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私の仕事は、異空間で行われる。
次元と次元の狭間。パラレルワールドの道のりの途中にある。
でもその前に、地上でのお仕事もこなさなければならない。
「先生、この資料できたので確認してもらってもいいですか?」
私の地上でのお仕事は”ガクセイ”というものだ。
大人になるワンステップツーステップ前の段階の人間を成長させるお仕事。
私はここで肉体を保ちつつ、自分の正体がバレないようにする。
「了解。一旦預かっておくから、確認したら返すわね」
私が今話しているのは、”センセイ”という人。
ガクセイよりも立場が上にあり、ガクセイを思うがまま操ることができる、と聞いている。
実際のところは、操られている感覚はないのだが。
ガクセイは、センセイの指示に従い、学業や運動を行う。これがなかなかに面倒なのだ。
人間の肉体には限界がある。どれだけ学業に力を入れようと、どれだけ運動に力を入れようと、肉体が限界を訴えると何もできなくなる。
無理のない程度、が分からない私には、いつ限界が来るのか分からなくてヒヤヒヤする。
感覚としてはデスゲームに近いのだ。
その、いつどこで限界を知るのか分からない興奮が、また楽しいのだ。
人間世界は、カードゲームに近い。
重要な人材を場に出し、要らない人間は捨て駒になる。盤上に居る人間は、味方にも敵にもなり得る。私が、このゲームで一番重要なキーパーソンだとしたなら、きっと操っているのは傲慢な人間だ。重要な人間しか手札にないのだから。世の中には捨て駒も必要だ。捨て駒があるからゲームが成立するというのに。頭の悪い人間は、少なくないのだ。
私は、ガクセイという立場の中でも、生徒会という重要組織の一員らしい。
ガクセイ全体を動かすことのできる、学校の中で大切な役割を持つ組織。
人間の体で表すなら、心臓や脳といった部位だろう。
面倒くさいのだ。いちいち資料やらなにやらを片付けなくてはならない。それに加えて学業や運動など、人間はよくこんなに多彩に動くことができるのだと感心する。
面倒くさいか、効率が良いか。その二択で、社会など簡単に変わってしまう。だから、この生徒会という組織も効率よく回ってくれれば、学校を動かすのは容易いことである。
その簡単なこともできやしない。人間は知恵の回らない生き物だ。昔から、ずっとそうだった。
目の前のことにしか目がいかないのは、昔から誰も変わっていない。そのせいで、多くの人が犠牲になったときもあったな。
そんなことを思い出しつつも、私は帰り支度を始める。
家に帰って、本来の仕事をしなければならない。
3階にある教室に入ったその時、私の目に、信じがたい光景が映り込んだ。
ベランダから人が身を乗り出している。というか、意図的に落ちようとしている。
嗚呼、いわゆる自殺とやらだ。この日本国にはありふれた死因。
日本国では、自殺で命を落とす人が多いらしい。この地球という星の中でも、非常に自殺が多い国だそうだ。
勿論、私は助ける義理は無い。自殺というのは、止めるのが億劫なのだ。
人の死を止めるのは、その人をより苦しませる行為なのだ。楽になりたくて自殺を試みた人の首を更に締め上げる、卑劣な行為だ。
自殺は駄目。その考えが、もうこの日本国にとって哀れな思考なのだろう。
私は、ベランダから落ちようとする彼の背中を見ながら、指を鳴らした。
瞬間、私の目の前で落ちようとする人が消えた。
面倒くさい。この世は、全て。
また一人、増えてしまった。