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「追わなくていいのかしら? 」
「…… 」
「そう、貴女《あなた》はノンケさんって所かしらね…… 」
Barの美しい年増の女性が語る。きっと此処のママさんなのだろう、落ち着いた雰囲気から物悲し気な哀愁が溢れだし、更にその美しさを妖艶なまでに包み込んでいる。そっと視線を交わすと、まるで心を見透かされたように思えた……
「叶わぬ恋に貴重な時間を捧げたのね彼女…… 」
「―――!! 」
「好き? 嫌い? 必要? 不必要? この先が怖い? じゃあ止める? 彼女を捨てる? 必死に支えて来た彼女を傷つけてまでも…… 今は答えが出ないかもしれない、でもその先に答えが有るかもしれないのよ? 」
俯いた瞳から自然と涙が溢れ、握った拳を濡らす―――
多分、分かっていた、この抑えきれない気持ちの意味を。でも怖かった、認めてしまう事で追い込まれてしまうのではないかと…… でも、その答えを出すのは今じゃない―――
―――溢れだす涙の意味が今分かった。
一万円をカウンターに叩きつけ店を飛び出す!!
「若いっていいわね~ 手を離したらダメよ」
急げ、きっと大丈夫、此処はゲイが多い二丁目。女の子に絡む危ない奴は少ないはずだから…… 女の子らしくない性格で良かった、スニーカーとデニムがその機動力を底上げしてくれる。走れ―――
―――お姉ちゃん⁉
入り組んだ路地の脇、ヒールが散乱している。楓のだ!! 若い男達に囲まれ、からまれてる。多分追い掛けられて転んでしまったのだろう、気の強い彼女が弱々しく涙に憂いでいる。
泣かせてる―――
―――私の大事な人を此奴らが……
鼓動が一気に跳ね上がると感情が畝《うね》りを上げた。
――ゆるさない ゆるさない ゆるさない――
不甲斐ない自らの愚かさと、情けなさが込み上げ、心で化学反応を起こし怒りが爆発する。
「彼女から手を放せ――― 」
「何だぁ? 随分と可愛らしいおチビちゃんが出て来たな? お嬢ちゃんも遊んでやるよ、こっちにこい」
「五月蠅い! 今すぐ彼女から手を放せ、じゃなきゃ只じゃおかないぞ!
私の彼女から手を放せ!! 」
楓は涕乍《なみだなが》らにびっくりした表情を見せる。
「は⁉ 聞いたかよお前ら、此奴らビアンカップルだってよ、笑うぜ。なら大事な彼女を守ってみろよホラどうした? かかってこいよ」
「わっ私の彼女に手を出すな!! 手を今直ぐ離せコノヤロー」
殴り掛かろうと覚悟を決め、飛び掛かった刹那、目の前の店のドアが開き、怒号が辺りに轟いた―――
「るっさいわね、人の店先で何よ? ヒーローごっこか何かかしら? いい加減にしないとぉ…… 殺すわよ? 」
中から口紅を塗った毛むくじゃらのメカゴジラが現れた。