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朝の空気が、昨日よりわずかに重い気がした
理由は分からない
湿度も気温も
記録上はほとんど変わっていないはずだ
そういう細かい差を気にする性格でもない
それでも、肺に入る空気がどこか引っかかる
装備を整える
銃、通信機、双眼鏡
双眼鏡のストラップが、右肩に掛かっていた
一瞬、手が止まる
昨日は左だった気がする
だが、そんなことはどうでもいい
無意識に掛け替えただけかもしれない
観測地点へ向かう途中、
地面に落ちている薬莢の数が
合わないことに気づいた
昨日の記憶より、一つ多い
誰かが昨日、ここで撃ったのだろう
そう考えれば説明はつく
それでも、視線がそこに縫い止められて
しばらく動かなかった
部下たちは、今日も定位置にいる
声を掛けると、即座に反応が返ってくる
問題はない
、、、はずだった
顔の隙間が、さらに広がっている
塗りつぶされていた部分が薄くなり、
輪郭が少しずつ形を持ちはじめている
目
鼻の影
口の線
息を止めた
見える
昨日より、確実に
胸の奥がざわつく
嫌な予感が、ゆっくりと形を持ちはじめていた
「副隊長?」
呼ばれて、はっとする
声は、いつも通りだ
「問題ない、続けて」
自分でも驚くほど、声は平坦だった
任務は進む
敵影は薄く、状況は膠着している
それなのに、細部ばかりが気になった
通信機の番号が
いつもと違う番号に合っている
マップに書き込んだはずの印が
一つ消えている
食事の配給に昨日はなかった
缶詰が 混じっている
どれも些細だ
一つ一つなら、見過ごせる
だが、それが一日に何度も重なると
無視はできない
また簡易ベッドに横になっても、
すぐには眠れなかった
瞼を閉じると、昼間見た顔が浮かぶ
隙間の向こうで、確かな視線が、
こちらを見ていた
_知っている気がする
そう思った瞬間、背中に冷たいものが走った
知らないはずだ
顔なんて、昔から分からない
分からないから、問題なく生きてきた
それなのに
「、、、見るな」
呟いた声は、枕に吸い込まれて消えた
意識が落ちる直前
ページをめくる音が、遠くで聞こえた気がした
そして
冷たい空気
同じ光
同じ時間
起き上がり、装備を確認する
銃、通信機、双眼鏡
ストラップは、最初から右肩に掛かっていた
胸の奥に、はっきりとした違和感が残る
これは、偶然なのか
外から、部下たちの声が聞こえる
顔の隙間は
もう隠しきれないほどに広がっていた
今日も、一日は始まる
だが、昨日と同じだとは
もう、思えなかった