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1話 「のんびり生活、しかし……」
まぶしい光が収まった時、俺は草の香りに包まれていた。
風は涼しく、遠くから鳥のさえずりが聞こえる。見渡せば、土の道と木造の家、そして広大な畑。
「……おお、これが異世界か」
通りかかった老人が俺を見るなり、笑顔を向けてきた。
「おや、見ない顔だな。旅の人かい?」
「あー……まぁ、そんなとこです」
その日から、俺はこの辺境の農村で暮らすことになった。
野菜作りを手伝えば、寝床と飯を提供してくれる。戦闘能力MAXの俺にとって農作業なんて息をするようなものだ。
そして二ヶ月後。
俺は昼寝の真っ最中だった。畑脇の藁のベッドで大の字になり、空を眺める。
「……平和って、最高」
「ゆ、悠真さん! 大変です!」
少年の悲鳴に目を開ける。顔を真っ赤にして駆け寄ってきた。
「森から……魔物が、大群で!」
正直、面倒くさい。けど放っておけば村が終わる。
腰を上げて村の入り口に向かうと、そこには黒い毛並みの狼型魔物――数は百近い。村人たちは必死に槍や弓を構えている。
「よし、三秒で終わらせるから、パン焼いといて」
俺は片手を軽く振り下ろす。
瞬間、足元の大地から金色の光柱が立ち上がり、魔物たちは悲鳴もなく粒子になって消えた。
残ったのは焼け焦げた匂いと、呆然とする村人たちだけ。
「お、おお……」
「す、すごい……」
歓声が上がる中、俺はあくびをした。
「じゃ、昼寝の続きするわ」
背中に浴びる感謝の声も、どこか他人事のように聞こえる。
俺はただ、平穏を求めているだけだ。
――なのに、この一件をきっかけに、村の外から面倒事が押し寄せてくることになるとは、この時の俺はまだ知らない。