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短い後日談①(社長)
問題は、収束した。
そう報告を受けたとき、正直ほっとした。
違法ではなかった。
それがすべてだった。
社内向けに出した文面は、短い。
「今後は対応をより丁寧に」
「トラブル回避を意識すること」
具体的な指示は、出さなかった。
現場に任せるほうが、効率がいい。
従業員の一人が、配置換えになった。
本人の希望、という形にした。
角が立たない。
SNSの火は、すぐに別の話題に移った。
店の売上も、思ったほど落ちなかった。
結局、何も間違っていなかったのだと思う。
経営としては。
ただ、ときどき考える。
あの日、店に立っていたのが自分だったら、
同じ対応ができただろうか、と。
考えても仕方がない。
自分は社長で、現場ではない。
次の採用面接では、
「反論しない人」を探すつもりだ。
それが、一番、店を守る。
―――
それから数ヶ月経った頃、
名だたる大株主たちから、大量の持ち株を“失望売り”された。
理由は、正式には公表されなかった。
ただ、あのとき警察へ通報したのが、
その親族の一人だったことを、あとで知った。
そして、
事業部上がりだった社長の俺が名指しされ、
即時解雇された。
説明は短かった。
違法ではないが、信頼は失った、と。
帰り際、
誰もいなくなった会議室で、
俺は一人、そう呟いた。
「今、一からリセットされちゃかなわんな……」
短い後日談②(従業員)
シフト表から、自分の名前が消えた。
正式には、配置換えだった。
特に説明はなかった。
理由も、聞かなかった。
怒ってはいない。
予想していた。
反論しないという選択は、
守ってくれるものでもあり、
切り離されやすいものでもある。
次の職場でも、
きっと同じ言葉を使うと思う。
「確認します」
それしか、知らない。
ただ、あの日から、
その言葉を口にする前に、
一瞬だけ、間ができるようになった。
何かを言いたいわけではない。
言える言葉も、まだ見つかっていない。
でも、
何も考えていないわけではない。