……。エミリの母親、完全に毒親だよね。あの「そういう意味」発言、胸糞悪かった。風磨がちゃんと盾になってくれてよかったけど、エミリのあの悲鳴が耳に残ってる。守りたいって思わせる強さと脆さ、両方あるのがエミリの魅力だし、風磨の誠実さが光る回だった。続き、気になる……😢